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橋本裕太×ESME MORI、『1,300miles』対談 アジアデビューに向けた制作面での意識
中国はラップの需要が高い
——「Right Here」は、ギターの軽快なカッティングとグルーヴィーなトラックを軸にしたナンバー。〈今日は一人でいたいから right here〉という日本語のフレーズもインパクトありますね。
橋本:僕の休日のことを歌っているんですよ。ESMEさんに歌詞を送ったら、「こういう内容になるとは思ってなかった」と言われて(笑)。
ESME:そうそう(笑)。トラックはギターが主体で、シンセがブンブン鳴っていて、ビートも主張が強くて。どういう歌詞が乗るのか全然想像できなかったんですけど、橋本さんのプライベートが描かれてるのが意外だったんでよね。そういう意外性も面白かったです。
——実際、「今日は一人でいたい」みたいな日も?
橋本:わりと引きこもり体質なんですよ(笑)。休みの日とかも、「誰も連絡してこないで」と思うこともあったり。コロナ禍で家にいる時間が増えて、一人の時間がたくさんあったことも無意識のうちに反映されてるかもしれないです。最初からテーマを決めていたわけではなくて、「サビの頭にどんな言葉があったら気持ちいいだろう?」と考えて、そこから展開させた歌詞なんですけどね。
——やはり言葉の響きを重視していたんですね。そして、「Flames」はヒップホップのテイストを押し出した楽曲。
ESME:アルバム制作の中盤から後半に作ったんですが、攻めたトラップがあってもいいんじゃないかなと思って。「Lover」でもトラップを取り入れてるんですが、もっとゴリッとした感じでやりたいという自分のモードもあって、「Flames」のトラックを提案させてもらいました。橋本さんのボーカルが本当によくて。対応力を含めて、すごさを改めて感じましたね。
——中国語のラップ、ハードルはかなり高いですよね。
橋本:そうですね。中国はラップの需要がすごく高くて。日常のなかでラップが聴こえてくるし、同世代の友達もみんなラップができるんですよ。オーディション番組に参加したときも、「歌は得意じゃないんだけど、ラップならやれます」という人がけっこういたんです。みんな小さいときから親しんでいるし、ラップバトルの番組も人気で、ラッパーのスターも多くて。なので僕としても「いつかトライしなくちゃいけない」と思っていたし、「Flames」のトラックを送っていただいたときに、「ここだ!」と。実際はメロディラップに近いんですけど、テンポが速いし、言葉が詰まってるので、馴れるまでにはかなり練習が必要でした。まずゆっくりなテンポからはじめて、ちょっとずつ上げていく作業をやってましたね。
ESME:英語のラップとはかなり雰囲気が違いますよね。同じトラップ系のサウンドであっても、乗っている言語が違うとこんなにもグルーヴが変わるのかと。
——ESMEさんにとっても発見が多い制作になったのでは?
ESME:はい。最初にも言った通り、自分自身がカッコいいと感じるものを作ったんですけど、橋本さんの声とも相性が良かったし、勉強になることも多くて。「Lover」以外の曲のミックスをお願いしたD.O.I.さんが「いい曲だね」と言ってくれたんですよ。世界レベルのエンジニアの方が褒めてくれたということは、いい曲が作れたのかなと。1曲、2曲ではなく、数曲をまとめて任せていただけて、いろんなテイストの曲を作れたのもよかったですね。——橋本さんの存在がアジア圏で広まるのはもちろん、ESMEさんのトラックやプロデュースワークが知られるきっかけになりそうですね。
ESME:そうなるとうれしいですね。自分としては「Miles」のようなバラードをアレンジできたことも大きくて。これまでの作品とは違う方向性の曲だし、けっこう迷ったんですよ。歌を活かすことを前提にしながら、ヒップホップでも使えるビートをさりげなく入れたり。いろいろトライしながら、最終的にはシンプルで一つひとつの音が際立つサウンドを作れたかなと。
橋本:中国のリスナーのみなさんからも「このアレンジ、すごく裕太の声に合ってる」「歌のよさが引き立ってる」というコメントがすごく多いんですよ。この曲は日本語バージョンもあって、そちらはまったくアレンジが違うんですが、中国語バージョンを聴いた日本のリスナーから「リアレンジした『Miles』もいい」と言ってもらえて。
ESME:ストリングスのボイシングもしっかり歌に寄り添ってますからね。
——アルバムにはReyi Liuとのコラボによる「Baby I Love You」(TEE)、「Butterfly」(木村カエラ)の中国語バージョンも収録。幅広いリスナーに訴求できるアルバムになりましたね。
橋本:僕にとってはアジアデビューアルバムですし、今までとは違うテイストの曲だったり、ラップや作詞にも挑戦して。いろいろなチャレンジができたと思うし、たくさんの方に届くといいなと思っています。
ESME:制作はリモートが中心だったんですけど、実際にお会いしたときに「すごく純粋で真っ直ぐな方だな」という印象があって。橋本さんを後押ししたいという気持ちもさらに強くなったし、ご一緒できて光栄ですね。
橋本:うれしいです。ここまで音楽活動を続けられて、少しずつ自信もついてきて。日々勉強していることが糧になっているし、それを今後の作品やパフォーマンスに反映させていきたいですね。“日本の音楽を中国のみなさんに知ってもらって、中国の音楽を日本の人たちに知ってほしい”という思いも強いんですよ。おこがましいかもしれないですけど、いずれ自分が架橋的な存在になれたらなと思っています。
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■橋本裕太
・リリース情報
アジアデビューアルバム『1,300miles』
<収録楽曲>
1.Baby I Love You
2.Butterfly
3.Lover
4.H.R.U
5.Right Here
6.Flames
7.World Without YouⅡ
8.Miles
9.Lover (Asia Remix)
・『1,300miles』デジタル配信まとめ
https://hashimotoyuta.lnk.to/1300miles_DeluxeEdition
・橋本裕太オフィシャルサイト
https://hashimotoyuta.com/
■ESME MORI
・1stアルバム『隔たりの青』
https://orcd.co/hedatarinoao
・ESME MORI Works (Spotify)
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWVLqpTv9SDcG?si=99ac6d9423d44219