LOVE PSYCHEDELICOの音楽が果たす“道しるべとしての役割” 5年ぶりアルバムに込めた、内なる革命の大切さ

LOVE PSYCHEDELICO、5年ぶりアルバム完成まで

 LOVE PSYCHEDELICO(以下、デリコ)による通算8枚目のオリジナルアルバム『A revolution』が10月5日にリリースされた。前作『LOVE YOUR LOVE』から実に5年ぶりとなる本作は、ルーツとなるクラシックロックに根差したこれまでのデリコサウンドをしっかりと引き継ぎつつも、ジャズやゴスペル、クラシックなど様々な要素がまるで「ごった煮のスープ」のように溶け合った、これまで以上に重層的なサウンドスケープが印象的。歌詞はコロナ禍や戦争など混乱を極める世界に対し、どう対峙したらいいのかを彼らなりに提示した切実な内容となっており、それはそのまま今作のタイトルの由来にもなっている。一昨年、デビュー20年のアニバーサリーイヤーを迎えてなお「今が一番楽しい」と笑顔で話すKUMIとNAOKIに、シリアスなメッセージを「音楽」を通して届けるためにどのような工夫をしたのか、じっくりと話を聞いた。(黒田隆憲)

20周年ライブを経て芽生えた新曲制作へのモード

ーー前作『LOVE YOUR LOVE』から実に5年ぶりとなる最新アルバム『A revolution』が完成しました。まずはその手応えから聞かせてもらえますか?

NAOKI:でき上がったばかりでまだよく分からないところがあるんだけど……どう?

KUMI:まずは無事に完成してよかったなと。

NAOKI:そうだね。去年、1年遅れでデビュー20周年のアニバーサリーツアーがあって、そこでこれまでの僕らの楽曲をあらためて楽しんでもらえたんですよね。これまでの道のりがあるからこそできたツアーという意味では音楽家冥利に尽きる経験だったけど、ステージを重ねれば重ねるほど「やっぱり新曲がほしいなあ」という気持ちにもなっていって。

KUMI:2020年にコロナ禍になって、新曲を作る気分になかなかなれなかったのですが、20周年ライブでみんなの顔を見て、エネルギーの交換が再び始まって。そこでまた「新曲を作りたい」と思えたこともすごく嬉しかったし、こうして無事に完成して本当に良かったと思っています。

ーー先行シングル曲以外は、コロナ禍で書かれた楽曲がほとんどですか?

NAOKI:そうですね。まずKUMIの出産時期に「Sally」を、その後に「Swingin’」を制作して、おそらくその辺りからアルバムのビジョンが見え始めてきましたね。ただ、それは各曲の作風というよりはサウンドの質感というか。というのもこの5年間、前作を作り終えた直後くらいからアナログレコードを聴きまくる日々を送っていたんです。それによって、音楽に求めることのプライオリティが少し変わり始めてきて。制作に入るにあたって、レンジが広くて抜けの良い、耳が疲れない音像を目指そうと思うようになっていきました。

LOVE PSYCHEDELICO - Sally (Official Video)
LOVE PSYCHEDELICO - Swingin’ (Official Video)

ーーちなみにアナログレコードで聴いて特に良かった作品をいくつか挙げるとしたら?

NAOKI:まずは月並みですけど、ドナルド・フェイゲン『The Nightfly』(1982年)のプロモーション盤。あのアルバムは様々なバージョンが出ていますが、当時ラジオのオンエア用に特別なカッティングを施したバージョンがあって、それが素晴らしく良い音なんですよ。それからフランク・ザッパ『Hot Rats』(1969年)の初回カッティング盤はすごく好きな音ですね。ここ数年聴き続けています。あとね、The Beatlesの1stアルバム『Please Please Me』(1963年)の初回カッティング盤が本当に凄まじくいい音で。以前U-zhaanがスタジオに遊びに来た時、これ聴きながら涙目になってたからね(笑)。

KUMI:あれは五感を刺激されるレコードだよね。

ーーアルバムに話を戻すと、特に「Sally」が象徴的ですが、今作のアレンジはゴスペルやクラシックの要素があったりジャズっぽかったり、1曲の中に様々なジャンルがまるでスープのように混じり合っていると思ったんです。もちろんデリコはこれまでも様々な音楽から影響を受けてきていますが、ジャンルやスタイルの取り込み方がより貪欲になっている気がしました。

NAOKI:それもきっとレコードライフの影響なのかなと思うんですよ。というのも、レコードリスナーの方なら分かると思うけど、アナログを掘っていくうちに「いい楽曲を探す」というよりは、例えば50年代のジャズや60年代のロック、70年代のソウルやプログレなど、いわゆる「いい音」と言われている作品を、血眼になって探すモードになってくるんです(笑)。気づけば今まで聴かなかったような音楽を、垣根なく色々聴いていくようになっていくんですよね。そういう近年のレコード体験で触れたいろんな音楽の肌触りは、活かされてるかもしれない。

 本作だと「You’re the reason」という曲は、イントロのリックは実はブルースによくある典型的なフレーズなのだけど、そこでガチのブルースがやりたいわけではなくて、ブルースのフィーリングを曲の中に馴染ませていくみたいな。

ーーなるほど。既存の文脈から切り離したフレーズを組み合わせ、新たな文脈を作り上げる発想はヒップホップにも通じます。

NAOKI:確かにそうですね。

「排除したり倒したりすることが“変化”の本質ではない」(KUMI)

ーーKUMIさんは昨年、Uniollaを始めたことで何か変化はありましたか?

