男女に留まらない愛の描写が新たな選択肢に 平成から令和、ラブソングのMVに見る変化
また櫻坂46の「偶然の答え」は、歌詞の一人称が〈僕〉でありながらそのMVは少女同士の恋にフォーカスしたものになっている。序盤に女子高校生が同級生の女子に「好きなの」と気持ちを伝える本作は、瑞々しく、美しくも切ない恋物語を描いており、その気持ちがすれ違ってしまった少女たちの未来へとつながる展開からも目が離せない。歌詞とメンバーの表情からふたりの人生の一時期を考察することでより深く楽曲を味わえるMVは、映画やドラマに負けない物語性を持つ見応えある作品になっている。
時代の流れと共にMVにも表現の多様化は進み浸透してきたといえど、まだまだ働きかけや問いかけが必要な段階にある気持ちの表し方に、新たな選択肢が追加されていることは前向きな変化だと言えよう。
「恋をしても/しなくても」、「するとしたら誰と/どんな恋をするのか」。多くの人がより広い選択肢を持つと同時に他者の選択肢を尊重するようになることが、我々がゆっくりと目指している場所だろう。そんな中で、映像表現にはどうしても「役割」や「わかりやすさ」の部分が優先されがちだった。時にそれが人を傷つけ、苦しみをもたらすこともあったはずだ。だがそれでも時代の変化とともにラブソングのMVを振り返れば、我々が着実に前に進んでいることが感じられる。
〈独りじゃ何ひとつ気付けなかっただろう こんなに鮮やかな色彩に〉という「I LOVE...」の歌詞を胸に、誰もがその真っ直ぐな愛を声高く歌える世界になることを願いたい。