YOASOBI、“日本語のように聴こえる英語詞”はどう生まれた? 訳詞担当 Konnie Aokiに聞くこだわりの手法

YOASOBI 訳詞担当に聞く手法

 YOASOBIが先日、88rising主催フェス『Head In The Clouds』インドネシア・ジャカルタ公演およびフィリピン・マニラ公演に出演。初めて海外でライブを披露した。それに先駆け、11月18日には英語版音源第二弾『E-SIDE 2』も配信。“日本語のようにきこえるが全編英語詞”の空耳リリックでも昨年話題となった「Into The Night」(「夜に駆ける」英語Ver.)はじめ、『E-SIDE 2』でも訳詞を手掛けているのがKonnie Aokiだ。元の歌詞を直訳するにとどまらない、徹底した原曲への理解があるからこそ生まれる訳詞、Konnie Aokiのキャリアとともにそのこだわりに迫る。(編集部)

日本語と英語が「空耳」のゾーンまで到達した時に感じた手応え

――これまでどんなキャリアを歩んできたんでしょうか?

Konnie Aoki:元々はバンド活動をしていたのですが、上京したときにクラブカルチャーと出会い、ヒップホップやダンスミュージックが1人で作れることを知って衝撃を受けたんです。それがきっかけでトラックメイキングを始め、曲を作っていく中で徐々にアレンジャーやトラックメイカーとして仕事をいただけるようになりました。当時はまだ現在のKonnie Aoki名義ではなかったのですが、様々な制作現場に立ち合ううちに、やがてレコーディングやミックス現場等の制作進行含むディレクション業務も担当させていただくようになりました。

 歌詞や翻訳の仕事については、ディレクターとしてレコーディング現場にいる際に、歌い手さんから「ちょっとここのワードがしっくりこないから歌詞を英語に変えたい」などのリクエストがあることが何回かあって。たまたま英語が得意だったこともあり、その相談に乗ったり歌詞の提案をしたりしていたところ、それを見ていたスタッフの方から「自分でも書いたら?」と提案をいただきまして。そういった流れで作詞や翻訳のキャリアもスタートし、有り難いことにいろんな形で拡がって現在に至っています。

――英語が得意ということですが、海外への居住経験が長いんでしょうか?

Konnie Aoki:実はそんなに長くなくて。10代の時に短期間ですがオーストラリアにいたことがあるのと、その後、上京してクラブミュージックとかヒップホップが好きになってから、それが生まれた土地に行かなければならないという使命感で20代の時にニューヨークに1年弱行ったりしたのが大きい海外経験ですね。

 加えて、日本での自分の周りの環境 たとえば一緒にいる友達だったり、学校だったり、遊んでる場所や仕事の現場も含め ずっと海外の異なる文化に触れているのがデフォルトみたいな感じで生きていたので、英語は自分の生活のどこかにずっとありましたね。

――そんな中、YOASOBIの楽曲の英語訳詞を手がけることになったのにはどんな経緯があったんですか?

Konnie Aoki:いろいろな制作の仕事をさせていただく中でYOASOBIさんが所属しているソニーミュージックの別アーティストさんの作品で英語歌詞とレコーディングディレクションを担当したことがあり、その現場にいたソニーの方が自分の仕事を見てくださったんです。ちょうど同じタイミングでYOASOBIさんサイドで楽曲の英語版を作ろうという企画が進んでいたようで、訳詞は誰に頼もうという話し合いの際に光栄なことにその方から自分の名前をプロジェクトに推薦をいただいたと伺いました。最初に話がきた時、「まさか。。⁉︎」と半信半疑だったのですが、最初のお打ち合わせで「本当だ……」と分かって覚悟を決めたのを覚えています。

――すでに大人気の曲の英語訳詞を担当すると聞いたとき、どんな思いがありましたか?

Konnie Aoki:YOASOBIの楽曲がものすごく人気なのはもちろん存じていましたし、多くのリスナーに愛されている曲を英語にするにあたっての責任感というかプレッシャーが当たり前のように凄かったですね。また、お打ち合わせの時にリリースされている全曲の英語版を作りたいというお話も伺いまして、そんなボリューム感で歌詞翻訳のオファーをしていただくのも初めてだったので、緊張とともに、“必ずいいものにしなければ”と改めて決意が固まりました。

――「Into The Night」(「夜に駆ける」英詞Ver.)が発表された時は、英語の響きが日本語歌詞とリンクしていて「空耳リリック」が大きな話題になりました。英語に訳す際に意識されたことはどういった内容だったのでしょう?

