関取花、今までの歩みが1本につながった原点回帰作 音楽を始めたての衝動にもう一度向き合えた理由とは?

関取花、衝動にもう一度向き合えた理由

衒いのない言葉で、自分にしか書けないものが見えた瞬間

ーーちなみに「明大前」と「障子の穴から」は、全体を通してちょっと異質な曲だなと思っていたんですよ。

関取:さすが! 実はこの2曲は約10年前に書いたものなんです。

ーーそうなんですね。「障子の穴から」は当時からこういうイメージの曲だったんですか。

関取:ギターストロークは当時の弾き語りのまま変えてないんですけど、音作りの上でなんとなく、だだっ広い荒野とかロードムービーのイメージがあって。『パリ、テキサス』のライ・クーダーのギターとか、『テルマ&ルイーズ』でサンダーバードが荒野を駆け抜けて行く感じとか、空虚だけど夢を抱いているような景色が脳裏に浮かんできたときに、「やっぱりスティールギターだよな」「宮下(広輔)さんとご一緒したいな」と思ったんです。それならアコギはジャカジャカさせたり、ドラムはどーんと聴かせるものにしようっていう感じで、イメージを肉づけするようにできていった曲ですね。

ーーそういう荒削りでどこか無鉄砲なサウンドの中に、“夢を諦めきれない自分”がアルバムの中に登場しますよね。特に「明大前」と「障子の穴から」はそれが強いと思うんですけど、10年ほど経った今歌おうと思ったのはどうしてなんですか。

関取:できたときから2曲ともすごく好きだったんですけど、歌っていて自分のメンタルがやられる曲だったんですよ。何回かアルバムの候補曲に出したときも浮いてしまうというか、「こんな私も本当は暗い人だからね」みたいな、独りよがりでかっこ悪い歌に聴こえてしまわないかと不安だったんです。もっとナチュラルに透けるような感じでアルバムのグラデーションに馴染んで、なおかつネガティブに聴こえない出し方がいいなとずっと思っていて。今回のアルバムって、もちろん曲ごとにできた時期も質感も違うんですけど、全体的に泥臭さがちゃんとあるので、「明大前」と「障子の穴から」がうまく馴染んで、ただルサンチマンを抱えているだけの歌としては聴こえない気がして。今だなと思ったんです。

ーー確かにアルバム全体的に、喜びの裏にある悲しみ、失望の先にある希望を描いているから、「明大前」や「障子の穴から」もうまくはまったんだと思います。「モグモグしたい」や「ラジオはTBS」みたいな一見お茶目な曲も、悲しみと紙一重な曲だと思うので。

関取:そうそう、まさにブルースなんですよ。「ラジオはTBS」は、1人でやるせない時期もあるけど、そこでラジオに救われたという自分の経験が反映されてますし。

関取 花『ラジオはTBS』Music Video

ーー〈また今日が終わる/僕は一人途方にくれる/何もできず 何一つ変われず〉というやり切れない気持ちで過ごしている「明大前」の主人公は、家に帰って「ラジオはTBS」を聴いているんじゃないかと想像していました。その意味では、コインの表と裏の曲が並んだようなアルバムですよね。

関取:嬉しいです。作ってるときその発想はなかったけど、ラジオに救われていた駆け出しの時代に「明大前」を書いているので、まさにそうです。

ーーもっと言うと、「明大前」や「障子の穴から」は夢について歌っていて、「季節のように」には〈情熱を忘れずに〉という歌詞があって、「青葉の頃」では初恋をテーマに歌っていて、まるで10代の頃の自分に語りかけているような気がしたんですよね。『新しい花』でちゃんと肯定のメッセージを発信できるシンガーになれたからこそ、若かりし頃の自分に胸を張って“また会いましたね”と言えるアルバムになったんじゃないかなと。

関取:まさにそれ正解です! 今言ってくださったことは、ジャケットを描いてくださった三好愛さんにイメージをお伝えするとき、同じようなことを書いてお渡しした記憶があるんですよ。「過去のいろいろな経験も一切無駄じゃなかったとやっと思えるようになった」「胸を張って過去の自分に“また会いましたね”と言えるようになった」と本当に書きました(笑)。10代の自分に向けた感覚はなかったですけど、音楽を始めた頃の気持ちを取り戻せたと思っているので、言われてみたら10代に向けているなと。まだ人のことを信頼し切っていなくて、葛藤と希望が同じぐらい渦巻いていて、賢くないから妥協もできなかった頃で、とにかく「私しか歌えない歌を歌う」と思っていたのが10代でした。その後、テレビの仕事とかをやらせていただくうちに、「どうやったら共感を呼べる歌になるんだろう」とか、だんだんそういう発想になっていくんですよね。音楽で食べているので当たり前なんですけど、どこかで頭でっかちに考えるようになってきちゃったのかなと。今回はそこに対して、すごくピュアな状態に戻った感じがしてます。

ーー改めて突き詰めると、どうして今回はピュアに戻れたんだと思います?

