PANTA(頭脳警察)×鈴木慶一(ムーンライダーズ)=P.K.Oが突然の再始動 古希を超えた今だからこそ紡げる言葉と音楽

P.K.Oが語る、今だからこそできる音楽

歌ってほしい人に、今、歌ってもらいたい(鈴木)

ーー今剛さん、平井光一さんと、後に日本の音楽界で大活躍されることになるギタリストふたりもHALのメンバーで、その主張を抑えながらバランスを取るのは難しいことだったんじゃないですか?

PANTA: 今剛はあのときまだ10代で、生意気でねえ(笑)。

鈴木: しかも彼らは初のレコーディングだから気合い入りまくりなんだよ。覚えてる?   コーラスを録るときに、すごく複雑な和声を作ってきてさ。譜面化はできるけど、それを音源化するのは至難の業で。これ以上やっても無理じゃないかって、いつ言おうかと思ってPANTAのほうを見ても、PANTAは黙っているし。でもそのまま続けたら100万時間かかっちゃうから、彼らも納得するような言い方で「別の方向を考えよう」って伝えなきゃと考えて。その話術をあのレコーディングで覚えたね。プロデューサーとはこういう役割なんだとハッキリ認識したよ。

ーーそれが慶一さんにとっての初のプロデュース作品だったわけですよね。

鈴木: そうだね。それまでも真似事みたいなのはあったけど、知り合いじゃない初めてのミュージシャンたちの力量を計りつつ、どこまでどういうふうにやるかを考えてプロデュースしたのはあれが初めて。PANTA&HALで『マラッカ』と『1980X』の2枚作ったけど、その2作で果てたって感じだった。

PANTA: 胃に穴が空いたんだもんね。

鈴木: そう。そのあとPANTAは『KISS』でスウィート路線に行ったわけだけど、私がもし『KISS』をプロデュースしていたら、今回の曲みたいになったかもしれない。

ーーあ、それは僕も思いました。

鈴木: 思った?  ありがとうございます。あのアルバムは私は関わってないけど、関わっていたら今回のP.K.Oのこの感じになっていたかもしれないなと。まあ、後付けですけどね。でも、『KISS』が出たときに、どっかの雑誌で私がプロデュースしているんじゃないかって書かれたんだよ。してないのに。巻き込まないでくれって感じだよね。不買運動が起きたアルバムだったから、私は逃げたかった(笑)。

PANTA: 大変でしたよ、あのときは。ロックンローラーがうたう歌じゃないとか言われてね。レコード会社からも反対されて。よく出してくれたよね。自分としては、本当は18~19の頃にああいうポップスをやりたかったんだけど、頭脳警察の道を選んじゃったもんだから。30になったときに、もう10年ちょっと筋を通したんだから、いいじゃんってことでやったんだけど、PANTA&HALを上回るハードなものが来るだろうと予想していたやつらから裏切られたと言われ、不買運動が起こり、脅迫状まで来たからね。

ーー『KISS』も『唇にスパーク』も僕は好きでしたけどね。だから今回のP.K.Oの曲もスッと馴染んだし、言葉数の少ないシンプルな歌詞でありながらすごく深みがあって、あそこから約40年分の深化を感じました。若い人よりも、ある年齢に至った人にこそ、より響く歌詞かもしれませんね。

鈴木: そうなんだよ。すごく素直に気持ちを出したものだからね。昨日取材に来た方が、「これは深読みしたらどうなるんでしょう?」って言っていたけど、勝手にやってって感じ。「これってこういう意味なんじゃないか」とか別の意味を探りたくなる人は多いみたいだけど、深読みはどんどんしてもらったほうが面白がれる。

ーー「あの日は帰らない」もそうですけど、思いを真っすぐ書かれていて、着飾っているところがまったくない。今はこういう境地なんだなと思いました。

PANTA: うん。慶一とやっていると、言葉を選ばないし、共通した世界を泳いできたから説明がいらないんだよね。音を出してくれれば、それに準じて行ける。あとは果たして聴いた人がどんな反応を示すか。『KISS』のときみたいに卒倒する人がいるかもしれないけど(笑)。

ーー僕は「クリスマスの後も」を聴いて、ちょっと泣きました。

鈴木: もうひとり、泣いたって言っていた人がいたね。泣かそうと思って作ってないからいいのかな。

PANTA: 歌うやつが泣かそうとか思っていたらダメだよね。あと、演者が泣いてもダメ。ときどきいるでしょ?  そういう人。冷めちゃうよね。

ーー久しぶりにP.K.Oで今回一緒にやられたわけですが、慶一さんから見て、PANTAさんのすごいところは、どういうところですか?

