Music Generators presented by SMP
東方神起、西野カナ、JY……山本加津彦の作家としての軌跡と信念 手がけた作品が繋いでいく音楽の縁
バラードと可愛いアップテンポの曲が武器に
――ここからは山本さんの作家活動のターニングポイントについてお聞きしたいんですが、まずは福井舞(現ふくい舞)さんの「アイのうた」(2008年)を挙げられています。
山本:作家を始めて初期の頃に作った曲です。この年にはCHEMISTRYの「恋する雪 愛する空」や、JUJUさんの「空」というシングルを作らせていただいたんですが、「アイのうた」は、それらの曲以上にヒット曲が持つパワーみたいなものを感じたんです。
――ヒット曲のパワーというと?
山本:ある日、都内で電車を待っているときに隣のドアで待っていたカップルの女の子がいきなり〈アイのうたが~〉と「アイのうた」を歌い出したんです。「エーッ!?」とビックリしたのと同時に「ヒットするとそんなことになるんだ」と思って。それまではステージに立って演奏して、目の前の人に音楽が届けばいい、目の前の人が泣いてくれればいいっていう考え方だったんですが、自分の目の届かないところでこんなに広まっているんだっていうことを実感して。しかも「背中を押してもらえました」とか、そういう声も届いていたので、自分の手を離れたあとに聴く人の生きる力になるようなことが起こるのがヒット曲の力なんだと思ったんです。
――今年3月11日に配信された「いつかまた浪江の空を」を歌う牛来美佳さんとの出会いも、「アイのうた」だったそうですね。
山本:そうなんです。2009年に、Ao-Nekoで福島県浪江町に演奏に行ったとき、駅前で「アイのうた」をカバーしている女性をたまたま見て、それが牛来さんだったんです。どこに行っても自分が作った曲を知ってくれてる人がいる、繋がれる、それだけで会話ができるっていうパワーを初めて実感した曲なんです。
――続いて、ターニングポイントに挙げてくださったのが、JYさんの「好きな人がいること」(2016年)です。
山本:「アイのうた」以降、ほとんどバラードしか作ってなかったんです。Ao-Nekoではアップテンポをやっていたんですが、作家としてはガチガチに打ち込んだアップテンポは作ってもあまりいい曲ができないことがわかってしまって、バラード1本に絞っていたんです。
――バラードはバラードでも、山本さんはピアノの弾き語りのようなバラードを作ることが多いですよね。
山本:そっちの方が普遍性があると考えています。100年後にタイムスリップしても聴いてもらえる曲を作りたいと思っているので、余計な音を入れるよりはシンプルにピアノと歌と歌詞だけで届けられる曲を作りたいんです。
――ところが、JYさんの「好きな人がいること」は思いっきりアップテンポです。
山本:それまでは得意なバラードだけを頼まれる感じだったんですが、JYさんチームが勘違いしたのか(笑)、それとも信頼されていたのか、お題が結構アップテンポだったんです。JYさんが歌う曲を全部書いてみて、みたいな依頼だったんで、こちらもやる気スイッチが入って、いろいろな曲を作っていく中で、初めてアップテンポでヒットした曲になりました。しかも、ああいう可愛らしい曲。完全に女子高生の気持ちになって書いた曲でした。
――歌詞はJYさんとの共作ですが、どのように書き進めていったんですか?
山本:JYさんのスタッフさんも全員女性だったんです。僕を含めた6~7人で会議室に集まって、僕が「こういうのはどうですかね?」って提案すると「それはちょっと……」「今どきの女の子はそんな言葉は使いませんよ」「女子の気持ちを理解してください」とか言われながら書いてたのを覚えてます(笑)。男性の自分が、可愛いアップテンポの曲を、まるで人格を入れ替えたように書くっていう。でも、そこでの曲作りの経験がその後の西野カナさんの楽曲提供に繋がっていくんです。
――作家人生の新たな活路を見出せたんですね。
山本:そうです。2015年、2016年辺りは、山口隆志さん(ギタリスト・作編曲家)が作った西野カナさんの「Darling」とか「もしも運命の人がいるのなら」のような、自分的にしっくりくるサウンドが出てきた頃だったんです。「好きな人がいること」もベースとなるデモの打ち込みは僕が作って、レコーディングのときはギターを山口さんに生で弾いてもらって打ち込みもイチから作ってもらいました。生音風の打ち込みを入れる音作りは心地良いなと思ったし、自分の打ち込みのスキルも追いついてきたタイミングだったので、こういうアップテンポなら自分もやりたいなと思ったんです。
――西野カナさんには「パッ」(2017年)、「手をつなぐ理由」(2017年)、「Bedtime Story」(2018年)を提供されています。
山本:当時、他にもアップテンポをいろいろ作らせてもらったんですけど、2016年、2017年辺りに作った曲は、我ながら自分でも頑張ったと思います。この頃になると、女子の気持ちになって書く可愛いアップテンポは、バラードと対をなす自分の武器になったと思えていました。歳を重ねるにつれて、そういうふうになるのはちょっと不思議な感覚でしたね(笑)。
――女性が歌う曲を書く際は、ファンタジーとして創作している感覚なんですか?
山本:それもありますし、こっぱずかしくないんですよね。男性が歌う歌詞だと自分と重なってちょっと恥ずかしい感覚があるんです。だけど、女性目線の歌詞は完全に別人格でいけるので、照れくささみたいなのを振り切って素敵な世界にいけるっていう。しかも、そういう曲を作ってるときは記憶がないんですよ(笑)。JYさんの〈もし5分前に戻れるなら何をしますか?〉っていう歌詞は最初からできていたんですが、書いた記憶がない。ピアノを弾きながら勝手に歌ってるのがボイスレコーダーに残っていて、僕はそれをイタコと呼んでました(笑)。「え、どんな気持ちで書いたんだろう?」って思うくらい。
――山本さんは、東方神起が二人で再始動したタイミングから楽曲提供を始め、多くの楽曲を手掛けられています。山本さんの作る生音重視のバラードは、彼らの楽曲群の中で質感が違う輝きを放っています。
山本:質感が違うと言っていただけるのはすごく嬉しいです。
――東方神起に初めて提供した「シアワセ色の花」(2011年)は、どのように作られたんですか?
山本:書いたのは東日本大震災のあとでした。震災後でなかなか音楽を作る気持ちになれていなかったんですが、彼らが再始動後のタイミングだったことと、自分の気持ちがリンクして、こういう曲を作りたいなというイメージがあって最初から歌詞をつけた状態で提出したんです。
――東方神起の楽曲を作る際、どのようなことを意識していますか?
山本:二人のハーモニーと声の美しさです。その前にCHEMISTRYの楽曲を作らせてもらったり、Ao-Nekoも2声で作っていたので、2声のハーモニーに対して良いものが作れるという自負があったんです。あれほど歌唱力がある二人ですから、最小限の楽器で、生音でバラードを作りたい。そんな僕の思いと東方神起サイドの求めるものが合致したんだと思います。
――東方神起の楽曲制作はどのような感じで進むんでしょうか。
山本:東方神起は生音でレコーディングさせてくれるアーティストなんです。ピアノも生だし、ストリングスも良い音でしっかり録りましょうって言ってくれるチームで、編曲までさせてもらえる。そんな贅沢な環境なので、「だからこそ生音で作りたい!」という気持ちが強くなるんです。予算が少ないから打ち込みで、という時代になっている今、東方神起は自分に与えられたチャンスを活かしていただけるアーティストだと思っています。
――東方神起は、SMP(SM Music Performance)と呼ばれる雄壮でドラマティックなサウンドとパフォーマンスが特徴です。山本さんの中で、ご自身が作る楽曲は自ずとSMPと対比が生まれるという思いもありましたか?
