くじら、初ワンマンライブ『鯨と水星』で見せた生歌唱での多彩な表現 アーティスト名の由来も明らかに

くじら、初ワンマンライブレポ

 くじらが12月5日、初のワンマンライブ『鯨と水星』を渋谷WWW Xにて開催した。今年8月に自身歌唱アルバム『生活を愛せるようになるまで』をリリースし、ソロアーティストとしても活動を本格スタートさせたくじら。この日はそんなくじらの生歌唱をひと目見ようと多くのファンが駆けつけた。

くじらライブ写真

 開演前から会場には波の音が流れており、天井から水色の大きな布がステージ全体に吊るされていた。まるで波打ち際に誘われたかのような気分だ。いよいよ開演するとバンドメンバーとともにくじらが舞台上に颯爽と現れ、笑顔で1曲目「うそだらけ」を歌い始める。一瞬で会場の空気が変わったのを感じた。

 くじらは時にマイクに力を込めて歌ったり、時にリズムに合わせて飛び跳ねたりしながら、音楽を自由に楽しんでいる。すでに歌手としての存在感があった。そのまま「キャラメル」「ジオラマの中で」「金木犀」と間髪入れずに歌い上げ、ソロアーティストとしての初舞台を華麗にスタートさせた。

 歌い終えると「はじめまして、くじらです」と照れ臭そうな表情も見せながら挨拶し、会場から大きな拍手が起きた。「こんなにたくさんの人に集まっていただいて、嬉しい限りです」と丁寧に感謝を述べて次の曲へ。

くじらライブ写真

 5曲目の「悪者」でくじらは、時おり顔を俯けながら、感情をさらけ出すようにして歌っていた。とりわけラスサビではエモーショナルな歌声を用いて、思いを観客にストレートに伝えるような姿が印象的だった。そこから「呼吸」と「四月になること」を感情たっぷりに歌い、ライブは中盤へ。

 ここでくじらは「なかなか安定しない日々で、渋谷とか新宿とか大きい街に押し潰されそうになったりして、大きな声で叫びたくなった時、一緒に叫んでくれる曲です」と語ってから「エンドロール」を披露。アルバムの中でも特に言葉の強いこの曲を、鬼気迫る表情とボーカル表現で叫ぶように歌っていた。ステージ上のくじらは音源とは異なり、伸ばすメロディをあえて細かく区切ることで感情を押し殺すようにして歌ったり、声量を抑えて口籠もるような素振りを見せたりと、生歌ならではの多彩な表現を見せていく。そのまま「薄青とキッチン」「愛など」「いのちのせんたく」と立て続けに歌唱し、会場のボルテージを急上昇させた。

くじらライブ写真

 ライブは終盤。くじらは「残りの曲数も少なくなってきましたが、まだまだ行けますか!」と力強い声で煽ると、次の「抱きしめたいほど美しい日々に」で跳ね飛びながら楽しそうに歌う。しかしそこから一転して次の「ねむるまち」では、あたかも疲労困憊といった雰囲気で歌ってみせる。それによって曲のメッセージ性がより深く伝わるものになっていたように思う。

 そして、くじらは神妙な面持ちで「自分はうまく生きることができない」と語り始めた。「一から自分が生きていける場所を作らないと、うまく生きることができる人たちが作ったルールとか社会に押し潰されてしまう気がして。それでくじらという活動を始めました」と話す。また、くじらというアーティスト名が憧れだというシンガーソングライターのキタニタツヤのボカロP時代の作品タイトル「鯨と水星」からの引用であることを明かすと、「どんな時でも音楽は味方です」と言って最後に「生活を愛せるようになるまで」と「水星」を力一杯の歌声で歌い上げた。

 

 アンコールでは「Dance in the milk」と「狂えない僕らは」を勢いよく歌うと、「アンコールってこんなに嬉しいんだね。ありがとう」と初ライブらしい感想を話す。そして「これからも自分を大切に生きてくれたらと思います」と言って、活動を始めた最初の楽曲「アルカホリック・ランデヴー」を披露。会場は大盛り上がりとなり、拍手喝采で幕を閉じた。

 初めてのライブだったこの日。くじらが一人のアーティストとして舞台に立ち、自身の音楽に向かう姿勢を吐露しながら、ファンに感謝の思いを伝えた一夜であった。

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