Suspended 4th、コロナ禍を経て行き着いた“歌”が持つ強さ エンターテインメントを追求した新たな境地

Suspended 4th、“歌”の強さ

 名古屋のストリートから始まり、<PIZZA OF DEATH>経由で世界に飛び立とうとしているSuspended 4th。昨年から変化を匂わせる3曲が配信リリースされているが、バンドの新境地を最もわかりやすく提示するのが初の全国流通シングル『KARMA』である。カップリングの「KOKORO-DOROBOW」はごく初期に生まれた曲だが、10代の荒ぶる衝動とあわせて飛び出してくるのは今までになく力強いメロディ。得意技だったバカテクのバトルを塗り替える「強い歌」への希求である。結局は歌が強いと認め、方向性をシフトしている現在だが、同時に本作には上記2曲のインストバージョンが入っていることも興味深い。「いい歌」を求めつつ「歌なしでも演奏だけで全部もっていく」ことができる無二のプレイヤビリティについて、メンバー全員に語ってもらった。(石井恵梨子)

「結局歌が一番強ぇや、って」(Washiyama)

一一コロナ禍になってライブの数も減っていますけど、そのことでバンド内に変化はありますか?

Kazuki Washiyama(以下、Washiyama):まぁ制作をたくさんやれる状態ではあったんで、ボチボチ新曲を書いてましたね。あとスタジオ作業の時間も設けてもらうことも多くて。ちょうど今、フルアルバムを収録してる最中です。

一一あぁ、曲作りにたっぷり集中する時間でもあった。

Washiyama:はい。だから変わったことでいえば……態度?

Seiya Sawada(以下、Sawada):そうだね。コロナ以前はちょっと「俺らキてるな」って感じで(笑)、ちょっと調子に乗っていたところがあったんですが。コロナ禍になって活動が一旦ストップして、2020年は図らずも自分を見つめ直す期間になったんですね。それはマイナスな意味ではなくて。

Hiromu Fukuda(以下、Fukuda):うん、やれないことをまず受け入れて、その中でじゃあ何ができるだろうって考えて。僕の場合だと、YouTubeの個人チャンネルをわりと真面目に動かし始めたりして。ちゃんと更新してスキルアップできて、再生回数が伸びていったら、コロナが明けた時にはバンドにいい影響を与えるだろうし。個人としてもプラスの影響があった感じですね。

一一楽しそうですね。Dennisさんはどうです?

Dennis Lwabu(以下、Dennis ):コロナ以前は……遠方でのライブが本当に苦手で、僕は(一同笑)。「なんでこんな遠いところに行って30分演奏して帰るんだろう」と思ってたんです。でもそういう機会が貴重になった今は、楽しめるようになってきた。ライブ自体はもちろんですけど、その地方を散策して回ったり、あと喫茶店を巡ったりして。どこでも楽しめるし「この時間も貴重な時間だったんだな」って再確認して日々を楽しく生きてる感じですね。

一一みなさんいい変化なんですね。楽曲としては、2021年の「もういい」「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」以降、歌がすごく強くなった印象があります。

Sawada:そうですね。Washiyamaの変化がそのままアウトプットされてる。

Washiyama:歌のコツっていうか、一皮剥けた自覚が自分の中でもあって。今は歌うのがちょっと楽しい。上手くなったかどうかはわからないですけど。

Suspended 4th -もういい(OFFICIAL VIDEO)
Suspended 4th -ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン(OFFICIAL VIDEO)

一一そうなった理由は思い当たります?

Washiyama:なんだろう?「もういい」の頃はまだそんな意識もなかったんです。でも「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」くらいから、楽曲のあり方、書き方が変わってきて。今までって必殺技ばっか、みたいな感じでしたけど、そういうのを取っ払ってできるだけシンプルに。リフはシンプルに、ドラムもシンプルに。スラップは……ちょっとシンプルじゃない(笑)。

一一この必殺技は残したいところ(笑)。

Fukuda:ふふふ。僕はわりと「俺が、俺が」タイプなんで、いくら歌が強くてもベースが消極的になるものにはしたくないと思っていて。なんていうか、自分で勝手に、ベースキッズたちがコピーしたくなるベースラインにしなきゃ、みたいなものを背負ってるんです。毎度歌を食うぐらいの勢いでベース弾いてやろうとは思ってますね。

Washiyama:どれくらいメロディが強い曲でも、それでもやっぱり邪魔してくるからね、うちのベースは(笑)。

Fukuda:……すまん(笑)。でも今回の新曲はスラップじゃなくてタッピングなんですよ。そこも新たな挑戦で。

Washiyama:ただ、そういうことをやりつつ、楽器陣みんなに「楽曲をよくしたい」っていう気持ちがあったのは事実で、俺の歌でそれをできるようになってきたのが「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」と今回の「KARMA」ですね。まずメロディの強さを出せたらいいなって。

Suspended 4th - KARMA (OFFICIAL VIDEO)

