アーティストやアイドルが音楽家・バンドマン役を演じる難しさ イメージの合致とリアリティが必須要素に

 歌手やミュージシャン、音楽家やバンドマンの姿を描くドラマや映画はこれまで多く作られてきた。その中でも、歌や音楽を生業としているアーティストやアイドル自身がフィクションの中でも表現者を演じることがある。想像以上の高評価を得ることもあるが、時に演じ手の存在感と作品の方向性がちぐはぐになってしまうこともあり、功罪あるキャスティングであることは間違いない。

 アーティストがミュージシャンを演じた好例はどんな作品だろうか。例えば中島美嘉が主演した映画『NANA』『NANA2』(2005、2006年)は圧倒的な1作と言える。中島美嘉のクールで繊細な佇まいはキャラクターとマッチし、映画と劇中歌唱曲は大ヒットを記録した。またYUIがシンガーソングライターを演じた映画『タイヨウのうた』(2006年)も、彼女のアーティストイメージと衒いない魅力溢れる楽曲が役柄とも強く結びついていた。自身で書き下ろした「Good-bye days」(YUI for 雨音薫名義)もまた映画とともに広く受け入れられた。

中島美嘉 『GLAMOROUS SKY』 MUSIC VIDEO Shorts ver.
YUI 『Good-bye days ~2012 ver.~』

 『アイデン&ティティ』(2003年)では、峯田和伸(銀杏BOYZ)がパンクバンドのギタリスト役として主演を務めた。本作が峯田にとって初めての演技仕事だったがそのリアリティには絶大な説得力があり、今なお根強い人気を誇る作品だ。もう少し特殊な例としてはアニメ映画『音楽』(2020年)で、坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)が主演声優を務め、音楽の素晴らしさに目覚める不良高校生を演じた。その平熱なトーンはアニメーションの空気感と強烈な化学反応を起こし、コアな支持を集めた。

映画「音楽」予告編
アニメーション映画『音楽』コメント予告編 2020年1月11日(土)全国公開!

 主演俳優以外では『リンダ リンダ リンダ』(2005年)でBase Ball Bearの関根史織、『ソラニン』(2010年)ではサンボマスターの近藤洋一が劇中バンドのメンバーを演じており、プレイヤーとして所作や仕草の面でも劇中バンドに実在感をもたらしていた。イメージの合致と確かなリアリティ。その2つはアーティストがアーティストを演じる上で欠かせない必須要素だろう。

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