YOASOBI、“日本語のように聴こえる英語詞”はどう生まれた? 訳詞担当 Konnie Aokiに聞くこだわりの手法

YOASOBI 訳詞担当に聞く手法

「Into The Night」「Haven't」で確立した“立体的な翻訳”

――歌詞の翻訳を進める中で、特に印象的だった出来事や発見はありましたか?

Konnie Aoki:僕はアニメソングの作詞をさせていただくこともあるんですが、そこでは原作のストーリーやコンセプトが大前提にあって、その中で流れる楽曲では、作品のメッセージを伝えるためにこのキャラクターのこの感情、ストーリー中のこの景色を描いてみようとか、具体的にいろんなことをイメージをしながら歌詞を考えるんです。今回のお話をいただき翻訳作業を進めていく中で、そういったアニメソングの作詞プロセスと共通点を感じる部分も多くあり、その経験も活かすことができたのも大きかったですね。

 あと、英語って必然的に日本語より情報量が増えるという側面があって。例えば、言葉の音数として日本語では「なみだ」っていう3音だとするじゃないですか。だけどそれを英語にすると1音で「Tears」と言えちゃうから、残り2音に何を入れようかと考えることになる。余った音の部分に何を入れるか考える際には、ある種の理解力と想像性が必要で、そこに入る英語の意味や解釈が楽曲の世界観とぶれていると、きっと聴く人も気持ち良くないと思うんです。だけどそこに然るべき表現がはまって、英語版で加わった意味合いが小説のストーリーや歌詞の世界観とリンクして、リスナーの方々が喜んでくれたりすると「よかった、分かってくれた」っていう格別の喜びがありました。それは翻訳の仕事ならではの発見でしたね。

――そういった表現を具体的に楽曲の中で例にあげることはできますか?

Konnie Aoki:曲でひとつあげるならば「Haven't」(「たぶん」英語Ver.)は印象に残っています。この曲の歌詞には冒頭で〈さよならだ〉っていう日本語が来るんですけど、これを普通に訳すと「Goodbye」じゃないですか。響きへのこだわりとしてそこに「Goodbye」は絶対にはめたくないし音数も足りない。どうしようか考えた時に、やはり原作小説の世界観の内側からイメージしていきました。

 ストーリーは2人で過ごしていた部屋にいまは自分1人しかいないというシーンから始まる……そこで〈さよならだ〉の日本語のところに英語で〈Saw you’re not around=あなたが側にいない〉という表現をあてはめたんです。ストーリーの意味を伝えながら、音数も子音も母音もほぼ全部合っている。このアプローチが浮かんだ時は「キタ!」と思わず指を鳴らしました(笑)。どの曲においても同じように作品の世界観とリンクした“立体的な翻訳”を心がけていますが、その方法論を確立するプロセスの初期段階で手応えがあった曲なので「Haven't」(「たぶん」英語Ver.)は印象的な曲でしたね。

――英語バージョンの発表は国内だけでなく海外のリスナーからの反響もかなり大きかったですよね。

Konnie Aoki:「Into The Night」(「夜に駆ける」英語Ver.)、『E-SIDE1』発表前はリスナーの方々からどういったリアクションがくるかあまり予想がつかず、正直ちょっとナーバスだったのですが、いざ発表されたら想定を遥かに超えるポジティブなご意見と反響があり本当にビックリしました。特に海外の新聞メディア(The Japan Times)から取材のオファーをいただいた時は一番驚きましたね。そんなことってあるんだと(笑)。

 そしてikuraさんの英語発音と歌唱に世界中から称賛がいっぱい集まっていたのも嬉しかったですね。レコーディングでもディレクターとしてご一緒して、ご本人にとって初めての英語詞にも全力で向き合っていただきましたし、全ての楽曲で妥協なく発音やニュアンスにもこだわって録っていったので、英語版楽曲では是非そのikuraさんの熱量を感じていただきたいです。

――昨年11月には英語版EP第2弾『E-SIDE 2』もリリースされましたが、YOASOBIの歌詞を翻訳する経験を重ねていったことでの変化など、感じたりしますか?

