Suspended 4thの核にあるバンドのロマン 1stアルバムで手に入れた“エンタメ”を引き受ける強さ
鬼に金棒というか、虎に翼というのか。もともと卓越した技巧派バンドとして知られてきたSuspended 4th(以下、サスフォー)が、1stフルアルバムで手に入れたのは突き抜けたスピード感とキャッチーさだった。全曲がインストのDISC2『Parallel The Galaxy』は楽器をかじったことのある者が必死にチェックするであろう“バカテク演奏集”だが、メインのDISC1『Travel The Galaxy』はジャンルの違いをよく知らなくても突き刺さる歌メロが中心。どちらも武器だと言い続けてきた近年の進化に、ぴしりとひとつの答えが出たような痛快さがある。4人のインタビュー発言にも迷いはなし。ハードロック界の名プレイヤーたちの名前と、意外な歌謡曲、ポップスターの名前がポンポン出てくるのが、紛れもないサスフォーの「今」であった。(石井恵梨子)
「いい作品を作ろう、何かを残そうって方向にみんなの意識が向かった」(Dennis)
一一まさに「Suspended 4th、いいよ」って作品として勧めたくなる一枚ができたと思います。
Kazuki Washiyama(以下、Washiyama):そうっすね。とりあえず今Spotifyとかで“Suspended 4th”って検索しても、「そこからどうやって進もう?」って感じだったと思うんですけど。ようやくこれを聴かせられるな、っていう一枚。
Seiya Sawada(以下、Sawada):うん。「サスフォーってどんなバンド?」って聞かれた時に、ポートフォリオとして「こういうのだよ」とわかりやすくパッケージングできた作品かなって思います。
一一路上のライブが今までメインだったから、作品のことって、実は考えてこなかった面もあります?
Washiyama:いや、ボンヤリとしたイメージはあったんですけど、やっと気合入れて挑めた感じ。それは配信シングルリリースを経たこともありますよね。音源を録り続けていくうちに、なんとなくアルバムも見えてきた。
Dennis Lwabu(以下、Dennis):うん。いい作品を作ろう、何かを残そうっていう方向にみんなの意識が向かっていったから。いい経験でしたね。
Hiromu Fukuda(以下、Fukuda):あと今回の新曲、「トラベル・ザ・ギャラクシー」とか「Shaky」だとか、Dennisが入って以降のSuspended 4thにはなかった若さというか、疾走感を取り戻せた気がして。より若いお客さんにも刺さる作品になったのかなと思ってますね。
Sawada:録ってる時の現場の雰囲気もよかったよね。メンバーが出したいいテイク……それはちゃんと弾けたっていう意味じゃなくて、アガるテイク。そこで「イェーッ!」て歓声が起きたり。その感じが音源に閉じ込められてて。
一一その疾走感や高揚感って、Dennisさんが入ってからは薄れたものなんですか?
Washiyama:彼がそもそもジャズ畑のドラマーだから、わりとDennisに寄せた楽曲を意識して書いてたんですよ。でも「トラベル・ザ・ギャラクシー」とか「Shaky」は俺が書くメタルっぽいフレーズのドラムで、それを彼に噛み砕いてもらう作業が今回は初めてだった。
一一前に見たジャズの映画で、「下手な奴はロックでもやってろ」みたいな標語がスタジオに貼ってあるのが面白かったんですが(笑)。ジャズの世界って、本当にそういう感覚があります?
Dennis:んー、あるっちゃあるって感じですね。乱雑なロックドラムは確かに嫌いです。最後まで技が行き届いたものーー技じゃなくても、その人の人間らしさが反映されたロックドラムは大好きなんですよ。メタルに関しては僕はBlack Sabbathで止まってて、他はあんまわかんないんですけど。
一一ではボンゾ(Led Zeppelinのドラマー ジョン・ボーナム)はどうです?
Dennis:ボンゾはもう、なんならジャズドラマーだと思ってます。
一一ほう。その違いって何ですかね。
Dennis:指を使ってるかどうかですね。あとは腕全体のしなりとか。これを使えるのが本来のドラマーの姿。ボンゾも本当はそういう細かい作業してるのに、そこを見失って上辺だけ掬い取った自称ロックドラマーが、そのあとのロックシーンを牽引していると僕は思ってます。
一同:はははははは!
一一批評するだけじゃなく、今回は自分たちもロックの正攻法をやってやろう、みたいなテンションがあった?
