Tani Yuuki、宇多田ヒカル、Snow Man……2022年上半期チャートから見える“令和型”ヒットの法則

 先日発表された2022年のビルボードジャパン上半期チャート(※1)。ヒットの法則が“令和型”ともいえる新しいパターンに変容しつつあることを実感する興味深いデータとなった。本稿では、チャート結果をもとに新時代のヒットの法則を考察。長年音楽業界でプロモーション業務に携わり、株式会社スマイルカンパニーの代表を経て、現在は宣伝コンサルタント/新人アーティスト発掘・プロデュースを行う合同会社デフムーンにて代表を務める黒岩利之氏に、平成と令和のヒットの違いなど解説してもらった。(編集部)

傾向①「令和型の完成~TikTok発の楽曲ヒットの定着」

 メジャーレーベルの一押し(資金投下も含めた強力なプッシュ体制)や、大きな背景(楽曲タイアップなど)によるヒットを“平成型”とするならば、それらがなくても、SNSでのバズをきっかけにサブスクヒットにつながる流れが“令和型”である。この上半期もTikTokから火が付き、躍進したニューカマーが登場した。

 その中で僕が注目したのは、2020年に「Myra」で彗星の如く登場したシンガーソングライター・Tani Yuukiの2発目のヒットとなった「W/X/Y」(総合ソングチャート17位)である。この「Myra」から数えて5枚目のシングルは、発表から半年以上を経て、チャート上位への帰還を果たした。

 その間にも2カ月~3カ月のタームで新曲を発表し続けていて、フジテレビ系月9ドラマ『ナイト・ドクター』で劇中使用された「Over The Time」のように、平成型ヒットパターンでは有効と思われる楽曲もあった。平成型のほとんどの場合、新人ヒットに関して、1曲だけのヒットで終わるか、連続してヒットを出し、ブレイクアーティストとして定着するかの2つの結果しかないと言える。そのため平成時代の僕らはデビュー前に2曲以上のヒットポテンシャルのある楽曲を準備することが正しいとされてきた。しかし、今回、TikTok発の楽曲ヒットは連続しなくても2回目はあるという結果となったのが、興味深い。おそらく発表したそれぞれの楽曲の再生データやリスナー属性、SNSでの浸透度を注視し続けた結果、この「W/X/Y」を仕掛けたのではないか。プロモーション期間は、発売週前後の2週間が山という平成型の概念を変容させた令和型は、データに基づいた新たなマーケティング手法をも証明してみせたといえよう。

傾向②「平成型ビッグアーティストの令和的変容」

 宇多田ヒカル『BADモード』(総合アルバムチャート6位)に注目してみる。

 平成型では、ヒットシングルが複数枚入ったアルバムが売れるアルバムとされてきた。ところがサブスク時代に突入し、アルバム単位から楽曲単位でのリスニングスタイルへの移行が確立されると、作戦の変更が必要となってくる。

 3年7カ月ぶり、通算8枚目となるこのオリジナルアルバムは、収録10曲中7曲がタイアップ楽曲で、その中でも「One Last Kiss」は映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』テーマソング、「君に夢中」はTBS系金曜ドラマ『最愛』主題歌として、リード曲としての役割を十二分に果たす。ここまでは平成型のビッグアーティストの一つの正攻法の戦いである。

 それに加え、サブスクでの配信をCDリリースより1カ月先行させるという試みを行う。これは新しいリスナーの掘り起こしという点で、サブスクでの展開そのものが有効に機能することを実践してみせた。

 まさに、平成ビッグアーティストの令和型変容と言えるのではないか。常に時代を敏感に捉え、トップを走ってきた宇多田ヒカルだからこそ、実践し得たのだとも思う。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる