リアルサウンド連載「From Editors」第21回:なぜ範馬勇次郎に惹かれるのか 戦争もジャンケンのルールも覆す“地上最強”の象徴

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

『グラップラー刃牙』範馬勇次郎に憧れて

範馬勇次郎とピクルの邂逅 | 範馬刃牙 第二期 外伝ピクル+野人戦争編 | Netflix Japan

 様々な漫画作品がある中で、絶対に負けを想像できないキャラクターがいる。『グラップラー刃牙』シリーズに登場する“地上最強の生物” 範馬勇次郎だ。

 『グラップラー刃牙』は1991年から連載がスタートした板垣恵介による格闘漫画。主人公の範馬刃牙が、父親である範馬勇次郎を倒すために“強さ”を極めていく姿が描かれる成長譚だ。

 連載当初から異色な作品ではあったが、シリーズを重ねる中で死刑囚、海賊、現代に蘇った原始人、果てには宮本武蔵のクローンが対戦相手として登場するほか、要所要所で都市伝説のような格闘技論が展開されるなど、格闘漫画としてはもちろん、一部ギャグ漫画としても愛され続ける作品である。

 そして先日Netflixにて配信がスタートしたTVアニメ『範馬刃牙』2期<地上最強の親子喧嘩編>では、範馬刃牙クロニクルの終着点とも言える、範馬刃牙と範馬勇次郎の対戦(親子喧嘩)の結末が描かれる。

 私が『グラップラー刃牙』と出会ったのは小学生の頃。当時から『魁!!男塾』『北斗の拳』『ろくでなしBLUES』『はじめの一歩』などの格闘技漫画を愛読していた私は、『グラップラー刃牙』に一発で魅了された。個性的な格闘家たちが繰り広げる心躍る試合、胸を熱くする名言、衝撃的な格闘描写はもちろんだが、幼いながらに作中で描かれる“強さ”に対する哲学に心惹かれていたのではないだろうか。

 そんな作品の中で、範馬勇次郎は圧倒的な腕力とカリスマ性を持つキャラクター。天上天下唯我独尊のエゴイスト、人間兵器として世界から恐れられ、個人で戦況を覆すほどの一国の軍隊並の戦闘力を備えている。単純な腕力のみで対個人はもちろん、対国家であったとしてもどんな望みも叶えてしまう。作中でもジョーカー的な存在で、大型猛獣のごとくシロサイ用麻酔銃の集中砲火と網で捕獲されたことはあるものの、敗北したことは一度もない。

 他人の試合に割り込んで迷惑をかけることも、不意打ちといった卑怯な戦法をとることも多々ある。ジャンケンで刃牙のグーに対して勇次郎がチョキを出した際には「覚えておけ。この世には石をも断ち切る鋏があるということを」と、相手の拳(グー)をチョキで粉砕して勝ったことにしてしまうなど、まさに傍若無人。ただ、勇次郎の強さに対する美意識、地上最強だからこそ語れる人生観に憧れない男なんていないだろう。

 <地上最強の親子喧嘩編>では、そんな範馬勇次郎の心の内にスポットが当てられる。地上最強生物として覇道を歩む勇次郎の孤独、刃牙に対する父親としての想い……。勇次郎の内面を知ることで、これまで築いてきた刃牙との親子関係に涙を流さずにはいられない。

 男と生まれたからには、誰でも一生の内一度は夢見る「地上最強の男」。

 強さとは、闘争とは何か。ただただ“地上最強”を目指して、腕っぷしだけを鍛え続けた親子がどんな結末を迎えるのか。その答えを知りたいのであれば、ぜひ『グラップラー刃牙』に触れてほしい。

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