KUMI:今までずっとLOVE PSYCHEDELICOとしてしか音楽活動をしていなくて、自分では「デリコだったらこんなサウンド」みたいな枠を作ってきたつもりはまったくなかったんだけど、Uniollaという新しい表現方法を手にしたことで、より気持ちが自由になったところはあったかもしれないですね。デリコでも、よりニュートラルな気持ちで「この音が心地いいから取り入れてみよう」と思えるようになったというか。

ーーUniollaに関しては、NAOKIさんも全面的にサポートしていますよね。

NAOKI:Uniollaのレコーディングは僕らのスタジオで行っているし、僕もレコーディングエンジニアとして参加しました。僕の場合、LOVE PSYCHEDELICOでマイクを立てない限りは、「音を録る」という経験はできないじゃないですか。もちろんプロデューサーとしてOKAMOTO’Sなどにエンジニアリングも含めて参加することはあるのですが、一つバンドが増えれば、その経験が2倍に増える。それはそのまま自分のエンジニアとしての経験値になりますから、それだけでもありがたいなと思いました。

ーーそういう意味では、TOHOシネマズの音響監修などに携わったことも少なからず今作に影響はありますか?

KUMI:ああ、それは大きいんじゃない? 音作りの作業がめちゃくちゃ早くなったので(笑)。

NAOKI:確かに、音決めるの早くなったよね。

KUMI:自分たちで音を録ったり、ミックスをしたりし始めたのはわりと最近で。やっぱり専門のエンジニアではないし、ドラムにしろ歌にしろ、音を決めるまで何かと時間がかかってしまい、その間はずっと叩いたり歌ったりしていなきゃならなかったから大変だったんだけど、今回のレコーディングはサクサク進んでいった印象がある。

NAOKI:例えばシェイカーを録音する時、以前だったらまずシェイカーを振ってもらって、アナログEQのツマミをカチャカチャと回しながら「あ、ここの音が耳に痛いからレベルを少し下げよう」みたいに決めていったんだけど、今はもう、音が数字で見えるんです。シェイカーを振ってもらった瞬間に「数値」で把握できるようになったんで録音作業が楽ですよ。「よし、800Hzを2db下げて、3khzを1db上げて、50Hzを4db下げる感じかな」って思って、ツマミをガチャガチャっと回せば大体思った通りのサウンドになっている(笑)。映画館での作業が、ここまでデリコのレコーディングにも活かされるとは思ってなかったですね。

ーーアルバムタイトルについてもお聞きしたいのですが、「Revolution」ではなく「A revolution」にしたのはどんな思いがあったのでしょうか。

NAOKI:この曲の中でいうところの「革命」というのは、例えば中世ヨーロッパで起きた革命や、1970年代の学生運動といった、みんながイメージするような「世の中をひっくり返して変えよう」という「Revolution」とはまた少し違うと思っていて。もっと「内なる革命」というか、各々の心の中で起きている小さな革命、つまり「A Revolution」だと思うんです。

 人はよく「今の若者は全然政治に興味を持たない」みたいに、自分たちの物差しで今の若い人たちを批判するけど、実はきっとそうではなくて。SNSが情報収集やコミュニケーションのためのツールとして普及した今、問題との向き合い方も、もっと個人的、内向的であって、これまでの僕らの感性とは違うのではないかと思うんです。Twitterであったり、世の中との繋がり方も一対一になっていて。だから、みんなでやっつけるみたいなやり方ではなくても、きっと今の若い人なりの向き合い方、「A revolution」があるのかなって。

KUMI:特定の人や物事を「悪者」にして排除したり倒したりすることが「変化」の本質ではないし、自分もその世界の一部であることを認め、向き合うべき社会課題に対して真心を込めて取り組むこと。それが本当に世の中を変えていくことなのかなって。

ーー他者や世界を変えたければ、まずは自分を変えることから始めなければならないと僕も思います。

KUMI:そうなんです。人のせいにしていないでまずは自分が動く、それが一番早いんですよね。このアルバムは、「みんなでムーブメントを起こそう!」と呼びかけるものではなくて。みんなの日常の中にある、ちょっとでも変えられることに目を向けたり、世の中はひどいように見えるけど、それに腐らず素晴らしい未来を信じてその気持ちを守り抜いたり、そういうことの大切さについて書いた楽曲が詰まっているので、その辺りを感じてもらえたら嬉しいですね。

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