ザ・ウィークエンドが成功に至るまで【後編】:Daft Punkとの邂逅から始まる、“夜明け”=『Dawn FM』へと続く道のり

ザ・ウィークエンドが成功に至るまで【後編】

 カナダ最大の都市トロント出身のシンガーソングライター、 ザ・ウィークエンド。スムースな声とダークなリリック、オルタナティブなR&Bから80’sのダンスポップまでこなす、今最も売れているアーティストの一人である。前編では、鮮烈なデビューから、ダークなスタイルを確立した2ndアルバムでの挑戦を紹介した。後編では、最新作『Dawn FM』までの軌跡を追いたい。

 ダークな内容に、ポップスの要素を取り入れた2ndアルバム『Beauty Behind the Madness』で今まで以上の成功を収めたザ・ウィークエンド。同作の成功を受けて、彼はその後トラヴィス・スコット、カニエ・ウェスト、フューチャー、ビヨンセなどのアルバムに参加する。

Future - Low Life (Official Music Video) ft. The Weeknd

 ザ・ウィークエンドのサウンドがさらに進化したのが、2016年にリリースされた3rdアルバム『Starboy』である。Daft Punkが参加/プロデュースした1stシングル「Starboy」は、Billboard Hot 100で1位を獲得しており、エレクトロポップスとR&Bを組み合わせたプロダクションが高く評価されている(※1)。ザ・ウィークエンドはDaft Punkの大ファンでもあり、彼はこのように語っている。

「Daft Punkは、私が音楽を作っている理由の一つでもあるから、他のアーティストと比べることすらできない。彼らのブランディング、技術、イメージ、そして作品に対する真剣な姿勢ーーまるで彼らは現実ではないかのようだ」(※2)

The Weeknd - Starboy ft. Daft Punk (Official Video)

 当楽曲でザ・ウィークエンドは、トップスターになったことに対する複雑な気持ちを歌っている。自身が得た巨万の富を自慢する裏腹、大スターになった代償として生まれる人間関係の問題、そして今までと同じようにドラッグで痛みを消すザ・ウィークエンドの複雑な“成功”が表現されている。

 『Beauty Behind the Madness』でスタイルを変化させたザ・ウィークエンドであるが、楽曲「Starboy」で〈You talkin' 'bout me, I don't see the shade / Switch up my style, I take any lane (俺について話してるけど、悪口は届かない/スタイルを変えて、どのレーンでもいける〉(※3)と歌っているように、アルバム『Starboy』はさらなる変化となった。楽曲「Starboy」のMVでは、自分を殺害し、過去の痕跡を消すかのように自身が受賞したトロフィーなどを破壊している。アルバムのリリース日には、シグネチャーとも言える髪を切った写真を「r.i.p @abelxo」というキャプションで投稿(※4)。「@abelxo」は、それまでの彼のInstagram IDであり、アルバム『Starboy』は、本名のAbel(アベル)ではなくポップスター“ザ・ウィークエンド”として、過去のスタイルと決別したという意思表明と考えることができる。

 今までのR&Bやダークウェーブに影響された作品と違い、『Starboy』は主にプリンス、The Smiths、Talking Heads、そしてBad Brainsに影響されたとザ・ウィークエンドは語っている(※5)。同作は米Billboard 200で1位を獲得し、『第60回グラミー賞』で最優秀アーバン・コンテンポラリー部門を受賞した。

The Weeknd - I Feel It Coming ft. Daft Punk (Official Video)

 『Starboy』で新しいスタイルに生まれ変わったと世界に示したザ・ウィークエンドであるが、2018年にリリースされたEP『My Dear Melancholy』は、以前の彼の名残りであった。サウンド的にも『Trilogy』『Kiss Land』に近く、歌詞の内容も失恋、怒り、ドラッグ、そして以前交際をしていたベラ・ハディッドとセレーナ・ゴメスが題材になっている。

 『My Dear Melancholy』を聴いたトラヴィス・スコットは、「アベル(ザ・ウィークエンド)の新アルバムは恐ろしい。初めて彼の音楽を聴いたときを思い出した」とツイートしていた(※6)。

The Weeknd - Call Out My Name (Official Video)

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