Konnie Aoki:最初に向き合った曲が「夜に駆ける」だったんですけど、爆発的な認知度のスーパーヒットチューンなのでこの曲が大好きで何十回、何百回と聴いている人たちがすでにたくさんいるような状況だったんです。なので英語版でも歌詞の内容はもちろん、音楽的な言葉の響きという点でも日本語版と英語版で違和感がないようにしよう、Ayaseさんが音楽としてこういう風に言葉を鳴らしたかったのだろうというこだわりを英語でも全部実現しようと思って作業に臨みました。

 一般的に日本語を英語にする際に「この内容を言語として置き換えたらこの言葉」っていう翻訳のルーティーン的なものがあるんですけど、それをそのままやると日本語と英語で母音も子音も響きが違ってしまい、メロディにはめると音楽としてガチャガチャしてしまうことが結構あるんです。でも絶対そういうふうにはしないぞと(笑)。

 しかもYOASOBIの楽曲の歌詞の奥には原作となっている小説があるじゃないですか。歌詞が持つ意味合いがストーリーとリンクして深まり、いろんな角度から楽しめるものになっている。そういった意味で英語版の歌詞においてもその魅力が損なわれず、むしろ別言語としての楽しみ方がもっと広がる仕上がりにしたいと思いました。

―― それを実現するために、具体的にはどのようにアプローチされたのですか?

Konnie Aoki:まずは自分の中で楽曲と小説への理解を一番深くまで掘り下げて、作品の世界観の中に完全に身を投じた状態で歌詞と向き合おうと思いました。そうすることで翻訳する時のワードチョイスや発想の自由度が最大化されると考えたんです。歌詞を単純に言葉として平面的に捉えるのではなく、作品の世界観ごと立体的に翻訳してみようと。

――では、翻訳の際は元々の歌詞だけではなく、原作も読み込まれたのですね。

Konnie Aoki:かなり読みました。楽曲を聴いて歌詞をみて、原作の小説を読んで、また楽曲を聴いてというプロセスを繰り返して、楽曲と物語への理解を深めていきました。小説のこのシーンは楽曲でいうとこのセクションのこの歌詞に当てはまるだろう、というふうに歌詞とストーリーを照らし合わせて読み込んでいきましたね。また、物語の中では直接的な表現や描写になっているところがAyaseさんの歌詞の中ではもっと詩的に描かれていたり、楽曲の中でだけ描かれる角度の表現があったり、その自由度と柔軟性いう点で英語翻訳を考える時にも活かせる発見も多くあり、作業しながらYOASOBIワールドにさらに惹き込まれていきました。

 あと、読書家で映画やアニメも大好きな友人がいて、その人と座談会のような時間を設けてお互いに曲と小説についてどう思ったかを話して意見交換するといったこともやりました。自分の解釈が的外れでないことを確認して整理する時間というか。そういった作業を経て完全にストーリーの中に自分が入り込んで、主人公の目線とAyaseさんが構築した歌詞の世界観にリンクできているなと実感した瞬間から、実際に翻訳していく作業が始まるんです。

――徹底分析ですね。そこを起点にして日本語の歌詞が英語になっていくと。

Konnie Aoki:そうですね。世界観に身を投じている状態で、その視点で改めてオリジナルの歌詞と向き合うと1つの日本語表現に対してもいろいろな英語のアプローチが浮かんでくるんです。そうやって言葉の響きと意味の両方がバッチリはまるワードや表現を選んで組み立てて、理想とする英語歌詞に辿り着くというプロセスを繰り返しました。

 言葉の響きの面でも、最初は母音を合わせるところからスタートしたのですが、方法がつかめてくると母音だけじゃなくて子音までバキバキに原曲と響きを合わせることができて、いわゆる日本語と英語が「空耳」のゾーンまで到達した時は大きな手応えを感じました。とはいえ、完成してみると自分でもいままで聴いたことがない感じに仕上がったので一瞬「やりすぎたかも」とも思ったんですけど(笑)。でも無事にYOASOBIさんからOKをいただいた上、それを伝えるメールが届いた時にはすでにikuraさんが英語で歌ったデモ音源が添付されていて。それには感動したのを覚えています。

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