PANTA(頭脳警察)×鈴木慶一(ムーンライダーズ)=P.K.Oが突然の再始動 古希を超えた今だからこそ紡げる言葉と音楽

P.K.Oが語る、今だからこそできる音楽

俺は今まで歌のなかで「愛してる」なんて言えなかった(PANTA)

ーームーンライダーズのときとは違うわけですか?

鈴木: ムーンライダーズは白井良明というギターの名人がいるからさ。白井良明から何が出てくるかを待つわけだよ。でも『It’s the moooonriders』では『S.A.D』という曲の録音の時、ふたりでギター弾いて、どういうノリが出るかというのを30分くらいやった。普段私はあんまり弾かないんですけどね。PANTAとだと、あまり考えないで弾きたくなるんです。ユニットの時はそうですね。

PANTA: 自分も慶一にベースを弾けと言われると嬉しくなる。

ーー「クリスマスの後も」は、PANTAさん、ベースも弾いていますもんね。

鈴木: PANTAのベースは本当にいいのよ。90年代の何かのレコーディングで、ベーシストとして呼ぼうかと思ったくらい。

PANTA:呼んでよ~。

ーーこれまでレコーディングでベースを弾かれたことって、ありましたっけ?

PANTA: ケラがプロデュースした『ヤマアラシとその他の変種』というアルバムのエンケン(遠藤賢司)が歌っている曲(「岡本太郎の眼(マーシャルや強者共が夢の音)」)で弾いている。

鈴木: エンケンとブラボー小松というどちらも轟音を出す人がギターを弾いて、PANTAがベースを弾いて、私がアレンジして。あの轟音たるや! 私はブースに逃げ込んで、さらにヘッドホンして耳を防御。

ーー「クリスマスの後も」の話に戻りますが、PANTAさんがクリスマスソングを歌うのはこれが初めてですよね?

PANTA: 初めてです。さっき言ったように、クリスチャンでもないのにクリスマスに騒ぐんじゃねえよってイベントをやってきたくらいだから。アンチクリスマス。そのくせ最近は『UNTIX’mas』にアイドルが来てケーキ食べたりしているから、アキマツネオとかに「普通のクリスマスと変わらないじゃないか」って文句言われているんだけど。

鈴木: アンチクリスマス、アンチクライストとか言いながら、隠れキリシタンの役をやっているじゃない?!

PANTA: そうなんだよ。マーティン・スコセッシの『沈黙-サイレンス-』に十字架背負って出ちゃったからね。すいません、みなさん(笑)。

ーーで、歌ってみて、どうでしたか?

PANTA: いやぁ、いい歌だなぁと。山下達郎は〈きっと君は来ない〉と歌っているけど、こっちは〈ずっと 一緒にいようよ〉だからね。挑戦状を送ろうかと(笑)。慶一はこれ、どういうときに作ったの?  慶一のなかでも異色でしょ?

鈴木: うん、異色。クリスマスが出てくる曲はムーンライダーズにもあるんだよ。かしぶち(哲郎)くん作曲の「スプーン一杯のクリスマス」とか。高橋幸宏にクリスマソングな歌詞を提供したりね。でもこんなに素早く出来たのは初めてだな。どういうときに作ったかというと、ずっと一緒にいたい人がいるじゃない?  ずっと一緒にいたいんだけど、こういう世の中になると、いつ一緒にいられなくなるか、わからないわけだ。パンデミック含めて、そういう世界が目の前にリアルにあるわけだよ。それで、クリスマスというのはひとつのイベントだけど、イベントが終わっても一緒にいたい人とは一緒にいたいじゃない?!  クリスマスが山だとしたら、そこから大晦日まではなんかへこんだ感じになるけど、そこらへんも継続した気持ちでいたい。私はアンチクリスマスを唱えたりするわけではないけど、クリスマスにはすき焼きを食べるんですよ。にわとりかどっちか、毎年変わる。そういうタイプなんです。特に盛り上がったりはしない。昔ひとりで暮らしているときは、クリスマスほど腹が立つときはなかったからね。ナンシー関さんも書いていたけど、テレビも街もクリスマス一色になって、すごく嫌だった。

PANTA: 今はハロウィンがそうだね。

鈴木: うん。とにかくそうやってイベントがあると盛り上がるという傾向があるけど、それはちょっとしたでっぱりであって、普段は静かで、なんでもない日常が繋がって1年がある。そういう1日1日を大事にしたいねってことを歌にしたかったんだよ。

PANTA: 本当に何気ない日常のひとつの光景を描いている歌でね。自分が胸を患い、療養生活に入ってライブもできないっていうときにこの曲がきたから。「元気でいたいな」って、自分では口に出してそんなこと言えなかったけど、これはやっぱり響きましたよ。今後どうなるのか自分でもわからないってときだったから。

ーー僕も聴かせていただき、慶一さんがご病気のPANTAさんに送るというイメージで書かれた曲なんだろうなと感じました。

鈴木: 家族にしても友人にしてもバンドのメンバーにしても、いつまで一緒にいられるかわからないという状況はあるものなんだよね。そういうことを払拭して、クリスマスなんていうイベントだけじゃなく、日々の積み重ねを一緒にしたいねということ。明日も。そういう歌ですね。

PANTA: 現実として毎日毎日、いなくなっていくことが多いから。この前たまたま『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観ていて、それは京アニ(京都アニメーション)のあの惨劇のあとに初めて完成された作品なんだけど、最後に「あいしてる」の5文字が出るわけですよ。それで全スタッフの名前がクレジットされる。伝えられるときに、伝えたい人に、伝えたいっていう、京アニの全ての心を感じて、それが「あいしてる」に集約されているんだと思ってね。俺は今まで歌のなかで「愛してる」なんて言えなかったんだけど、男と女の愛だけじゃなくて、もっと広域な意味でのそれを慶一と同じように感じるわけ。

ーー「あの日は帰らない」はまさしくそういう歌ですね。

鈴木: そうだね。〈キミが 好きだよ〉って言っているんだけど、いつまでも永遠に言うことはできないという思いが含まれている。だから今、言っておかないとっていうことなんだろう。

PANTA: 明日じゃなくてね。今、伝えられるときに、伝えたい人に、伝えたい。

鈴木: 自分としては、今、歌わせたい人に、歌ってもらいたいってことだね。

PANTA: 歌は、ちょうど患っているときだったから、力が抜けてよかったですよ。

鈴木: 歌の録音はゴンドウトモヒコくんのスタジオで録りまして。THE BEATNIKSもNo Lie-Senceもソロも録ったところで、そこに行くと何かどんどん閃いていく謎の場所なんだけど、通常、歌は録音ブースに入って録るわけですよ。でもPANTAがわざわざ別の部屋に入って立って歌うのも面倒くさいだろうから、「ソファに座って歌えばいいじゃない?  そんなに大きな声じゃなくていいから」と言って。PANTAはちょっと不安になったみたいで、翌日「あんな歌い方でよかったのかな?」って言っていたけど、今までにない感じですごくよかった。「ステファンの6つ子」を歌うときとも「さようなら世界夫人よ」を歌うときとも違って、もっとソフトな歌なの。

PANTA: それは慶一のキーの設定が絶妙だからね。普通はあそこまで低いと1音か2音上げるもん。それをしないで、ウィスパーに近いような歌い方を引き出してくれたのは、慶一のコントロールの確かさだよ。

慶一: 初めに半音上げたり1音上げたりして、一番ソフトに歌えるであろうキーを選んだんだ。シャウトしないギリギリのところで優しく歌ってもらうことが重要だった。

ーー自然に歌えました?

PANTA: そうだね。もっとソウルフルに歌いたかったのは確かなんだけど、こういう歌い方を引き出してもらえてよかったと思う。こんな歌詞もこんな歌い方も初めてのことだから。

ーー慶一さんはその人の新しい面を引き出すことに長けてらっしゃいますよね。思えば『マラッカ』でもPANTAさんのこれまで出していなかった面を引き出していたわけで。

鈴木: ただ、あのときは私が加わる前に、すでにサウンドもアレンジメントも相当できあがっていた。PANTA&HALのバンドサウンドができあがっていて、ライブを観に行ったときに、これは以前のPANTAと全然違うなって思ったんですよ。すごくソフィスティケイテッドされていた。そのときに、あまりにソフィスティケイテッドされすぎてもPANTAの個性に合わないんじゃないかと感じてね。だからいい塩梅にソフィスティケイテッド量を減らして、ちょうどいいところまで持っていくのが重要な作業だった。

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