シユイ×ryo(supercell)『機動戦士ガンダム 水星の魔女』EDテーマ対談 “しがらみからの脱却”を目指して引き出された歌の個性

シユイ×ryo(supercell)『ガンダム』対談

 TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(MBS/TBS系)エンディングテーマに抜擢される形でメジャーデビューした注目のシンガー、シユイ。2021年秋にクリエイターのためのコミュニケーションスペース「MECRE(メクル)」でのボカロPによる歌い手募集企画にて、jon-YAKITORYのフィーチャリングボーカリストに選出され、その後「ONI」(jon-YAKITORY feat. シユイ)のMVが公開から1カ月で100万回再生を突破した。力強くも儚さをたたえた歌声が話題になると、 2022年7月には初となるデジタルEP『思惟』を配信リリース。さらに11月9日に『機動戦士ガンダム 水星の魔女』エンディングテーマの「君よ 気高くあれ」をリリースしてメジャーデビューを果たした。

 今回はそんな勢いに乗るシユイと、「君よ 気高くあれ」のサウンドプロデュースを担当したryo(supercell)による対談が実現。クリエイター/シンガーとして互いの才能に抱く印象から、ガンダムシリーズへの印象をどのように作品に昇華していったのか。そして、さらなる活動への意欲まで、2人のクリエイティビティがたっぷり詰まったインタビューを、アニメや楽曲と合わせて楽しんで読んでほしい。(編集部)

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1クール最終回直前PV

「アニソンやボカロを聴くきっかけがsupercellだった」(シユイ)

ーーシユイさんは今回がメジャーデビューとなりますが、ryoさんは最初、シユイさんの声を聴かれた時にどのような印象を持ったのでしょうか?

ryo:音域がとても広くて、独特な声を持つ素晴らしいボーカルだなと思いました。ただ、実際の制作作業の中で最初の印象の通りになることはあまりなくて。というか音楽を作っていて自分の想像通りになることがないんです。そういう意味では今回も、最初の印象が玉虫色のように変化したなと感じます。

ーーシユイさんの方はいかがでしょうか。今回の作品で歌うと決まった時の印象は?

シユイ:最初に『水星の魔女』のエンディングテーマ曲でメジャーデビューすると教えられたんです。その時は、あまりのスケールの大きさにいまいちピンと来ませんでした。それから家に帰って、改めて過去のガンダム作品についての歴史を考えてみてから、ことの大きさに気がついて。喜びよりもプレッシャーをいの一番に感じました。

ーー楽曲をryoさんが手がけられると知った時の感想はいかがでしたか。

シユイ:デモをいただいてから、それがsupercellのryoさんの曲だということを知り、またさらに驚きました。アニソンやボカロを聴くきっかけになったのがsupercellの楽曲からだったので、ryoさんの作られる世界観にはかなり影響を受けてきました。そんな大尊敬するアーティストの方にメジャーデビュー楽曲を書き下ろしていただけると知って、舞い上がるような気持ちだったことを鮮明に覚えています。

ーー曲を実際に聴いてみて、どう思いましたか?

シユイ:イントロから、もうまさに「supercellだ!」と思いました。物語のプロローグのような、壮大でワクワクするようなイントロでした。そして曲全体を通して溢れる疾走感。あまりの緩急にジェットコースターに乗っている時のような気持ちになりました。

ーーたしかに今回の楽曲は、ごく短い時間の中で、まるで楽章があるかのようにめまぐるしく曲調が変化するのを感じます。このような変化に富んだ楽曲にしたことは、意図的なものだったのでしょうか?

ryo:この曲のテーマとして「しがらみからの脱却」をイメージして作詞したのですが、翻って長い歴史を持つJ-POPが縛られている「しがらみ」という面からもアプローチしています。それは“サビ”という概念があることなんですが、この曲は旧来型の構成ではなく、一概にサビがどことは言えないようにしたかったんです。

ーーなるほど。楽曲が目まぐるしく変化するというよりは、そもそも「Aメロ、Bメロと来て、必ずサビが来る」といった、よくあるJ-POPの定型になっていないということですね。なぜ、そういう曲にしようと思ったんですか?

ryo:『水星の魔女』が放送されるのが、日曜の17時という時間帯だということを意識しました。それは小さな子供が、アニメの内容はわからずとも目にする時間帯なんです。彼ら、彼女らは、まだ世の中のしがらみがない状態ですよね。その子供たちがたまたまこの曲を聴いて、こういう曲の構成でも、またこういう曲調でも、ありのままに普通だと感じてほしかったんです。

ーーとりわけ、アニメの視聴者の中でも子供たちに体験させたかったわけでしょうか。

ryo:次世代へと繋がっていくことを、強くイメージして作りました。そしてクリエイターとしての自分のマインドセットとしても、「音楽を作る」「音楽をやる」のではなく、「何を伝えたいか」。その点において、自分に嘘がないようにした。そうやって、様々なしがらみからの脱却を目指した結果、このような曲調になったんだと思います。

ーーそれは非常に大きな意図ですね。しかし、言ってみればよくあるパターンの曲ではないということですから、いきなりスッと歌うのも難しそうに思います。その点ではシユイさんは、聴いた時にどう思いましたか。

シユイ:果たして歌いこなせるのか、不安に思いながらもワクワクしている気持ちの方が強かったです。それに、強いメッセージ性を持っているというのは、ryoさんの楽曲ならではのポイントだと思います。最初に歌詞を見た時も、うわべだけの言葉でなくて、ryoさんがこの『水星の魔女』という作品について深く理解した上で、何度も試行錯誤した結果なんだというのが、克明に伝わってきました。楽曲をフルで聴いた後は、大きな読後感を得たように、曲中で繰り返される〈君よ 気高くあれ〉という言葉が頭の中で反芻されているのを感じました。

