藤井風、洋楽カバーに見る音楽への深い理解 選曲、アレンジなどから創作活動の原点に迫る
アレンジの独創性
ピアノの弾き語りというのは、言わずもがなピアノと歌声だけの世界である。なので、ともすると自由度の低いスタイルと思われるかもしれない。しかし彼のカバーを聴いていると、いかに音楽は自由で無限なのかを再認識させてくれる。
8曲目に収録されたブリトニー・スピアーズ「Overprotected」のカバーはその好例だ。原曲は強烈なビートが印象的なダンスナンバーで、これもまたピアノの弾き語りには似つかわしくない選曲である。しかし彼は、この曲の爆発感をそのままピアノに持ってきたかのような、見事なアレンジを響かせている。
ピアノは構造上、打楽器と弦楽器、その両方の特性を兼ね揃えた楽器だ。彼はその性質をフルで使い、時にパワフルなキック音のようにも、時にドラマチックなストリングスのようにも聴こえる華麗な手さばきで、原曲の世界観を自己流で再現している。
88の鍵盤から繰り出される音楽のある種のダイナミズム。それを存分に体感できるこうした独創的なアレンジは、彼のカバーの大きな魅力と言えるだろう。
歌声にも注目
最後に筆者の個人的なオススメを書いておこう。それはラストに収録されているポスト・マローン「Circles」のカバーだ。
彼はこの曲で、これまであまり見せることのなかったエモーショナルな歌声を披露している。普段はクールめに、ウィスパーやエッジボイスを織り交ぜながら、穏やかな節回しで歌っているが、このカバーではやや声を荒げて、感情で思いを伝えることにウエイトを置いているような、剥き出しのボーカルワークが印象的だ。いつもは冷静な彼だからこそ、この曲の歌声には胸をえぐられるような気分にさせられる。もしかすると、今後の彼の作品の方向性にも通ずるカバーなのかもしれない。
5月からは全国ホールツアーが始まる藤井風。彼のライブではカバー曲の披露も定番となっている。アルバム曲はもちろんだが、どんなカバーを聴かせてくれるのかも楽しみだ。