堂村璃羽、なぜ“人を救う曲を作りたい”と願うのか? 会心の一曲「夢の続き feat. ゆう。」と最新EP『夢の続き』を語り尽くす

堂村璃羽、“人を救う曲を作りたい”という願い

「人を救う曲を作りたい」

 そう語るシンガーソングライター・堂村璃羽はこれまで心地好いリズムとチルなトラックに、ポピュラーミュージックの世界ではどちらかと言うとタブーとされてきたテーマに向き合ったリリックを乗せ、生きづらい世の中を生きる多くの人達の共感を得てきた。

 その彼が新たなことに挑戦しながら、2023年を自らのキャリアにおいてエポックメイキングな1年にしようとしていることは、1月30日にリリースした5thアルバム『夜景』のインタビューで彼自ら語ってくれたが、7月14日に配信リリースした「夢の続き feat.ゆう。」では夢をテーマにさらなる新境地をアピールしている。“諦めなければ夢は叶う”という、ある意味定番とも言えるメッセージを込めながら、これまで誰も聴いたことがないような曲になった「夢の続き feat.ゆう。」に震える人は筆者だけではないはずだ。

 7月16日からは全国6カ所をまわるワンマンツアーがスタート。そして、8月11日には「夢の続き feat.ゆう。」を含む計4曲を収録したEP『夢の続き』をリリースする。表題曲に加えた3曲は堂村自身の思いが反映されているという意味で、ラブソングが多かった『夜景』とはまた違う聴き応えがあるものになっていることに、ぜひ注目していただきたい。それも新たな挑戦のひとつなのかもしれない。

 『夜景』の時とはまた違う堂村璃羽の姿が見えてきた。(山口智男)

人を救う曲を作るなら、できるだけ多くの人を救える曲をリードにすべきだと思った

堂村璃羽(写真=西村満) 撮り下ろし インタビュー
堂村璃羽

――EP『夢の続き』についてお話を聞かせていただく前に、5thアルバム『夜景』をリリースしてからこれまでの近況を振り返らせてください。3月22日に「byebye」を、そして4月21日に「BLUE」と新曲を配信リリースしてきましたが、2月にはBLUE MOON MUSICというご自身の音楽事務所を設立されました。どんな理由やきっかけから事務所を設立することになったのでしょうか?

堂村璃羽(以下、堂村):ワーナーミュージック・ジャパンに所属するずっと前から、会社を作ったほうがいいと勧められていたんです。ただ、目的もないのに会社だけ作るのもどうかという気持ちもあって、なかなかその気になれなかったんですけど、現在BLUE MOON MUSICに所属しているPAREDというシンガーが「堂村さんが事務所を作ったら絶対入りますよ」と言ってくれたんですよ。PAREDとは、彼がまだ音楽をやっていない頃から仲がよくて、たまたまカラオケに行って、彼の歌を聴いた時にすごいと思って、歌の世界に引っ張ってきたんです。それからずっと彼のプロデュースをやってきて、彼も僕を信頼して、ずっとついてきてくれていて。その彼に背中を押してもらったことが大きかったですね。事務所の設立を真剣に考え始めてから1年半とか、2年とか経ってからの今作なんですけど、やっと事務所を作りましたとなった時に、せっかく事務所を作ったんだからPAREDと僕の2人だけじゃなくて、もうちょっと人数がいたほうがいいと思って、オンラインゲームで交友関係があった花風りんとゆう。に声を掛けました。

――事務所のウェブサイトでは、「音楽に特化し、所属クリエイターとともにインディーズの幅を広げ、やがては音楽という大きな界隈に 影響を届かせる思いで積極的に活動していきます」と謳っています。4月に配信リリースした「BLUE」で、〈寄り添うと決めてくれた仲間達/その愛を守り抜けるようにと〉と歌っていることを考えると、提案されたという実利的な事情よりも、実はそういう気持ち的な理由のほうが大きかったんじゃないでしょうか?

堂村:それはめっちゃあります。きれいごとだけにしたくないし、やっぱり人の下にはつきたくないタイプだし、いろいろ悪い大人も見てきているし。

――〈俺は穢れた世界を知ってる/金色の瞳を持つ大人を〉と歌っていますね。

堂村:“仲間達の愛を守り抜く”というのは、アーティストが悪い大人達に搾取されないようにという意味を込めたフレーズでもあるんですけど、そういう事務所を作りたいという思いは強かったです。若い才能とか、これから芽生えるであろう才能に、誰よりも先に声を掛けて、所属しているアーティストにちゃんとした還元ができるようにという思いを込めて作った事務所なので。言うなれば、既存の音楽業界に殴り込むというノリですね(笑)。

――事務所設立のニュースと「BLUE」を聴いて、あらためて堂村さんって男気がある人なんだって思いました。

堂村:ははは。そうですよ、“漢”ですよ。自分の周りには漢の中の漢しかいないです(笑)。さっきも話していたんですよ、僕のツレには“漢”と書くほうの漢が多いって。困っている人がいたら助ける奴しかいないです。

――そんな「BLUE」からEP『夢の続き』の先行配信として「夢の続き feat.ゆう。」をリリースするまで3カ月空きましたが、それは考えや目論見があってのことなんですよね?