鈴木: PANTAからは「違うよ」って言葉を聞いたことがないんだよ。「そうだよね」が一番多いと思う。そこがすごいところで。それともうひとつは、判断基準を明確に持っているところ。例えば昔、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)という番組に出ていいものかどうかわからなくなったことがあってね。PANTAに相談したら、「出ていいんじゃないの」と。またあるとき映画出演の話がきて、これは出ていいものかどうか考えて。それでPANTAに相談すると、「出たほうがいいよ」とハッキリ言ってくれる。要するに、差配してくれるわけだ。迷ったらPANTAに聞いて、委ねるんです。

ーーではPANTAさんから見て、慶一さんのすごいところは?

PANTA: 慶一は好奇心がエネルギーになっているんだよ。子供みたいな好奇心を持ち続けているのがすごい。クリエイターにとって好奇心は一番大事なものだからね。慶一はスタジオに入るとそれが爆発するの。それでいてアカデミックに、クレバーな判断を下すし。あと、俺の話を全部拾ってくれる。

鈴木: ときどきボソッとPANTAが呟くんだ。「これってこうしたほうがいいんじゃないかな」って。私に言っているんだろうけど、独り言のように呟くわけ。それが耳に残って、翌日、それを反映させたりする。それがPANTAなりのプロデューススタイルなのかもしれないね。

PANTA:俺も慶一がボソっと言ったことは頭に残るよ。でも議論とかそういうのはいらないんだよね。慶一が何をやりたいのかがわかれば、それに準じて乗っかるし。だからこの先、P.K.Oが果たしてどう進化していくのかも慶一の頭のなかにあることで、俺はもう100%、慶一の意向に沿うようにしたいんだ。

ーーさっき、既に5曲録れていると話していましたが。

鈴木: うん。それをミニアルバムにして出すのか、それとも私がもう何曲か作ってフルアルバムにして出すのか、まだわからないんだけど。

PANTA: ここまで録ったのが、PANTAとKEIICHIの「PK戦」だとしたら、2023年の作業はそのあとのことだから、PANTAとSUZUKIの「P.S.I LOVE YOU」だろうって言っているんだけどね(笑)。

ーーPANTAさんは今、頭脳警察の新作も作られているんですよね。

PANTA: そう。メンバーが忙しくて、スケジュールをおさえるのが大変で。だから、リモートで録ったり、ベースをあとにしてドラムとギターだけ先に入れたり。デジタルじゃなかったらできない世界。やらなきゃいけないことがまだまだ残っているんですけどね。まあ、それとは別に、今はP.K.Oの配信を楽しみにしているところなので。あ、あと、頭脳警察の物販を手伝ってくれている女の子に曲を作っちゃったんですよ。藤沢玲花……ネコちゃんっていうんですけど、頭脳警察の曲もまだできてないのに、声がいいから勝手にその子にフレンチポップスを作っちゃって、それも12月25日発売。

鈴木: 勝手に作っちゃうって、すごいね(笑)。配信の時代だからこそできることだよね。

PANTA:それは本当にそう。

鈴木: いろんなことがやりたくて、それをやれるときなんでしょう。

PANTA: そうだね。昔はこんなふうにはできなかった。

鈴木: 昔はいっこいっこじっくりやる感じだったけど、今はそんなこと言っていられないぞってことだ。私もそうだけど、どんどん作っていきたいなという気持ちが強い。今やらないとってことだね。歌ってほしい人に、今、歌ってもらいたい。

PANTA: うん。さっきの京アニの話じゃないけど、伝えられるときに、伝えたい人に、伝えたいっていうことなんだ。

■リリース情報
『クリスマスの後も/あの日は帰らない』
配信中

<収録曲>
M1「クリスマスの後も」
M2「あの日は帰らない」

公式サイト

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