クリープハイプ、“らしさ”と“新機軸”を昇華した音楽 最新ツアーに表れたロックバンドとしての意志

クリープハイプ、最新ツアーレポ

 クリープハイプがどこまでクリープハイプでいられるのか。それでいてどこまでクリープハイプを逸脱できるのか。ギターで奏でられる独創的なメロディと、フラストレーションをぶちまけるような尾崎世界観(Vo/Gt)のボーカルーーその衝撃が多くのリスナーにインプットされているからこそ、メジャーデビュー10周年を迎えるにあたり、“らしさ”と“新機軸”の狭間で葛藤があったのかもしれない。そんなことを感じさせつつも、見事に乗り越えて生み出された意欲作かつ核心作こそ、昨年のアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』であり、それをステージ上の4人の演奏へ昇華していったのが、今年6月上旬まで行われた全国ホールツアー『今夜は月が綺麗だよ』であった。

クリープハイプ

 思えば、そういった葛藤にクリープハイプはもっと早くから直面していたとも言える。2016年のアルバム『世界観』では、それまでのクリープハイプにはなかったヒップホップ要素を取り込み、同時期のライブでは尾崎もギターを置いてハンドマイクで歌うことが増えていった。そして2018年のアルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』は、4人のバンド然としたアンサンブルを固めた上で、どのようにメロディやアレンジで新しい色づけをしていくかに挑んだ作品であった。ある意味で両極な作風になったそれら2作の根底には、音楽トレンドやリスニング環境の急速な変化といった外的要因に対して、クリープハイプがどのように照準を合わせていくべきかという、明確な試行錯誤があったように思う。

尾崎世界観
尾崎世界観

 もちろん『夜にしがみついて、朝で溶かして』の制作にはコロナ禍が大きく影響したはず。だが、聴けば聴くほどそれだけではなく、“この先に向けて今の4人がどうあるべきなのか”という、よりパーソナルな視点に立脚した作品に思えてならない。アルバムの色を決定づけている「ナイトオンザプラネット」で、尾崎の原体験が全く新しい形で表出されているように、足元を見つめながらも、強い意志を持って変化を受け入れ、前に進もうとしているのが同作である。クリープハイプらしさを残しつつ、今までで最も幅広いアルバムになったのはそのためだ。『世界観』が夜、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』が昼を連想させるアルバムだとすれば、『夜にしがみついて、朝で溶かして』は夜明けを告げるアルバムだったと言ってもいい。

 本稿では5月18日に行われた中野サンプラザホール公演をレポートしていくが、前述したような音楽性をしっかりと体感することができた。まず、小川幸慈(Gt)のギターが印象的で、「四季」ではスライドギターから甘美なノイズを作り出し、「ニガツノナミダ」ではニューウェイヴ的な浮遊感のあるサウンドも織り交ぜていく。両曲とも中盤の転調が聴きどころで、「四季」の後半では長谷川カオナシ(Ba)がピアノを弾くことでポップなドライブ感が生まれていき、テンポダウンを挟む「ニガツノナミダ」では小泉拓(Dr)によるドラムの細やかさと力強さをどちらも味わうことができる。「ラブホテル」の歌詞ともシンクロしているガレージポップ「一生に一度愛してるよ」では、軽妙に疾走していくドラムの上で、グルーヴィなベースとユニークなギターの絡み合いが楽しめた。「キケンナアソビ」や「二人の間」は巧みな演奏の抜き差しも効いていて、ライブ全体を通していいアクセントになっていたと思う。

長谷川カオナシ
長谷川カオナシ

 そして、視覚的にも音響的にも楽しませてくれたのが、「しらす」「なんか出てきちゃってる」の2曲。前者では長谷川がピアノの前に座り、音源よりも長尺の「Uh〜♪」をエフェクトボイスで歌い始めるのだから、意表を突かれたようで驚いた。グッと落とされた照明、振り付けや童謡のようなメロディも相まって、オーディエンスを一気にノスタルジックな気持ちへ誘い出す。さらに後者では、ミラーボールが回るクラブのような空間に変化。打ち込み主体の演奏に尾崎のドライな語りが乗っていく一方、小川のメロウなギターの魅力も発揮されていて、夢と現実を往来するような独特のサイケデリック演出がかなり斬新だった。

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