【MV】君よ 気高くあれ / TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』EDテーマ

ーーたしかに、楽曲全体の「しがらみからの脱却」というテーマ自体、『水星の魔女』に繋がるものですよね。ryoさんの作品は、物語の内容と楽曲が分かちがたく結びついた作られ方をしている場合が多いと思いますが、たとえばsupercellなどご自身で作品を形作る場合と、このようにアニメ作品に楽曲を提供する場合での違いはあるのでしょうか?

ryo:最近はsupercellとしての活動ができていないので、作り方の差に関して比較しづらい部分があるのですが、制作の進め方については、今わかる範囲で言えば「最初からテーマがある」「自分でテーマを見つける」「それらを組み合わせる」の三択になるんじゃないかと思います。

ーーなるほど。では、今回の『水星の魔女』の場合はどうでしょうか。作品からどんな印象を持って、楽曲に反映させていったのでしょう?

ryo:自分が最初に見せていただいたのは、途中までのシナリオと設定資料でした。この作品を見て、多くの方も最初に感じることだと思うんですが、まずはガンダムの主人公が女の子ということに驚きました。エンディングで流れる曲ということだったので、どこかで(主人公の)スレッタの台詞を絶対入れようと思ったのを覚えています。あとは、重力に関して。重力は、舞台となる宇宙では人為的に発生させなきゃいけないものだけど、地球には当たり前に存在するものですよね。人間は長く生きるうちに、当たり前のものは当たり前すぎて認識しなくなる。重力とは、そんな「しがらみ」のようなものなんだ、という気づきがあったんです。それにガンダムシリーズの「重力に魂を引かれる」というフレーズにも隣接するようなエモさを感じて、そこからAメロを発進させていきました。

「怒りや悲しみに耐えられない自分を奮い立たせるものが音楽」(ryo)

ーーシユイさんは、『水星の魔女』の作品内容を最初に知った時の感想や印象はどうだったでしょうか。

シユイ:モグモさんの描かれたキャラクターデザイン原案を目にして、すごく現代的な印象を持ちました。自分の中にある『ガンダム』のイメージとのギャップに驚いた記憶があります。そして学園ものと聞き、親しみやすそうだと素直に感じて「早く観たい!」とワクワクしました。ただ同時に、この作品の毎話に流れるエンディングテーマとして、どんな表現で寄り添ったらいいのだろうと少し不安にも思いましたね。でもryoさんから楽曲をいただいたら、そんな悩みは一瞬でどこかにいってしまうくらい、楽曲に込められた意味がダイレクトに伝わってきたので、それを私らしく表現することに注力しました。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』予告PV第二弾

ーーryoさんにとって、こういう意味深い楽曲のアイデアは、パッと思いつくものなんでしょうか?

ryo:アイデアというか、日々生活している中で自分の心にさざ波が立った時に浮かんだ言葉などは、どんな場所であってもその瞬間に、常にメモしています。そういった感情を見逃すことなく生きていると、怒りや悲しみに耐えられなくなりそうな自分に出会って。そんな自分を何とか奮い立たせるために、人はいろんなことをするんだと思うんです。それが自分の場合は、音楽で昇華させること。たまたま曲という成果物としてでき上がる人間だった、という感じでしょうか……たぶん。

ーー普段から考えていることと、楽曲提供する作品が出会うことで、まさに組み合わせでひとつの曲として完成するケースもあるわけですね。では『ガンダム』というシリーズ自体については、もともとどういう印象だったんでしょうか?

ryo:小さい頃にミニ四駆が大流行りしたんですが、その後に流行ったのが「SDガンダムBB戦士」でしたね。あわせて、カードダスだったりゲーム「SDガンダムワールド ガチャポン戦士」だったり、そのあたりが自分の『ガンダム』との最初の接触だった気がします。けど、その頃はアニメは見ていませんでした。というのも、再放送か何かで『機動戦士ガンダム』の最終回が流れているのを見てしまい、それがトラウマのような感じになって……。

ーーアニメ以外から知ったんですね! それは『機動戦士ガンダム』世代の僕からすると衝撃です。

ryo:その後、森口博子さんの歌う『機動戦士ガンダムF91』のテーマ曲を聴いてめちゃくちゃ感動して。「これはたくさんの人に聴かせないと!」と思い、放送委員だった自分は、クラシックしかかけてはいけなかった小学校の給食の時間にこの曲をかけたんです。そしたら、今でも名前を覚えてる音楽の山田先生、めっちゃ怖い女性の先生だったんですが、音楽室の前に一人呼び出されてめちゃくちゃ怒られました。悔しかったな……。

ーー音楽に感動するというのは、アーティストとなる、後のryoさんを少し思わせるところもありますね(笑)。

ryo:話が逸れましたが、大人になってからTSUTAYAでDVD半額レンタルというのがあって、その時に様々な映画やアニメを片っ端から借りていくということをしていく中で『機動戦士ガンダムSEED』に出会いました。これがアニメにめちゃくちゃハマったきっかけで、その後は遡るように『第08MS小隊』『逆襲のシャア』『ZZ』『Z』、そして『機動戦士ガンダム』と追体験しました。昔はある意味避けていたわけですが、『ガンダム』は自分で体験することで初めて『ガンダム』になるんだと、今ではそう思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる