『アウトレイジ』『若おかみは小学生!』……鈴木慶一が手がける映画音楽の魅力

 ここ最近、映画音楽の世界が面白くなってきている。その大きな理由は、ロックやポップス、テクノなど、様々な分野で活動するミュージシャンが、映画音楽を手掛けることが多くなったこと。彼らはクラシックやジャズをベースにした映画音楽の作曲家とは違う感覚で、映画音楽に新しい切り口や手法を持ち込んだ。日本の映画界では、岸田繁(くるり)、向井秀徳(ZAZEN BOYS)、曽我部恵一など、日本のロックシーンを代表するアーティストが次々とサントラを手掛けてきたが、そんななかで、とりわけ高い評価を得ているのが鈴木慶一だ。

鈴木慶一『映画「アウトレイジ 最終章」オリジナル・サウンドトラック』

 はちみつぱい〜ムーンライダーズと日本のロック史における重要なバンドのフロントマンとして活動してきた鈴木が、本格的に映画音楽を手掛けるようになったのは90年代に入ってから。それまで、鈴木はCMやゲーム音楽、演劇などの音楽も手掛けて、職人としての器用さも身につけていたが、映画は音楽同様に鈴木にとって特別なものだった。ムーンライダーズ時代には、全曲に映画にちなんだタイトルをつけたアルバム『CAMERA EGAL STYLO / カメラ=万年筆』や、『NOUVELLES VAGUES / ヌーベル・バーグ』という1950年代末にフランスで起こった映画運動をアルバムを発表するなど、鈴木にとって映画から受ける刺激は大きかった。鈴木が映像的な感覚を持ったミュージシャンであることも、映画音楽の作曲に向いていた理由のひとつだろう。

 鈴木が手掛ける映画音楽の特徴のひとつは、ムーンライダーズのサウンドにも通じる、多彩な音楽性とポップセンスだ。例えば『チキン・ハート』(2002年)では、「アコーディオンを使った音楽にしたい」という監督の要望を受け、タンゴやシャンソン、テックスメックスなど、アコーディオンが使われる音楽を模索。しかし、それらが監督のイメージに合わないことを知ると、そういったジャンルには収まりきらない無国籍なアコーディオン音楽を生み出した。また、ムーンライダーズのメンバーと参加した『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)に提供した曲は、生音とシンセを緻密に組み合わせた凝った音作りで、テクノ/ニューウェイブをリアルタイムで吸収した鈴木のストレンジなポップセンスが光っている。極めつけは、ベートベン「交響曲第9番」をカバーした主題歌「No.9」で、80’sものトラックで構築したサンプリングオーケストラのようなサウンドは圧巻だ。こうした音響的なこだわりも、鈴木の映画音楽の重要な要素なのだ。

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