Karin.×三浦しをん、“愛とは何か?”を語り合う それぞれの創作活動で共鳴する感情の探求

Karin.×三浦しをん 特別対談

 Karin.が、デビュー3周年記念日の6月8日に5th EP『星屑ドライブ – ep』をリリース。同作の表題曲は、Karin.が三浦しをんの短編集「天国旅行」の一篇「星くずドライブ」からインスパイアを受けて制作された。

Karin.「星屑ドライブ」Music Video -

 「星くずドライブ」は主人公のもとに死んだ恋人が現れるところから物語が始まり、そこから二人の生活を通して生と死の境界線をなぞっていくような、不思議な読み心地を覚える作品だ。これまでも日常生活や人間関係の中で生まれる感情に深く潜り込み、音楽として昇華してきたKarin.が、原作に流れる独特な空気感を引用しながらも、独自の解釈と視点を乗せて「星屑ドライブ」を完成させた。

 今回、リアルサウンドでは、Karin.と三浦しをんの対談を企画。両者の作品にまつわる創作エピソードをはじめ、歌詞と小説で共通する“言葉”にまつわる話からそれぞれの人生観、愛と死についてなど、多岐にわたるテーマでトークを展開してもらった。(編集部) 

「何かを希求する激しさみたいなものがKarin.さんの歌にはある」(三浦)

三浦しをん(以下、三浦):今回、「星屑ドライブ」を聴かせていただいて、自分が「星くずドライブ」(『天国旅行』収録)という短編で書こうとしていたのはこういうことだったのかもしれない、と思いました。同時に、インスパイアしていただいた同じタイトルの作品であるにもかかわらず、そこにはちゃんと、Karin.さん独自の世界観もあって。私が失ってしまった煌めきとか、自分に価値を感じようとすること、あるいは感じたいと願った世界が広がっていたんです。それは、Karin.さんの尖っているようで柔らかい、そして同時に脆さも内包したお声があってこそですよね。

Karin.:ありがとうございます。嬉しいです。高校生のときに『きみはポラリス』を友達に薦められて読んで以来、しをんさんの小説を漁るように読んでいたので、今回、対談の機会をいただけてとても嬉しかったんですが、昨日は「勝手に使うな」って怒られたらどうしようと不安になってしまって。

三浦:私の小説からこんな歌が! まじか! とめちゃくちゃ感動しておりました(笑)。透明な白い光の中に超高速で突入していく、みたいな疾走感がありつつ、どこか静謐な空気も漂っているし、閉じているようで開けている感じもするし……。

――三浦さんが「こういうことを書きたかったのかもしれない」と思ったのは、どのあたりなのでしょうか。

三浦:人と人って、どんなに大切に想いあっていたとしても、その想いの分量が等分であるなんてことは、めったにないじゃないですか。そのすれ違いをしょうがないこととして受け入れつつ、諦めつつ、でも何かを諦めきれずにもがく感じがすごく胸に響くなと思ったんですよね。たいていの人は、あえて鈍感になることで、図太くやりすごせるようになっていく……そうせざるをえない部分ってあると思うんですけれど、鈍感になれない儚さを抱えたまま、世界や自分に対して確かな何かを希求する激しさみたいなものがKarin.さんの歌にはあるんです。「星屑ドライブ」に限らず、Karin.さんの歌にはそんな強さを感じます。だからこそ切なくもあるんですけどね。

Karin.:「星屑ドライブ」の原型となった曲は、もともと、マネージャーの結婚の知らせを聞いてつくったものなんです。うちに荷物を届けてくれたとき、帰り際に「明日、籍を入れます」って報告してくれたんですけど、「あ、おめでとうございます……」と静かに言ってドアを閉めたのが、マネージャーはとてもショックだったらしくて。

三浦:そりゃそうだよ(笑)!

Karin.:去り際に急に言われたし、そういう改まった報告を受けるのが人生で初めてだったから、体がびっくりしちゃったんです。「きゃあ、おめでとう!」みたいにはしゃぐ柄でもないしなと思ったら、そんなそっけない感じに……。

三浦:もっと落ち着いた状態で報告してくれたら、じっくりテンションもあげられたかもしれないのに(笑)。

Karin.:でもやっぱり、誰かと一生一緒にいよう、と決意するのってすごいことじゃないですか。お祝いしたい気持ちと同時に、自分にとっての幸せってなんだろう、とかいろいろ考えちゃって。翌日、彼女が婚姻届を提出しているであろうときにできあがったのが「戻らない幸せ」みたいなタイトルの曲で。さすがにこれをマネージャーには送れないなと、こっそり社長に送りました。

三浦:社長も困惑したでしょうね……。

Karin.:マジか、って言われました(笑)。でも「もう一声ありそうだよね、これで完成じゃない気がするよね」とも。それで今度は、陶芸家がお皿をつくっては割るみたいに曲をバラバラにして、欠片を集めてつくりなおしてはまたバラバラにして……というのを繰り返して。

三浦:結婚なのに縁起が悪い(笑)。

Karin.:たぶんこれはいま必死に書こうとしても意味がないな、と思いました。幸せとはどういうものなのか、辿りつく景色を想像できるものがあればいいのに……と考えていたときに、しをんさんの『天国旅行』に出会ったんです。第一話の「森の奥」は、樹海で自死しようとする男性の遺言から始まるので、最初はとんでもない小説に手を出してしまったと思ったんですが、二日間くらいで一気に読んでしまいました。そのなかでも、死んだ彼女が幽霊となって帰ってくる「星くずドライブ」がいちばん衝撃的で。物理的にはいなくなってしまった、自分以外の誰にも姿を見ることのできない彼女を、一生思い続けようと決めた主人公は苦しくなかったんだろうか、と考えずにはいられなくて。

三浦:それはもう、ウェディングソングではないですね(笑)。「星くずドライブ」を書いたのは、お世話になった方が亡くなって何年か経っていたころで。それでもふとした拍子にその人のことを思い出すことが多かったんです。それに対し、さして親しくなかった高校の同級生なんかは、卒業後に会うこともなければ、お互いに、おそらく一生思い出すことはない。私の世界に存在しない、相手にとっても私は存在しない、という意味では死んだも同然の生きている人たちと、死んでしまったけどいまだに大事で何度も思い出す、生きているも同然の存在がいる。そのことになんだか奇妙な心地がしたんですよね。死んでいることと生きていることの境目は何なのだろう、と考えていることを小説にしたら「星くずドライブ」になりました。

Karin.:確かに彼女はそこにいたんだという記憶を、手触りを、鮮明にとりもどそうと必死にもがく主人公の姿が、読んだあともずっと忘れられなくて……。とりつかれたように、どんな想いだったのだろうと考え続けてしまいました。きっと彼が望んでいたのは、ただ普通でいること、だったんですよね。でも彼女は、死んでしまった。彼にだけは見えているから、存在はしているけれど、この世界のどこにもいない。その現実を受け止めて、幽霊の彼女とともにい続けられる限りはいようと決めた彼を想っていたら、自然と曲の歌詞が生まれていきました。

三浦:幽霊の彼女と主人公が一緒にいることが果たして幸せなのかは私にもわからないんですよ。けれど、霊の見える人にとって、死んでいる人と生きている人の区別はほとんどないんじゃないか、とも思うんですよね。そんなふうに私が考えていたことを、深く受け取って、しかもこんな素敵な曲にしていただいて、本当に感謝の気持ちしかありません。

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