連載『lit!』第62回:back number、[Alexandros]、blur……今年の夏のライブシーンを沸かすロック新作
[Alexandros]「VANILLA SKY (feat. WurtS)」
所属事務所UK.PROJECTの後輩にあたるWurtSをフィーチャリングゲストに迎えた新曲。これまで[Alexandros]がゲストを迎えて楽曲を制作したことは決して多くはなかったし、一方、WurtSはこれまでChilli Beans.のMoto、PEOPLE 1のIto、にしなをはじめとした同世代のアーティストたちとタッグを組んできた経緯はあったが、このタイミングで彼にとって憧れの先輩にあたる[Alexandros]とのコラボレーションが実現したことは、両者のファンにとって大きな驚きを与えたはず。しかし、実際に楽曲を聴くと、両者の相性のよさ、さらに言えば両者がタッグを組むことで生じるケミストリーの大きさをたしかに感じ取ることができる。
まず耳を引くのが、ループ性の高いヒップホップテイストのトラックだ。そのサウンドは、あえて余白を残しているかのようなラフな仕上がりで、WurtSが誇る現代的なエディットスキルが随所に光っている。その上に重なる川上洋平(Vo/Gt)とWurtSによるマイクリレーは、自由でカジュアルなフィーリングを放っていて、同じバイブスを共有し合っていることがしっかりと伝わってくる。両者が持つクールな感性を重ね合わせることで新しいロック観を提示するような、唯一無二のコラボレーション楽曲であると思う。今回、[Alexandros]がゲストを招いて楽曲を制作したこと自体に、彼らの制作のスタンスが今まで以上に開放的になっていることが窺えるし、その相手がさまざまな時代やジャンルを軽やかに越境してみせるWurtSであったことの意味合いは非常に大きい。彼から得た刺激を受けて、今後[Alexandros]がどのような進化/変化を重ねていくのかを注目したいし、ライブやフェスにおける両者の共演にも期待せずにはいられない。
にしな「クランベリージャムをかけて」
6月末から7月末にかけて開催されたワンマンライブハウスツアー『クランベリージャムをかけて』。そのツアータイトルを冠した今回の新曲は、強靭な4つ打ちのビートをフィーチャーした痛快なダンスチューン。これほどまでに直接的にフィジカルな形で訴えかけてくるナンバーは今回が初めてであり、この曲の快楽中枢を強く刺激する中毒性に満ちたサウンドは、作曲のクレジットに名を連ねている100回嘔吐とのタッグによって生まれた賜物だ。100回嘔吐と言えば、ボカロPとして活動しながら、ずっと真夜中でいいのに。や和ぬかをはじめとしたアーティストの楽曲を手掛ける編曲家でもある。にしなは、これまでもさまざまなクリエイター/プロデューサーとのタッグによって自らの表現の可能性を果敢に切り開いてきたが、今回の100回嘔吐とのタッグによって、彼女の創造性が遺憾なく爆発しているように感じた。
筆者は、先述したライブハウスツアーのZepp DiverCity(TOKYO)公演を観たが、本編の最後に披露されたこの曲がフロアにもたらした沸々とした高揚感、混沌とした狂騒感は本当に凄まじいものであった。にしなの真髄と言えば、輝かしい普遍性を帯びた美麗なメロディの力、儚くも逞しい響きを誇る歌声の力であり、それは今後も変わることはないが、にしな流のフロアアンセムとも呼ぶべき今回の新曲がセットリストに加わることで、今後の彼女のライブは今まで以上の熱さと一体感を約束してくれるものになっていくと思う。この夏も含め、既にいくつものイベントへの出演がアナウンスされており、来年には計12000人超動員のツアーが控えている。この楽曲のライブアンセムとしての輝きと存在感は、公演を重ねるごとに強くなっていくはずだ。
blur『The Ballad of Darren』
昨年のバンド再始動のアナウンス。今年の7月8日、9日の2日間にわたって開催されたバンド史上初となるイギリスのウェンブリー・スタジアムでのライブ。そして、ほとんど時を同じくしてリリースされた約8年ぶりとなるスタジオアルバム『The Ballad of Darren』。2015年にアルバム『The Magic Whip』をリリースして以降、ほとんどblurとしての動きが見られなかった近年の流れを踏まえると、こうして次々と飛び込んでくるビッグニュースは、どれも心から喜ばしいサプライズであった。何より、来週には、20年ぶりとなる『SUMMER SONIC』への出演も控えている。彼らと同時代を生きてきたリスナーはもちろん、新しい世代のリスナーにとっても、今回の待望の来日公演が特別なものになるのは間違いないだろう。
今回の新作は、タイトルに“Ballad”とあるように、スロー〜ミドルテンポの楽曲を軸に据えた作品に仕上がっている(なお“Darren”は、バンドが絶大な信頼を寄せるセキュリティ担当の名前である)。プロデュースを手掛けたのは、ジェイムス・フォード。彼は、デーモン・アルバーンとはGorillazで、グレアム・コクソンとはThe Waeveで共作の経験があるなど、まさに鉄壁の布陣で制作された一枚と言える。特筆すべきは、メンバー4人同士のたしかな円熟を感じさせるバンドアンサンブルで、久々の再始動ではあったが、全員が心地好くリラックスしたムードのなかで今作を作り上げたことが窺える。丁寧に抑制されたプレイを通してじわじわとした高揚感をもたらしてくれるリード曲「The Narcissist」をはじめ、ライブの場でまったく新しい輝きを放つであろう楽曲も多く、『SUMMER SONIC』のステージへの期待はますます高まるばかりだ。
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