花譜、ひとつの世界との別れと旅立ち 未来への一歩を踏み出した高校卒業記念ライブ

花譜、卒業ライブレポ

 3月26日、バーチャルシンガーであり、現役高校生であった花譜の高校卒業を記念した配信ライブ『僕らため息ひとつで大人になれるんだ。』が開催された。

花譜
花譜

 咲き誇る桜から始まり、窓から春の陽光の差し込む誰もいない校舎の様子が、花譜のポエトリーリーディングと共に映し出されていく。とある教室の窓辺で満開の桜を見つめていた制服姿の花譜が立ち上がり、教卓の前に立つ。

 “卒業式”のスタートを切るのは、相対性理論の「地獄先生」。先生に向けた女子高生のひそやかな恋情を描いた楽曲だ。「ふめつのこころ」(tofubeats)、「ミッドナイト清純異性交遊」(大森靖子)と、大人になりきる前の不安定な心模様を映し出すような、今日の花譜が歌うからこそより一層輝きが増すようなラインナップでライブは開幕した。

 「わたくし花譜は、無事高校を卒業いたしました!」と教卓の上で跳ねるように報告する花譜。続けて、花譜の声を元とした人工歌唱ソフトウェアである音楽的同位体 可不(KAFU)を使って制作された楽曲として披露するのは、軽快なリフが印象的な雄之助「花となれ」、水野あつの「生きる」。「生きる」は、傷つきやすい心を持ち、生きづらさを抱えながらも前を向こうとする意志を感じさせる楽曲で、花譜の繊細でいて深く訴えかけるような歌声が映える。

 可不楽曲の投稿について、花譜は「たくさんの人によってAI可不ちゃんの楽曲が生み出されていて、私はそれを見たり聴いたりするのがすごく楽しいし、すごく嬉しいです。これからもAI可不ちゃんがたくさんの人に広がっていったらいいなと思います」と述べた。

 そこから、メルの「翡翠のまち」、音数を絞り一音一音を響かせるようにアレンジされたクリープハイプの「栞」と、色鮮やかな2曲が続く。どちらも、今いる「まち」を離れようとする様子をモチーフにした楽曲であり、それを高校という場所から巣立とうとしている花譜が歌うことで、より鮮明な情景が浮かぶ。

 2曲について花譜は、「『翡翠のまち』は“春の歌”と言われて真っ先に浮かぶくらい大好き」、「栞」は「サビを歌うのが超楽しい。切なさすら抱きしめて走り出したくなる曲です」と瑞々しく表現した。

 「ずっと嬉しいな、私」と言いながら、くるりの「春風」、森山直太朗の「さくら」と、畳みかけるように春の名曲を披露。「さくら」では、花譜の声色の透明感が最大限に発揮され、歌声がまるで空気に溶けこんでいくかのようだった。窓からは桜の花びらが舞い込み、絨毯のように花譜の足元に広がる。教卓の上の時計はいつのまにか夕方の時刻を指しており、ライブが始まった時には明るかった日差しが、気づけば夕日へと変わっている。細かないくつもの演出によって、今この瞬間も絶え間なく時が流れているのだということを意識させられる。

 カバー曲パートの最後は、レミオロメンの「3月9日」。黒板に、観測者(ファンの呼称)から寄せられた卒業祝いのメッセージが黒板いっぱいに浮かび上がる。花譜しかいない学校、花譜しかいない卒業式。けれどそれを観測する者がたしかにいるのだということを、たくさんのメッセージが象徴しているようだった。時計の示す時刻は六時前。黒板のメッセージに向け、「ありがとう」と告げた花譜は、そのまま教室を後にした。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる