Orangestar、青屋夏生、烏屋茶房……MVに実写を使用するボカロ曲の共通性

 2007年に初音ミクが登場し、ボーカロイドはインターネット上での新たな文化を築き上げてきた。発売当初はカバー曲が中心であったが、しだいに完成度の高いオリジナル曲が発表されるようになり、楽曲と共に世界観を表現するMVが動画投稿サイトを中心に注目を集めるようになった。

 そんな中で、今回取り上げるのは、実写の映像や写真がMVで使用されているボーカロイド楽曲だ。イラストやアニメーションを用いたMVが主流であるボカロ界隈で、これらの楽曲が持つ魅力や共通性について触れていきたい。

Orangestar

 「アスノヨゾラ哨戒班」や「回る空うさぎ」など、数々のヒット曲を生み出しているOrangestar。夏の始まりを彷彿とさせる爽やかなサウンドは、多くのボカロリスナーの心を掴んだ。

 2022年4月に発表された「ノクティルーカ」のMVは、透明感あるサウンドとリンクした実写映像が印象的だ。監督・撮影・編集を担当したのは、同楽曲にドラムで参加しているイノウエケンイチ。Orangestarは過去にも「未完成タイムリミッター」で実写とイラストをおり混ぜたMVを発表しているが、全編実写映像はこれが初となる。

Orangestar - ノクティルーカ (feat. IA) Music Video
Orangestar - 未完成タイムリミッター (feat. IA) Official Video

 同MVでは、歌詞に合わせた情景が流れ、過ぎていく時間に対し思いを巡らせる様子がひしひしと伝わってくる。階段を降りていく足元や電車のホーム、車窓に映る流れていく街並み。こういった日常を切り取ったような映像が、見ている方の解釈や共感を高めている。

 とくに注目したいのは、ラストにかけて映し出される海の映像だ。生命を連想させる海が力強く波打っている様子と楽曲の疾走感が濃く絡み合い、曲の前進力を増幅させている。聴き終えた後に、物語を一つ見終えたような、充足感に浸れる映像となっている。

青屋夏生

 次に紹介したいのは、青屋夏生の「はいはい」だ。シンプルな楽曲構成でありながら、インパクトのある歌詞が壮大な世界観を感じさせる。イントロに映し出されるのは、ゆっくりと回り続けるチンパンジーの銅像だ。この時点で、他のMVから突出したメッセージ性があらわれている。

はいはい / 可不 - 青屋夏生

 大きな歩幅を連想させるテンポ感や、サビへの盛り上がり方は地面を確かめながら歩いている人間をテーマにしているように感じた。歌詞の中で、直接的にテーマについて触れることはないが、シンプルなMVの映像が聴き手の想像力を加速させている。

 とくに2番のサビで映し出される軍隊が歩く姿と〈いっしょいっしょ あんよが じょうず/その手で なにを護ろうとしたの?〉という歌詞は難しい言葉を一切使わずに、聴き手の感情を揺さぶる印象的なシーンであった。青屋夏生の独創性が前面に押し出された楽曲に圧倒されること間違いなしだ。

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