羊文学、楽曲制作におけるタイアップと自己表現への考え方 「more than words」以降のスタンスを聞く

羊文学、タイアップ曲へのスタンス

 羊文学が、現在放送中のアニメ『サイレント・ウィッチ』にオープニングテーマ「Feel」とエンディングテーマ「mild days」を書き下ろした。これまでも『呪術廻戦』をはじめタイアップソングを多数手がけているが、一つの作品でオープニングとエンディングを担当するのは今回が初となる。「Feel」と「mild days」それぞれの制作エピソードと共に、タイアップソングとの向き合い方について話を聞いた。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

次のヒット曲を作らないとみたいなことは考えたことがない(塩塚)

羊文学 撮り下ろし写真
河西ゆりか、塩塚モエカ

ーーアニメ『サイレント・ウィッチ』にオープニングとエンディングの2曲を提供しています。羊文学はタイアップ曲を担当することが増えていますが、こういう仕事をすることで、曲作りへの向き合い方に変化もありますか?

塩塚モエカ(以下、塩塚):タイアップだからこう、みたいなことはないですけど、やっぱり作品ありきの方が曲を聴いてもらえますよね(笑)。

ーー『呪術廻戦』の「more than words」のストリーミングは1億回超えていますよね。

塩塚:ファンの方々からは昔みたいなノイジーな曲も欲しいといったメッセージをいただくんですけど、自分の気持ちを描写するような音楽をずっと作り続けるのは精神的に辛くなるというか、大人になるにつれて自分の中の気持ちをすべて教えなくてもいいのかな、みたいな気持ちもあるんです。ただただ自分の気持ちを一生書き続けることは、私にはできないんだろうなって。でも人に聴いてもらえる音楽、ポップスを作ることも難しい。なのでタイアップではそのスキルをトレーニングしている、みたいな感覚もあります。そういう意味では、私の中でタイアップとそれ以外の作品は全然別なものとして存在しているように思いますね。

ーータイアップから学ぶことも多い?

塩塚:「もう死にたいです」みたいなネガティブな気持ちを曲にするのって体力がいりますし、そういうものをずっと作り続けているとどうしても飽きは出てくるんですね。ただ、いざこうやってオープニングの曲を作るとなって、それが実現できるのは今までの積み重ねてきたものがあるからこそだとも思う。昔持っていたものは少しずつ失くしているのかもしれないですけど、手持ちのカード、できることは増えていっている感覚はありますね。

ーー失うものというのはどういうものですか?

塩塚:やっぱりお願いされたものを作っていると、自発的に作りたいと思うものが少なくなるというか、お題を与えられないと考えられなくなっていくような気がしていて。画家とデザイナーは違うってよく言いますよね。それに近いというか、私もテーマをもらって作る方が向いているのかもと思うこともあるんです。自己表現としてやりたいことはゆっくり時間をかけて、やりたいと思ったときにやれたらいいのかなって。ずっと曲は書き続けているので。

ーータイアップ曲は多くの人に聴かれる反面、それがバンドのイメージになり、そこに葛藤が生まれることもあるように思います。

塩塚:でも「more than words」が入っている『12 hugs (like butterflies)』というアルバムはめっちゃ気に入っているんですよ。それまでの作品も一つ一つ気に入ってはいるんですけど、やりたいこととちょっと違うなって思うところもあったし、『12 hugs (like butterflies)』ができあがった時は「もうこれで人生終わってもいい」くらいの気持ちでした。スキル的にやり切れない部分もあったんですけど、人生の最後のアルバムにしようと思えたくらい本当にやりたいことができたんです。「more than words」も「Burning」もアニメの世界観と私がやりたいことを両立できたと思いますし。だから、次のヒット曲を作らないとみたいなことは考えたことがなくて、タイアップのお話をいただいた時もそれを観ている人たちがもっと作品に入り込めるような曲を作りたい、みたいな気持ちが強いですね。私の性格的に、言われたことと逆のことをやりたくなるのはたぶんあるんですけど。

羊文学 撮り下ろし写真

羊文学 撮り下ろし写真

ーーと言うと?

塩塚:「こういうのが聴きたい」「こういう曲がいいね」と言われると、逆に全然違うものを作りたくなる。キッズなんです(笑)。

ーーそういう反抗精神もいいと思いますし、それが羊文学ならではの振り幅にもつながると思います。

塩塚:もう30歳になるんですけどね(笑)。

ーー河西さんは、タイアップ曲に対してどんなことを思いますか?

河西ゆりか(以下、河西):作品のいいところをどうやって音として表現するのか考えるのはすごく楽しいですし、なんだかんだタイアップ曲の方がよくできているなとは思います。

塩塚:そう、成り立ってるんだよね。たぶん、タイアップがなかったら全然成り立たない曲ばっかり作っちゃう。昨日も家でシンセをブワーって鳴らしたりしていて。これ何になるんだろうみたいな曲を作ってしまうし、それって趣味でよくないかって思うんですよね。

ーーその引き出しが数年後に役に立つこともあるかも。

塩塚:確かに、そうかもしれないですね。

河西:そういう部分が好きっていう人もいるしね。

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