DJ KRUSH、あまりにもストイックな1時間30分 ソロライブ『KING OF DOPE』の衝撃

DJ KRUSH『KING OF DOPE』レポ

 その魅惑的な空気感から一転、後半からは怒涛のブレイクビーツを叩きつける。攻撃的なビートを、さらにサンプラーの連打で切り刻んでいくプレイは強烈だ。ともにインスト・ヒップホップのシーンを築き上げてきたDJ Shadowとフィーチャリングした1995年の楽曲「Duality」(アルバム『MEISO(迷走)』収録)が披露されると、フロアが大きく沸く。さらに、現在の音楽シーンにも多大なる影響を与えているヒップホップバンド・THE ROOTSの初期メンバーであるBLACK THOUGHTとMALIK B(故人)を迎え、DJ Shadowがリミックスをした名曲「Meiso(Klub Mix By DJ Shadow)」や、同じくDJ Shadowの代表曲「Organ Donor」など、畳み掛けるようにキラーチューンをプレイしていく。しかも「Organ Donor」では、かの有名なオルガンのフレーズを激しく分解し、超絶テクニックで再構築していくのだから、これでぶっ飛ばないわけがない。そこに、DJ KRUSHが欧州での評価を決定的にした代表曲「KEMURI」のイントロが流れ始めると、フロアの興奮は最高潮に達する。まさに「容赦のない」展開だ。


 一体、これまでに何百回、「KEMURI」を聴いただろうか。これほど中毒性が高く、何度も繰り返して聴いてしまうインストゥルメンタルのヒップホップは、他にないのではないかーーこの楽曲の魔術的な魅力に取り憑かれた人間は数多く、フロアの陶酔はそれを雄弁に証明している。発表から約30年の時を経てなお、その魔術はビート・ジャンキーたちを狂わせ続けているのだ。

 ライブの終了後、楽屋のDJ KRUSHのもとを訪れると「これまでの活動にケリをつけようと思って、今日は昔の曲もかけたんだ」「(レポートは)正直に書いてほしい。客観的な意見は俺にとっても参考になるから」と語ってくれた。


 正直なところ、DJ KRUSHのプレイは最高だと知っていたけれど、この日のライブはまた格別にクールだったと思う。熱い選曲だったのは言うまでもないことだが、DJというアートフォームの可能性をますます追求しようという気概が、プレイの隅々にまで感じられるライブだった。スクラッチやサンプリングなどのテクニカルな側面や、グルーヴを紡いでいくことでしか到達できない精神の高揚のみならず、すでにこの世を去ったものの歌声や、何十年も前に流行した楽曲を蘇らせて、現在進行形の表現とするのもDJプレイの醍醐味である。その意味で今回のライブは、現在のDJ KRUSHにしか表現できない深度と解像度で、その30年の歩みを昇華するものだったと言えるだろう。

 日本のアーティストの中では数少ない真のオリジネイターであり、DJ表現による新たな地平を切り拓いたレジェンドは、今なお次のステージを見据えているーーその孤高にして確固たるアティテュードを、まざまざと見せつけられた一夜だった。

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