一一ライブでの刺さり方は確実に違ってきますね。

Washiyama:でしょうね。だから、それがコロナ禍を経て気づいた最大のことかもしれない。結局歌が一番強ぇや、って。

Dennis:うん。結局は歌が強い。

Washiyama:今は楽曲のスタイルがそういう方向になってる。サスフォーっぽいテクニカルなこともやりつつ、いい塩梅を目指そうとしてる。今はちょうど中間地点ですね。進化途中っていう。

Dennis:うん。今のSuspended 4thって「あぁ、あの演奏が上手いバンドね」って感じだと思うんですけど、そのうち「あぁ、Suspended 4th、いい曲だし歌もいいよね」、その後に「……そういえば演奏もよかったかな?」ぐらいになるといいなと思ってます。

Sawada:演奏を褒めることがオツな視点、みたいなね(笑)。そこに気づける俺、みたいな。

Dennis:「実はあのバンド演奏もいい」みたいな(笑)。

一一その前に、まずはメロディと歌が耳に入ってくるのが理想。

Sawada:そうですね。

一一これって初期の頃を考えると真逆といえる変化ですよね。フリーセッションで各自どれだけドヤ顔できるか、みたいなライブだったから。

Suspended 4th
Kazuki Washiyama

Washiyama:そうですね(笑)。その感覚もいまだにあるんですけど、でもコロナ(の無観客配信)でお客さんがいない体験をしてから、どうしても、お客さんの顔を思い浮かべながら曲を作っちゃいますね。ストリートでやっている時は、本当に自分たちに興味のない人を呼び止める楽曲を書いてたんですよ。そういう人たちをいかに驚かせるか。だから演奏のギミックの話になるし、いかに必殺技を繰り出すかがメインになってたし。ただ、それは配信ライブになるとまったく通用しない。やっぱりその場にいる人の歓声とかリアクションにかなり助けられてたんだなって気づかされた。だから、スキルだけ、知識だけじゃなくて、もっと音楽的なエンターテインメントを突き詰めていくと、やっぱり歌なんだなって。

Dennis:あと、前は演奏技術で武装してたところもあったと思う。自分たちの実力を証明するためにテクニックで見せてましたけど、その必要もなくなってきたというか。何かを証明するかのような演奏をしなくても伝わる自信がついてきたんじゃないかなと思ってます。

一一Washiyamaさんの思ういい曲、名曲って、どういうものですか。

Washiyama:あー……たとえばOasisの「Don’t Look Back In Anger」とか。みんな歌うじゃないですか。ああいうのが名曲っすよね。The Beatlesだって本国に行ったらみんなどの曲も歌えるし。日本で言ったらみんながカラオケで歌いたがる曲も名曲になるんだろうと思う。今ならAdoさんとか。

一一あぁ、「うっせぇわ」。

Washiyama:あれも名曲じゃないですか。メロディがすごくキャッチーだし、歌詞も含めてちょっと突飛な感じもして。一聴して「あ、歌いたいな」って思える曲が俺的ないい曲ですね。そういう意味では、今までサスフォーの曲で歌いたくなるとか、シンガロングするイメージってあまりなかったんですけど、この「KARMA」はみんなでシンガロングできたら面白いだろうなって。

一一歌から始まるイントロが象徴的です。

Washiyama:そうです。そのイメージで作りました。

一一作る時って、バックと一緒に歌メロも出てきます?

Washiyama:そこはバラバラですね。歌が先なのか、コードが先なのか、リフが先なのかは曲によってまちまちだし。どう書いたかって自分で全然覚えてないんですよね。これ自分で言っててびっくりします。

一一(笑)。3人にデモを聴かせた時は、すでにこの歌も入った状態?

Sawada:もう全部決まってましたね。ほぼこの状態。サイズも決まってて。満場一致で「いいね」ってなった感じ。

Washiyama:で、俺がその後イントロ改造したり、Aメロもめっちゃ改造したんですけど……「やめよう」ってなりましたね。「これは歌がいいから」って押さえつけられました。

Dennis:途中、5バージョンくらい変わりました(笑)。

Sawada:でも結局は、ほぼほぼ最初のディティールに戻ったよね。

一一ファーストインプレッションが一番よかったと。

Dennis:これぐらいシンプルなアレンジのほうが、ライブの演奏の様子も思い浮かぶし。まずボーカルから始まるじゃないですか。ライブでアカペラになる時って「ステージに本物がいる!」って思う瞬間だったりするし、そういう演出ができる曲だと思った。バンドの音がインしても一人ひとりの音がちゃんと聴こえてくるし、それでもずっと歌が主役になっていて。全体のアンサンブルとしても美しいんじゃないかなって思いましたね。

Suspended 4th
Dennis Lwabu

一一まさに今、大きな変革期の中にいることが伝わってくるエピソード。

Washiyama:はい。そうだと思います。一瞬不安になって「武装したほうがいいんじゃね?」と思ったけど、でも結局はできるだけシンプルに。

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