Konnie Aoki:YOASOBIさんの中でもサウンドの振り幅がすごく広がっているし、Ayaseさんのクリエイティブやikuraさんの表現力に呼応するように『E-SIDE2』では僕自身の翻訳もアップデートされている実感がすごくありました。あと今回「Just a Little Step」(「もう少しだけ」英語Ver.)と「Haruka」(「ハルカ」英語Ver.)で“BFNK”という名前もクレジットされているんですけど、彼は『E-SIDE1』の時からネイティブチェックであったりワードピックであったり英語歌詞の構築におけるキーマンになってくれている人物で、その貢献度がとても高いので 今回それが顕著な2曲はクレジットにも入ってもらうことにしたんです。そういったコラボレーションも今後もっとやっていきたいですね。

――そして、先日インドネシアでのYOASOBIの海外初パフォーマンス(2022年12月3、4日に開催された88rising主催の『HEAD IN THE CLOUD』フェスティバル)も現地の会場でご覧になったとのことですが、いかがでしたか?

Konnie Aoki:初の海外公演、しかも初の観客声出しOKの中でのパフォーマンスということで、会場全体が驚くほど盛り上がっていました。YOASOBIが海外でも愛されていることを肌で実感して感動しましたね。さらにビックリしたのはインドネシアなのにフェス会場にいる非常に多くの人達がYOASOBIと一緒に大合唱していたんです。それはまさに圧巻の光景で、それくらい世界中の人が親しんでいる楽曲の英語翻訳を担当させていただいたことを改めて光栄に感じました。

 YOASOBIの英語版楽曲の歌詞の多くはオリジナルの日本語版と同時に歌っても違和感なく溶け込むと思うので、いつかそうやって言語を超えて会場が1つになる光景をどこかで見ることができたら、と夢と目標がさらに拡がりました。

――英語版もそこで初めて披露されたんですよね。

KonnieAoki:はい。フェスのラストのセッションで英語版楽曲(「Into The Night」(「夜に駆ける」英語Ver.)と「Monster」(「怪物」英語Ver.))が初披露され、88risingの海外著名アーティストの方々とYOASOBIがステージでコラボレーションするシーンを生で目撃できたことは、最高の経験になりましたね。

――そういった経験を経て、今後に向け現在考えていることなどがあれば教えてください。

Konnie Aoki:今回、海外フェス会場に実際にいってみて、現地ではじめて感じたり気付いたりすることが本当に多いなということを改めて実感しました。表現の幅を拡げるという意味で、そういう国内外の実体験からインスピレーションを得る機会を個人的に増やしていきたいと思っています。

 そしてYOASOBIはアメリカのTikTokチャートで1位を取ったり、サブスクの再生数が歴代最高記録を塗り変え続けていたり、いったいどこまでいってしまうんだろうと一ファンとしても今後が楽しみで仕方がありませんし、リリースされる新曲も発表の度に毎回驚かされます。海外フェスの会場で感じたあの感動を、今後のクリエイティブにも必ずフィードバックさせ、英語翻訳も世界のみなさんに喜んでいただけるように一層邁進していこうと思っています。

■リリース情報
2022年11月18日(金)配信リリース
英語版第2弾EP
『E-SIDE 2』
配信URL:https://orcd.co/yoasobi_e-side2

《収録曲》
1. 「The Blessing」 (「祝福」英語Ver.)
2. 「If I Could Draw Life」 (「もしも命が描けたら」英語Ver.)
3. 「Romance」 (「大正浪漫」英語Ver.)
4. 「The Swallow」 YOASOBI with Midories (「ツバメ」英語Ver.)
5. 「Halzion」 (「ハルジオン」英語Ver.)
6. 「Just a Little Step」 (「もう少しだけ」英語Ver.)
7. 「Haruka」 (「ハルカ」英語Ver.)
8. 「Love Letter」 (「ラブレター」英語Ver.)

■YOASOBI関連リンク
Official Site:https://www.yoasobi-music.jp/
Twitter:https://twitter.com/YOASOBI_staff
YouTube Channel:https://www.youtube.com/c/Ayase0404
TikTok:https://www.tiktok.com/@yoasobi_ayase_ikura

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