The 1975、ジャック・アントノフの手腕で引き出された等身大な感情 “楽器の生音”からバンドの現在地を紐解く
コンピューターや打ち込みでプログラムされたサウンドやリズムではなく、このように周りにある楽器で生演奏をすることにより、等身大の感情を表現することを得意とする近年のジャック・アントノフであるが、そのスタイルは『Being Funny In A Foreign Language』でも活かされている。愛する人にメッセージを送るマシュー・ヒーリーの衒いなきストレートさ、そして楽器の生演奏を重視し、従来のポップスのようなミックス/加工をなるべくしないという方向性が、The 1975の等身大で生の感情を上手く表している。
さらに近年のThe 1975の音楽で欠かせないのが、アメリカのカントリーやフォークミュージックからの影響だろう。2020年にリリースされた前作『Notes On A Conditional Form』では、「Roadkill」「Jesus Christ 2005 God Bless America」「The Birthday Party」のような楽曲が特にそうだ。マシュー・ヒーリーは自身のルーツであるエモとカントリーには大きな共通点があると明かしており、エモは「この街で生きて死ぬ、悲しい顔で」に対して、カントリーは「この街で生きて死ぬ、幸せな顔で」という比較をしている(※4)。
『Being Funny In a Foreign Language』は、前作で取り入れたカントリー/フォークの要素と、The 1975が元来持つポップスセンスを、ジャック・アントノフが最大限に引き出したアルバムになっている。ジャック・アントノフが手掛けたテイラー・スウィフトの『folklore』(2020年)は、それまでのテイラーのエレクトロ要素を取り入れたポップスとは違い、フォークやカントリー色が強い作品となった。プロダクションのダイナミックさで勝負するポップスから、楽曲そのものが持つメロディや等身大な魅力を最大限に引き出すジャック・アントノフの手腕が『Being Funny In A Foreign Language』でも活かされている。
EDMが世界を席巻した後に主流となった派手なサウンドで魅せるポップスではなく、アコースティックギターのアルペジオやストリングスなどのアレンジによって、まるでアーティストが目の前で演奏しているかのような、楽曲の生の良さを演出していくのがジャック・アントノフの近年のスタイルとも言えるだろう。
※1:https://www.nytimes.com/2022/09/08/arts/music/1975-matty-healy-being-funny-in-a-foreign-language.html
※2:https://music.apple.com/us/post/1637712112
※3:https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-58085468
※4:https://youtu.be/d3ZHGfcENuk