Washiyama:たぶんシングルで出した「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」とか、「こういう曲をサスフォーでやってもイケるんだ」って手応えがあったから。それでそういう曲が書けたのはありますね。
Fukuda:でも無理して作ったわけでもなくて。「Shaky」のもともとのデモって、2016年くらいから存在していて。
一一「Betty」もそうですよね。YouTube公開は2017年あたり。
Fukuda:その頃のサスフォーって若さもあり、勢いもあったし、曲全体のBPMも速かったと思う。当時の曲、僕は結構好きなんですよ。それが今リバイバルした感じもあって、僕としては非常に楽しくやれたんですね。
一一「Betty」のアレンジの違いが、今の方向性をわかりやすく示している。どこを省き、どこを強調させたのか、変化がはっきり伝わってきます。
Washiyama:確かに。前のバージョンみたいに、ジャズしすぎちゃうと受け入れられづらい。でもできるだけジャズしたいから、バッキングはジャズっぽく録って。だけど歌はあんまジャズじゃない……っていうかめっちゃポップスで。だから何やってもいいんだなというのはこのアルバムを経て特に思ったかな。あまり型にこだわらず、好きなように作ろうと思いましたね。
一一Washiyamaさんのルーツに、J-POPとか歌謡曲ってあるんですか?
Washiyama:もちろん。俺、スキマスイッチとかめっちゃ聴いてますよ。小学生の時はスキマスイッチとGReeeeN聴いてました。
Sawada:野球少年だったし。
Washiyama:そう。ドラマ『ROOKIES』(TBS系)が流行って、主題歌の「キセキ」とか耳に入ってくるじゃないですか。CD買いましたね。だからポップスも通ってるし、流行ってるものは耳にしてきました。
一一「Shaky」も「Betty」も、サビだけを取り出せばすごくキャッチーですよね。
Washiyama:そうっすね。ビックリマンチョコでいうと、シールのほうが歌で、チョコ側がバックバンド。で、そのチョコのほうはめちゃめちゃ手が込んでる。ビックリマンチョコなのにゴディバで作っちゃってる、みたいな感じ。
Sawada:(笑)。プロ野球チップスでいうと、すげぇ芋にこだわってたり。
Washiyama:そう。本物の芋とかジャーマンポテトが入っちゃってる。プロ野球チップスなのに。その感じなんですよね。
一一でも子供たちがワーッと飛びつくのはシールだったりしますね。
Washiyama:そうそう。そこに需要はあるし、でもオマケじゃないほうにもこだわるのがSuspended 4thだと思ってて。そこはできるだけ崩さずにやりたいと思ってますね。子供たちを寄せつけちゃうというか、危ない道に引き寄せるためには(笑)、まずキャッチーな歌がいるなと思って。そこは意識しました。
一一技術のあるバンドって、それが苦手な人たちが多い印象があります。ポップに振り切ることに二の足を踏んでしまうというか。
Fukuda:非常によくわかります。でも、ようやくその気配が薄れてきた。Washiyamaのプライドの矛先が変わってきた感じがする。
Dennis:あとは、ポップさ以外ならすべてを兼ね備えてるアーティストが燻ってるのを見るのが悲しいっていうのもありますよね。「上手いし格好いいしライブもいいんだけど……ポップじゃないんだよなぁ」っていうバンド。結構いますもんね。
Washiyama:いるいる。もちろんポピュラリティが正義ではないんだけど。でもそっちに立てることも美学だなって感じ始めてる。あと、インスト盤を聴くと、「Shaky」とかめちゃめちゃベースがすごいことをやってるんですよね。ドラムも速いし、ギターもやたら耳につくことをやってるし。でもちゃんと歌モノとして聴ける。そこは成長したなと思います。今までは自分の主張っていうか、いい意味でも悪い意味でもみんな派手なほうを狙ってたんですよ。でも今は、ちゃんとみんなが歌に意識を向けるようになってきた。
Sawada:さっきビックリマンチョコの話がありましたけど、いいものを「これっていいよね」と伝える時に、わかりやすく抽出していく作業ってすごく偉大だと思うんですね。それこそB’zもそうですよね。あれってハードロックを輸入して、日本人の肌に合うようにして「これって格好いいんだ!」って届ける作業だと思っていて。そういうことをやれるようになりつつあるのかなと、このアルバムを通して感じます。
Dennis:僕も、音楽を聴くうえで一番好きなのは歌なんですよね。たとえばジャズの中でも、好きなのは歌主導のポップソングだし。ナット・キング・コールとか、ソウルだとエタ・ジェイムズとか。あと日本のポップスだとCHAGE and ASKA、安全地帯、大好きです。