ゆず、アルバム『PEOPLE』レビュー:変貌した世界を進み続けた軌跡、音楽性を自由に広げ“らしさ”を更新した作品に

ゆず『PEOPLE』徹底レビュー

 デビュー25周年を迎えるゆずから、16作目のオリジナルアルバム『PEOPLE』が届けられた。今年、2作のアルバムをリリースすることを発表している彼ら(6月に17thアルバム『SEES』を発売。ゆずが1年に2作のアルバムをリリースするのは初)。その最初の1枚となる本作『PEOPLE』には、デジタルシングル「そのときには」「公私混同」「NATSUMONOGATARI」「奇々怪界-KIKIKAIKAI-」、昨年春に行われたオンラインライブで初披露された「春疾風」「ALWAYS」などが収録されている。そう、このアルバムには前作『YUZUTOWN』(2020年3月)以降の2年間ーー変貌した世界を必死で進み続けた軌跡が色濃く刻まれているのだ。本稿ではこのアルバムの聴きどころを1曲ずつ紹介していきたい。

 アルバム『PEOPLE』の幕開けを告げる「Overture~PEOPLE~」に続くのは、「NATSUMONOGATARI」。名曲「桜木町」のアフターストーリーとして制作された、切なくて華やかなポップチューンだ。アコースティックギターのカッティングとピアノが絡み合い、心地よいグルーヴを生み出すサウンドのなかで描かれるのは、離れ離れになってしまった〈君〉への思い。〈臨港パーク〉〈ベイブリッジ〉といった固有名詞を交えながら、横浜を舞台にしたラブストーリーの“その後”を映し出している。

ゆず『NATSUMONOGATARI』MUSIC VIDEO

 北川悠仁と岩沢厚治が歌詞とメロディを共作した「公私混同」(ドラマ『親バカ青春白書』主題歌)は、シティポップ風のサウンドと親しみやすい旋律、〈ピンチをチャンスに履き違えて今日も行く〉というあっけらかんとした歌詞が一つになった楽曲。納得できないこと、思い通りにならないことがあっても、〈これでいいのだ〉と言い聞かせて前に進もう! というメッセージは、先が見えない時代を生きる人々の心を軽くしてくれたはずだ。

ゆず「公私混同」Official Audio

 新曲「風信子」(読み:ヒヤシンス)も強く心に残る。阿部寛、北村匠海出演の映画『とんび』の主題歌として制作されたこの曲は、親子の絆、ぶつかり合いながらも、お互いを想う気持ちを綴ったミディアムバラード。〈少しだけでも出来ることなら あなたに返したい「ありがとう」〉に象徴される繊細な叙情性と壮大なスケールを兼ね備えた北川の歌詞、そして、二人の豊かなハーモニーが響く「風信子」は、ゆずの新たな代表曲の一つとして広がっていくだろう。

 「春疾風」は、昨年春に開催されたオンラインライブ『YUZU ONLINE LIVE 2021 YUZUTOWN / ALWAYS YUZUTOWN』で初披露された楽曲。北川が嵐に提供した「夏疾風」に新たな歌詞を乗せたこの曲には、大切な人に会うこともままならず、どこに向かって進んでいいかもわからない状況、そして、“このためらいを溶かしてほしい。歪んだこの心にあなたの声が届きますように”という切実な思いが綴られている。穏やかさと悲しみが入り混じる旋律も素晴らしい。

 ライブ活動ができなくなり、目の前の創作にすべてを注ぎ込んだゆずはこの2年間、自らの音楽性をさらに大きく広げた。それを象徴しているのが、25周年イヤー第1弾楽曲としてリリースされた「奇々怪界-KIKIKAIKAI-」。作詞・作曲は岩沢。さらにボカロPのGiga、世界のエレクトロシーンで活躍するTeddyLoidが参加し、フォークロア、エレクトロ、ヒップホップなどが絡み合うプログレッシブな楽曲に結びつけている。遊び心という言葉にも収まらないブッ飛びまくった楽曲だ。

ゆず『奇々怪界-KIKIKAIKAI-』MUSIC VIDEO

 「あの手この手」は煌びやかなシンセ、バウンシーなビート、奔放に飛び跳ねるメロディがぶつかり合うアッパーチューン。サウンド自体は徹底的にハッピーだが、“暗闇で迷ってもいつでも戻ってこれるようにあの手この手で灯りを照らし続けるよ”という願いを込めた歌詞から、二人が持ち続けている切実な思いが伝わってくる。そして「六角形」は、生楽器のオーガニックな音色を散りばめたミディアムチューン。穏やかな温かさに触れたボーカルとハーモニー、そして、“きれいな形でなくてもいい。嘘偽りなく、自分らしく生きていこう”と語りかけるような歌は、聴く者の心と身体をほぐしてくれそうだ。

 「春疾風」と同じく、オンラインライブ『YUZU ONLINE LIVE 2021 YUZUTOWN / ALWAYS YUZUTOWN』で初披露された「ALWAYS」は、ノスタルジアが滲むピアノの旋律、〈ガードレールに寄りかかって/夕日に影が伸びていく〉というフレーズから始まる。夜が始まる直前の時間のなかで感じるのは、ずっと閉じ込めていた〈あなたに逢いたい〉という思い。楽曲が進むにつれて感情が解き放たれ、大らかなストリングスとともに心地よいカタルシスへと結びつく圧倒的な名曲だと思う。

ゆず『ALWAYS』MUSIC VIDEO

 アルバムの最後を飾るのは、「そのときには」。コロナ禍がはじまったばかりの2020年5月にリリースされたこの曲は、アルバム『PEOPLE』の起点であり、この2年間のゆずを象徴する楽曲でもある。ファンから募った「“そのとき”にしたいこと」をテーマにしたメッセージをもとに制作されたこの曲は、素朴で朗らかなメロディ、アコギの響きを活かしたアレンジとともに、何でもない日常の素晴らしさを描いたフォーキーな楽曲。特に〈顔を寄せ合い 抱きしめ合おう そしてありのままに 歌おう〉という一節には強く心を揺さぶられる。

ゆず「そのときには」Music Video

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