9mm Parabellum Bullet、“9”枚目のアルバムを携えたツアー東京公演 過去曲を織り交ぜ披露するライブバンドの最新形

9mm、ライブバンドの最新形

 「悪いクスリ」を終えて一瞬の静寂のあと、真っ白な光がステージを満たす。「白夜の日々」だ。菅原が〈君に会いに行くよ〉という歌詞を「会いに来たぞ!」と替えて歌うと、フロアからは拳が突き上げられた。さらに緊張感のあるメロディとタイトなリズム、そして滝の弾く超絶ギターフレーズが嵐のように吹き荒れる「インフェルノ」へ。そんなテンションの高い演奏を繰り広げたかと思えば曲間では突然気が抜けたようなセッションを始めてしまったりするところが9mmらしく、つくづく基礎体力の高いバンドであると思わされる。

 「夏はずっと続いてもらわないと困る」と「夏が続くから」を繰り出すと、ここで披露したのが『TIGHTROPE』に収録されたインストナンバー「Spirit Explosion」。こういう楽曲が配信シングルとしてリリースされること自体が彼らならではなのだが、かみじょうのドラム、滝と菅原、そしてサポートメンバーを務める武田将幸(HERE)のギター、全部がリード楽器のように鳴り響き、そしてその音を中村和彦(Ba)のベースが下から支える……という、このバンドの構造が歌がないからこそはっきりとわかるところも面白い。そんな「Spirit Explosion」で一気に盛り上がったテンションをそのまま「Cold Edge」というザ・9mmなアグレッシブチューンにつなげてしまうところも憎いし、そこから「淡雪」のセンチメンタルなムードでガラリと風景を塗り替えてしまうところもますます憎い。

 「淡雪」を終え、コロナ禍でさまざまなことが一変してしまった世界、その中で感じたものをそのまま落とし込んだ、と『TIGHTROPE』について語る菅原。歌詞作りは本当にギリギリの「綱渡り(=TIGHTROPE)」だったらしく、「タイトルどおりになって恥ずかしい」と笑う。確かにその言葉どおり、『TIGHTROPE』は彼らのこれまでの作品の中でももっとも私たちに「近い」ところで鳴っている感じがする。そんなリアルなアルバムを今生み出せたこと、さらにいえばそのアルバムが暗くて重いというよりもむしろ明るくてポジティブなものになったこと、それが今の9mmの健全さ、状態のよさを物語っている。

 そんな『TIGHTROPE』に込めたものをかみじょうのドラムが怒涛のように暴れ回る「Tear」、そしてタイトル曲となった「タイトロープ」とアルバムの曲順どおりに披露した2曲でセットリストの中に刻みつけると、一転して「キャンドルの灯を」「The World」という9mmクラシック2連発。『TIGHTROPE』のメッセージが実はこれまでずっと彼らの中にあったものだということを証明してみせた。「The World」も『Termination』に入っているバンド初期からの楽曲。「結成18年ということばかり謳ってきたけど、『あれ、メジャーデビュー15周年じゃないの?』って」と彼らしい言い回しでさりげなく節目の年であることを告げると、フロアからは大きな拍手が巻き起こる。ツアーファイナルとなる札幌公演がちょうどメジャーデビュー記念日の前日ということで、菅原は「こうなったら札幌は(メジャーデビュー作の)『Discommunication e.p.』だけっていう……」と呟く。それはそれで面白そうだ。

 来年は結成19年ということで「色々やろうと思う」と期待を抱かせる宣言を経て、ここからライブはクライマックスに向かっていく。「いけるかー!」とオーディエンスの手拍子とともに演奏されたのは『TIGHTROPE』に向けた狼煙となった「One More Time」。菅原の「ギター!」という煽りから突入したギターソロでは、滝がステージのいちばん前まで出てエモーショナルに弾き倒す。そしてそのリズムのまま「Black Market Blues」を畳み掛ける展開も見事だ。上に書いた「Spirit Explosion」と「Cold Edge」のつなぎもそうだが、いとも簡単にこういうことをやれてしまうのは間違いなくバンドの力である。そして「まだまだいこう、東京!」と菅原が叫び繰り出したのは「Termination」。ズバズバと突き刺さってくるようなギターリフとスネア。その上をまるで大空を舞うかのように自由に躍動する菅原のボーカル。フロアを巻き込んでの手拍子にラストにかけての盛り上がり。これぞ9mmというような1曲がここに来て鮮やかなハイライトを描き出す。

 移ろい行くテンポと曲調の中にメタルもハードロックもプログレも歌謡曲も全部飲み込んだ「泡沫」が情感豊かに広大な風景を描き出すと、ステージを大量のスモークが覆っていく。ほとんどバンドの姿も見えないような状態から鳴らされたのが、この日のラストナンバー、「煙の街」だった。冒頭の「Hourglass」と対をなすような重厚な世界観を表現しきると、最後はかみじょうのスネアの残響音でフィニッシュ。あとに残った深い余韻が、このライブと今の9mmの充実ぶりを物語っていた。

9mm Parabellum Bullet 菅原卓郎&滝善充、『TIGHTROPE』全曲解説 アルバムに反映された3年間の心の動き

9mm Parabellum Bullet(以下、9mm)の3年ぶり9枚目となるオリジナルアルバム『TIGHTROPE』が完成し…

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