関取:いろんなことが関係しているんですけど、1つ挙げるなら『バチくるオードリー』(フジテレビ系)で仕事をさせていただいたことが結構大きくて。芸人さんが書いた歌詞にメロディをつけて歌う企画なんですけど、普通シンガーソングライターが書く歌詞って、パッと見ればどこがAメロ、Bメロ、サビなのか、なんとなく構成がわかるんです。でも番組では、芸人さんが思ったことをバーッと書き殴ったような歌詞を渡されたので、それがわからなくて、どこをAメロ、Bメロ、サビにするのか全て私に委ねられていたんですよ。いろんな言葉がぐちゃぐちゃに入り混じっているけど、とにかく強烈なパッションを感じられる歌詞だったので、見たときに思わずグッときてしまったんです。曲を聴いたスタッフさんやオードリーさんのリアクションを見ていてもハッとして、「こういうものが本当に刺さるんだな」「いつの間にか、初期衝動や個人的な物語を省くモードになってしまったんだな」と反省しました。それがきっかけで、衒いのない言葉で自分にしか書けないものが見えてきたし、アルバムに「明大前」を入れようって決心できたんですよね。

ーー番組で共演していたTAIGAさんが「明大前」のMVに出演しているのは、運命的なキャスティングなんですね。

関取:そうなんです。でも「なんで自分がここに呼んでもらえたんだろう?」と考えていくと、「もしかして私、こういう場に呼んでもらえるために今までバラエティの仕事とか頑張ってきたのかな」っていろんなことがポジティブにつながって。実際、私の人柄をよくわかってくださっているスタッフさんが番組にいてくれたので、そういうところからお声かけいただけたんじゃないかなって。ラジオについても、私はTBSラジオが好きってずっと言っていて、他局ですがパンサーの向井(慧)さんのラジオもずっと聴いていて、それがいろいろ巡り巡ってタイアップにつながったりとか(『パンサー向井の#ふらっと』オープニング&エンディングテーマを関取が担当)。自分の調子が悪くなって声が出なくなってしまったとき、芸人さんのラジオをたくさん聴きながら「頑張るしかない!」って励まされたことも今につながったし、「あのとき声が出なくなったのも、この日のためなのかな」って思えるようになったんですよね。アルバムには、そうやって“憧れていた人にまた会える”っていう意味も込められています。

ーー素敵です。アルバムの最後の曲は「スポットライト」ですが、今のお話の地続きにある曲として聴くと、感じ方も変わりますね。

関取:ステージ上でスポットライトを浴びている最中ではなくて、舞台袖について書いた曲なんです。ローディーさん、PAさん、ライターさん、レーベルのスタッフさんとかいろんな方に支えられているから自分が輝けるんだなと思うし、裏方の全ての人にスポットライトを当てたい。なので、あらゆるお仕事をしている人たちに、自分自身を重ね合わせて聴いてもらえたら嬉しいです。「なかなか輝けない」と日頃思っている人たちにも、せめてこの曲を聴いている間だけはスポットライトが当たればいいなと思っています。

ーー「明大前」や「障子の穴から」で悔しさを感じている主人公も、きっとこの曲を聴きたいんじゃないかなと思いました。

関取:もちろん、くすぶった時代を経験しているからこそ、「スポットライトが当たるかどうかは自分次第だよ」っていう自戒も込めてますけどね。もっと大きなところでライブをやれるようになりたいし、例えばドームで「スポットライト」を披露したら「うわぁ……!」って見上げられるような、憧れの対象としてかっこよく届けられるんじゃないかなって思うので。でも、いろんなことを経て胸を張れるようになった今の自分だからこそ、この曲の魅力を生々しく伝えられるような気がしているんです。

関取 花
関取花『また会いましたね』

■リリース情報
関取花 メジャー2ndフルアルバム『また会いましたね』
2022年7月6日(水)¥3,300税込
<収録曲>
1. 季節のように
2. ねえノスタルジア
3. 風よ伝えて
4. やさしい予感 (TBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』交通情報テーマソング)
5. 長い坂道
6. 明大前
7. ミッドナイト・ワルツ
8. 道の上の兄弟
9. 障子の穴から
10. モグモグしたい
11. 青葉の頃
12. ラジオはTBS (TBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』オープニング&エンディングテーマソング テーマソング)
13. スポットライト

■ツアー情報
『関取花2022ツアー “また会いましたね”』
2022年9月2日(金)名古屋クラブクアトロ(愛知)
開場18:00/開演19:00

2022年9月11日(日) DRUM SON(福岡)
開場17:00/開演18:00

2022年9月17日(土)金沢AZ(石川)
開場17:00/開演18:00

2022年9月19日(月・祝)NIIGATA LOTS(新潟)
開場17:00/開演18:00

2022年9月24日(土)仙台Rensa(宮城)
開場17:00/開演18:00

2022年10月2日(日)広島Reed(広島)
開場17:00/開演18:00

2022年10月8日(土)札幌cube garden(北海道)
開場17:00/開演18:00

2022年10月22日(土)磔磔(京都)
開場17:00/開演18:00

2022年10月23日(日)music club JANUS(大阪)
開場17:00/開演18:00

2022年11月10日(木)EX THEATER ROPPONGI(東京)
開場18:00/開演19:00

チケット料金:¥4000(税込)
※東京公演のみ¥4500(税込)
※当日券¥500UP 入場時別途1ドリンク代

関取花 オフィシャルHP

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