堂村:そうです。アルバム『夜景』をリリースしたあとも、月1曲新曲を出す予定ではあったんですけど、EPとしてまとめて、ワンマンツアーの期間中にバン!と出すほうがいいと思いました。

――リリースされたばかりの曲をライブで聴けたら、お客さんもうれしいでしょうね。今回、「夢の続き feat.ゆう。」をリード曲として位置づけたのは、『夜景』収録の「Prima Stella」同様、この曲をいちばん聴いてほしいと考えたからなのでしょうか?

堂村:そうです。心が弱っているとか、寂しいとか、夜眠れないとか、そういう時に寄り添えるという意味で、この曲が今回の4曲の中でいちばん多くの人に刺さると思うんですよ。人を救う曲を作りたいと思っているなら、できるだけ多くの人を救える曲をリード曲にするべきだと思うし、そういう曲だからこそBLUE MOON MUSIC所属のゆう。をフィーチャリングしたんです。

――この機会に、ゆう。さんの存在を多くの人に知ってもらいたい、と?

堂村:そうです。もちろん、彼女の歌声と僕の歌声でユニゾンすることによって、僕だけでは出せない和らぎというか、ヒーリング効果も出せると思ったからというのもあるんですけど。

――“諦めなければ夢は叶う”というメッセージを込めたそうですが、“夢”をテーマにした曲を作ったことは、以前にもありましたか?

堂村:僕の経験や人生をリリックに落とし込みながら“夢”をテーマにした曲は何曲かありましたけど、誰にでも刺さるというか、いろいろな境遇にいる人が自分にも当てはまると思える、いい意味で抽象的なリリックにしたという意味では、新しいタイプの曲だと思います。

――「夢の続き feat.ゆう。」を聴いた率直な感想を言ってもいいですか? 

堂村:もちろん。

――とてもいい曲なんですが、個人的には〈夢を見てもいいのかな〉に続く言葉が〈私でも生きていいのかな〉であることがあまりにもショッキングで。もう無邪気に夢を語れる世の中じゃないんだ、現実ってそんなに厳しいんだとあらためて思い知らされて、ちょっと考え込んでしまったんです。

堂村:ああ、なるほど。でも、そう思えるのは、この曲に共感する人達よりもいい環境にいるってことなんじゃないですか?

――そうなんですよ。だから、「ショックだ」なんてぬるいことを言ってんじゃねえよって思われるかもしれないですけど。

堂村:いや、そんなことはないですよ。ショックと思えるのは、逆にいいことだと思います。たしかに、この曲を聴いてショックに感じる人もいるかもしれないですね。でも、いるんだとしたら、自分は恵まれているんだと思ってもらえたらいいし、逆にこの曲に共感する人は、同じような痛みを持った人が他にもいるんだと思えれば、少しはその痛みも和らぐんじゃないかとも思うし。どっちに感じてもらっても、プラスの正解があると僕は思います。

――すごい曲を作るなと思いました。無邪気に夢を見ることができない境遇にいる人たちが多いという印象はありますか?

堂村:うーん……僕は書いてきた曲が曲なので、そういうリスナーさんも中にはいますね。もちろん、曲が好きとか声が好きって人もたくさんいるんですけど、僕の場合、そういう弱い部分が見える活動ではあるので、僕目線では少なくないですね。

――〈一生のお願い 聞いてくれませんか?〉という最初の段落のフレーズが結びの〈だから僕のために/君に生きてほしい〉に繋がるとしたら、この曲そのものが堂村さん自身の〈一生のお願い〉なんじゃないかという気もします。

堂村:残念ながらそうではないんですけど、そういう解釈もいいですね(笑)。この曲はサビから作ったんですけど、冒頭のリリックを書く時、誰にでも覚えがあるようなことを書いたらキャッチーだし、わかりやすいと思って。何があるかなとめっちゃ考えて、出てきたのが〈一生のお願い〉だったんです。たぶん、誰でも子供の頃に一回ぐらいは「一生のお願いだから」って言っていると思います。その〈一生のお願い〉を大人になった今聞いてもらえるなら、みんな何て言うんだろう?って想像した時、安定した生活とか、休みとか、健康な体とか、本来は当たり前であるはずのものを求める人が多いんじゃないかって思ったんです。子供の頃、無邪気に言っていた〈一生のお願い〉という言葉が大人になるにつれ、いろいろな壁にぶつかるなかで現実味を帯びていき、理想のハードルが低いものになってしまったということを表現するのにこの言葉はぴったりだったと思います。

――ゆう。さんをフィーチャリングすることを前提に作ったのでしょうか?

堂村:いえ、作っている途中で入れたほうがいいと思いました。

――ゆう。さんって不思議な声の持ち主ですよね。

堂村:めちゃめちゃ上手いんですよ。「夢の続き feat.ゆう。」は、ピッチを一度もいじってないんです。しかも、17歳っていう。ただただすごいと思います。

堂村璃羽(写真=西村満) 撮り下ろし インタビュー

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