ぼっちぼろまる×まご山つく蔵、「おとせサンダー」などMV制作を語り合う クリエイター同士の共鳴から膨らむ妄想爆発の世界観
シンガーソングライター/バーチャルYouTuberのぼっちぼろまる。昨年の6月にリリースした「おとせサンダー」がTikTokを中心に大きなヒットを巻き起こし、先日Billboard JAPANが発表した「年間TikTok Songs Chart」では見事1位に輝いた。
そして、この楽曲について語る上で欠かせないのが、イラストレーター/映像作家のまご山つく蔵が監督を手がけたMVだ。1月上旬現在、YouTube上の再生回数は900万回を突破しており、1,000万回の大台に乗る日も遠くはないはずだ。
今回は「おとせサンダー」のほか、同じくまご山が監督した「シン・タンタカタンタンタンタンメン」のMVの内容を軸に、両者の対談インタビューを行った。それぞれメインの活動領域やアウトプットの方法は異なるが、対談を通じてお互いに共鳴し合う価値観が浮き彫りになった。ぜひ、2本のMVと合わせて読み進めてほしい。(松本侃士)
「懐かしいだけではなく、新しさも感じさせるテイスト」(ぼろまる)
ーーまずはじめに、お二人が接点を持ったきっかけから聞かせてください。
ぼっちぼろまる(以下、ぼろまる):今回のMVを作ってくださる方の候補を、Twitterを見たりしながら探したりしていて。で、知り合いの人から「いい人たくさんいるよ」といろいろなクリエイターの方を教えてもらったんですけど、その中にまご山さんがいて、「おっ、見つけた」っていう感じでしたね。
まご山つく蔵(以下、まご山):私は、もともとぼろまるさんのことを存じ上げていて。なので、声をかけていただいた時はもうびっくりでしたね。高校生の時から「タンタカタンタンタンタンメン」とか好きだったので、もう絶対に引き受けたいと思いました。
ーーぼろまるさんは、初めてまご山さんを見つけた時に、まご山さんの作品のどのような点にビビビっときたのでしょうか?
ぼろまる:僕、すごく漫画が好きで、今回のMVは漫画チックなものが良いなと思っていて。そういう視点で探した時に、まご山さんの絵ってかなり漫画チックというか、迫力を感じてピンとくるものがありました。あと、今回はレトロなテイストが欲しいなと思っていて。ただ懐かしいだけではなく、その中に新しさも感じさせるようなテイストを今回は表現したかった。まご山さんの絵を見て、それをめちゃくちゃ発揮されている方だったのでお声がけさせていただきました。
まご山:嬉しすぎる。迫力は初めて言われましたよ。
ーー今、ぼろまるさんがおっしゃったまご山さんのクリエイターとしての特色については、まご山さんも自身の強みとして認識していた部分だったのでしょうか?
まご山:めちゃくちゃ狙い通りです。
ぼろまる:策士だな(笑)。
まご山:私自身、そういうレトロっぽい色使いが好きで。それをちゃんと出そうって意識していたから、ぼろまるさんにしっかりと受け取っていただけてすごく嬉しいです。
ーーまご山さんは「おとせサンダー」のデモを初めて聴いた時に、どのようなことを感じましたか?
まご山:やっぱり、ぼっちな男の子の妄想大爆発っていう部分は共感の嵐でしたね。自分も暗い青春時代を送ってきた側の人間なので、すごく共鳴しました。いわゆる“俺、強え系”というか“なろう系”というか、我々のようなぼっち側の人間が見て溜飲を下げるようなコンテンツってあるじゃないですか。この曲も、1番はそうした世界がバンバン展開されていて、ギターサウンドもめっちゃかっこいいんですけど、2番から急に現実を突きつけられる展開が始まって「おっ」と思いましたね。物語の主人公が、ちゃんと現実や自分自身と向き合う展開があるぞって。そこがこの曲の物語のフックになっているので、そこを中心にしたMVを作りたいと思いました。
ぼろまる:共感してくれてめちゃくちゃ嬉しかったです。実はOKをもらえるまでは、二択かなと思ってたんですよ。やっぱりおしゃれな絵を描かれる方なので、「ぼっちぼろまるとかあんま趣味じゃないです」みたいなパターンもあるかなと思って。でも、いざ話してみたら、意外とけっこうオタクだったので(笑)。
まご山:よく言われます。
ぼろまる:ギャルのマインドも持っている方な気がするんですけど、その一方で、オタクマインドも持ち合わせているなって。
まご山:その塩梅は、ぼろまるさんにも感じるところはありますね。「ぼっち」っていうお名前をつけていて、実際にぼっちマインドもあると思うんですけど、ライブとかもすごく盛り上げていて、バンドマンらしいイケてるところもビンビンにある方で。それでいて、自分の可愛さを理解しているみたいなあざとさもあるし。あとやっぱり、ぼっちって言ってますけど、全然こうやって普通に人と話せる方なんですよね。
ぼろまる:たしかに、まあそうですね、イケてるところもあります(笑)。
まご山:(笑)。
「ぼろまるさんの曲は“希望があるんだ”って思わせてくれる」(まご山)
ーーぼろまるさんとしては、実際に完成した「おとせサンダー」のMVを観て、どのような感想を持ちましたか?