山本:ありました。あと、韓国のアーティストなので海外の現行のサウンドも取り入れている。それに対して、もっと高級感のある音というか、ジャズから来る音の響きというか。彼らの楽曲を作るときは、ストリングスを門脇大輔くんというアレンジャーに発注して、攻めたストリングスにしてもらっているんです。彼も「あまりにも気持ち悪かったら直してください」というほど、二人で切磋琢磨してギリギリのところを突いて攻めのバラードを追求している。それが、自分が好きな東方神起にマッチしてると思っています。
――なかでも「雪降る夜のバラード」(2019年)は名曲だと思います。特にライブでの存在感が圧倒的で、SMPの「動」に対して「静」で魅了する楽曲になっていますよね。
山本:ありがとうございます。彼らはドーム会場でライブをやることが多いじゃないですか。ドームでダンス曲が鳴り止んで、静寂がやってきて、ピアノだけが鳴る中で歌い始める。歌の一番が終わって間奏になると拍手がウワーッと鳴る。あれがたまらなく好きで。あんな大きな空間が、あれほど静かになって、歌っているところだけが輝いている景色があるんですよね。東方神起に曲を作り始めて、「ドームで聴きたい」と思って作ったのは「雪降る夜のバラード」からですね。
――この曲はどのようなイメージで書かれたんですか?
山本:その前に提供した「I love you」というピアノと歌とストリングスだけのバラードをドームで観たとき、二人がハモって歌っている姿がすごく美しかったんです。そのシーンを雪が降っているような景色でも作りたくなって、「雪降る夜のバラード」を書いたんです。
――直近だと、チャンミンさんが昨年12月にリリースしたミニアルバムに「You Light My Moon」、ユンホさんが今年2月にリリースしたミニアルバムに「Shake it like THIS」を提供されています。この2曲はアップテンポの楽曲ですね。
山本:どちらも、二人がドームでソロで歌っている姿をイメージして書きました。最初にユンホの方を作ったんですが、ユンホがドームで子供みたいに無邪気にはしゃぎながら歌ってるイメージで書いたんです。逆に歌詞は苦難を描きましたが、彼は例え辛いときでも会場を明るく笑顔にさせてくれる姿を何度も見たので。チャンミンの方は、ユンホとは同じ方向では作りたくないと思って、もっとメロウだけど情熱的で、最後に叫んでるイメージで作りました。彼は常人にはあり得ないような音域で歌えるので、サビはそれを活かしたいなと思って、2オクターブくらい跳ねるあの高音のメロディを作ったんです。
――今年3月16日にリリースされた東方神起のミニアルバム『Epitaph』に提供された「Light My Moon Like THIS」は、そのソロ2曲をそっくりそのまま合体させた楽曲になっています。あまり類を見ない楽曲ですが、このアイデアはどこから生まれたんですか?
山本:「シアワセ色の花」に出てくる〈どこまでもずっと 変わらずにずっと〉という歌詞は、二人のことを思いながら、東日本大震災のあとに書いていて。その曲で2011年から始まった縁ですが、10年経っても二人で活動していることをすごいなと思っているんです。ただ、その前に15周年のドームツアーの振り替え公演がコロナ禍で中止になった。そこから動きが止まったままだったんですよね。活動がままならないまま2年弱が経過したところでのソロ作品だったんで、ソロはソロとして独立してしまうような曲を作ることに抵抗があったんです。東方神起は二人でいることに絶対意味があるから、それを音でも表現できないかと考えて。今回の曲は1年前から作り始めたんですけど、いつか戻れるというメッセージも込めたくて合体版を作り、東方神起サイドに「どうですか?」と提案したら「最高です」という返事をもらえて、こういう形になったんです。
――山本さんの発案だったんですね。
山本:二人組じゃなかったら、このアイデアになってないと思いますし、単純に二人のライブが見たいという自分の願望が表れたんだとも思います。追加公演が中止になって「クッソー」という思いがあったから。せめて楽曲の中で二人が共存できたらなと思ったんです。