ぼろまる:もう本当に素晴らしいものができたなと思って。僕が思い描いていたストーリーの一歩上をいってくれたな、みたいな。例えば最後、現実で戦うシーンって、実は僕はあんまりはっきりとイメージできていなかった部分なんです。けどああやって、バケツで敵を倒してヒロインの女の子を連れて帰って、でも恋に落ちてはくれないという展開を作ってくれて。これから先の展開がどうなるか分からない感じがすごくいいと思って。あの女の子の名前、何でしたっけ?
まご山:まどかちゃんっていいます。モテモテなマドンナだから茂木まどかちゃん、っていう名前を実はつけています。
ぼろまる:そのまどかちゃんがめっちゃ可愛いって思って。制作していただいたMVは、一人のリスナー目線で楽しめましたね。
ーーまご山さんは、複数人のクリエイターと協働しながらチームでMVの制作を進めていく中で、ご自身で手を動かしつつも、全体の監修の役割を担っていたと思います。今回のMVを作るにあたって、特に大切にしていたことや、譲れないポイントなどはありましたか?
まご山:先ほど、最後にヒロインのまどかちゃんが恋に落ちてくれないという話があったじゃないですか。完成版は、まどかちゃんが呆れ顔で主人公の男の子に手を引かれるシーンで終わるんですけど、最初に絵が上がってきた時はまどかちゃんの目がキラキラしていたんですよね。ここはアニメーターの方とも話し合って悩んだんですけど、やっぱり目をキラキラさせてるのは自分の解釈と合わなかったので。ここで恋に落ちちゃったら、この曲の大事な部分、つまり一歩引いた現実的な視点がなくなっちゃうと思って。なので、そこは修正をお願いしましたね。
ーーまさに、このMV全体の印象を左右する大切な部分ですよね。
ぼろまる:そうですね。だって主人公の男の子は、盗聴器を仕掛けたりしてますからね(笑)。
まご山:やばい奴ですから(笑)。
ぼろまる:一方でまどかちゃんも、けっこうマジでやばい男について行くみたいな迂闊なところがあって。
まご山:どっちも若くて未熟ですから。例えば、もし男の子の恋が成就するラストだったら、女の子側からすると「いや、そいつ盗聴器を仕掛けてるような奴だけどいいの?」ってなるはずですし。一方で、女の子が完全にふっちゃうと、男の子に助けてもらっておきながらそれも違うかなと。あれぐらいの落とし所がちょうどいいバランスだったのかなって思います。恋愛って、そんなにすぐに答えが出るものでもないので。
ぼろまる:とりあえず友達から始めて、もうちょっと二人ともいろいろ経験して成長してから、また再会して一緒になってくれたらいいなと思いますけどね。
まご山:ただ、ラストの着地に関しては、けっこう最後まで悩みました。
ぼろまる:でも、すごくいいと思います。最後、恋の決着はつかないけど、「なんかいけるかも」「これから先、楽しいことが起こるかも」という予感がしっかりとあるので。
まご山:あまり自分の作品について語りすぎるのも野暮かもしれないんですけど、MVの最後にQRコードを出すシーンがあるじゃないですか。それを読み込むと、あの女の子の「ってかさー、まず友達になろうよ。あとおとせくんクラスLINE入ってないよね?招待しとくー」という台詞が出てくるんです。それで最後は、主人公の男の子がクラスメイト全員から見つめられて終わりっていう。もともとはクラスで全く友達がいなくて、一人で机に突っ伏して寝てたけど、最後はこれをきっかけに友達ができるかもね、みたいな余韻を残して終われたらいいなと思って。で、次の「シン・タンタカタンタンタンタンメン」のMVでは、成長した主人公がクラスメイトと一緒にちらっと映っているんです。
ぼろまる:主人公の男の子に友達ができていたよね。
ーー主人公の男の子の目線でいうと、恋愛云々だけではなく、殻を破ってその先に広がる世界に向けて一歩踏み出した感じがしますよね。とても大きな成長を感じます。
まご山:まさに、そこが一番描きたかったところかもしれないですね。私は、ぼろまるさんの曲の、最後には「希望があるんだ」って必ず思わせてくれるところがすごく好きで。私自身もそういう点に特に共感しているので、明るすぎず暗すぎない世界観や、ちょっと駄目なところもあるけれど愛おしいキャラクターを通して、ぼろまるさんの曲を彩ることができてとても嬉しいですね。