flumpool 山村隆太×緑黄色社会 長屋晴子が語り合う、ボーカリストとしての姿勢 バンドだからこそ経験できた変化とは?

flumpool 山村×緑黄色社会 長屋 対談

「ラブソングを歌うことが苦手な時期もあった」(山村)

ーーそれぞれの新作についても聞かせてください。まず、flumpoolのニューアルバム『A Spring Breath』は、代表曲「花になれ」「君に届け」などのリアレンジ、表題曲「A Spring Breath」をはじめとする新曲で構成された作品ですが、長屋さんは聴いてみてどう感じましたか?

flumpool「A Spring Breath」Music Video

長屋:素敵なアルバムでした。『A Spring Breath』というタイトルもそうですけど、春に変わっていく今の時期にピッタリだなって。新曲もコロナ禍で感じたことを歌っている気がしたし、希望を持って次に行けるというか。すごく明るい気持ちになりました。

山村:嬉しいです。今回はラブソングも結構入っているんですよ。ラブソングを歌うことが苦手な時期もあったんですけど、コロナ禍で人との繋がりや、“大事な人と寄り添えるのは当たり前じゃない”と感じたときに、胸を張ってラブソングを歌いたいなと思って。聴いてくれた人が“外に出てみよう”と思ったり、ちょっとでも穏やかさや安心感を覚えてくれたらいいなと。

ーー「ラブソングを歌うことが苦手だった」というのはどうしてですか?

山村:バンドを始めてから15周年になるんですけど、過去の自分たちが足かせになることもあるんですよ。例えば「君に届け」は“君が好き”というシンプルな思いを歌った曲で、たくさんの人に認知してもらえたことはもちろん嬉しいんだけど、あの曲で表現しているストレートな感情に対して、拒否反応を覚えたこともあるんです。人を好きになるには大変なこともいっぱいあるし、もっともっと複雑なんだとわかったので。

長屋:そうですよね。

山村:それが「しばらくラブソングはいいかな」という気持ちに繋がってしまったというか。でも、それから1周も2周もして、「人を好きになるのは素敵なことだし、何歳になっても大切にしたい」と思えるようになったので、それが今回のアルバムにも出ていますね。

長屋:「君に届け」、私も大好きです。以前ライブで一緒に歌わせていただいたのが、自分のなかで特別な日になっていますね。

山村:そう言ってもらえると嬉しいです。

長屋:アコースティックアレンジって、テンポを落として音を間引くことが多いから、哀愁が漂うように聴こえることもあるじゃないですか。でも、今回の「君に届け」はそうじゃなくて、原曲のポップな温度感をちゃんと残したまま、アコースティックな雰囲気になっていて。すごいなって思いました。

山村:自分たちのなかでも、曲の捉え方が変化してるんでしょうね。「君に届け」は2010年リリースなので10年以上経っていて、その間にメンバーの関係性も変わってきたし、お互いに家族ができて環境も変化して。さらにコロナ禍を経て、この曲に対する思いが深くなっているんですよ。人を好きになることで誰かを傷つけることもあるし、つらい思いをすることもある。それを踏まえた上で、こういうシンプルなラブソングを歌えたらいいなと。おじいちゃんになって「『君に届け』が好き」と言えたら、素敵でしょ。

長屋:めちゃくちゃ素敵です。10年以上前にリリースした曲を久々にレコーディングするってどういう感覚なんですか? もちろんライブではずっと歌ってきていると思いますけど、スタジオで歌入れするというのはどうなのかなって。

山村:歌ってみて、この10年を振り返っていたかな。震災の後にも歌ったし、(機能性発声障害を患って)声がうまく出せないときも歌ったし、活動休止から復帰したときにも歌った曲で。その時々のファンの皆さんの顔、メンバーの表情を思い浮かべたら、自然と笑顔になれたんです。レコーディングでもたぶん、朗らかな顔で歌ってたんじゃないかな。

長屋:そうなんですね。『A Spring Breath』を聴かせてもらって、「自分たちもいつかセルフカバーをやってみたいな」と思いました。今は自分たちの曲を育てなくちゃいけないと思うんですけど、私たちの心がもっともっと成長したときに、過去の曲に向き合ってみるのもいいなって。

flumpool「君に届け」(A Spring Breath ver.) Music Video

ーー緑黄色社会は今年1月にニューアルバム『Actor』をリリースしましたね。

山村:このタイトル、どうやって決めたんですか?

長屋:これまでのアルバムでは、全部曲が出揃ってから最後にタイトルを決めていたんです。でも、『Actor』は制作の序盤から決めていました。ありがたいことにタイアップ曲が多かったので、全体を統一するテーマやタイトルを決めるのが難しかったんですけど、ふと『Actor』というワードが出てきて。曲ごとで違うキャラクターを演じるようなイメージが合うだろうなと思ったし、この言葉をもとに新たに作った曲もあるんですよ。

山村:なるほど。人にはいろんな顔があるじゃないですか。恋人の前、家族の前、友達の前で見せる顔が違うのは当然だし、演じているわけではなくて、どれも真実の自分だと思っていて。このアルバムを聴いて、「いろんな顔があるけど、どれも自分だよね」と言ってくれている感じがしたんです。長屋さんのいろいろな人間性に触れられた感覚もあったし……。特に「揺れる」が好きですね。いろんな自分がいるし、“みんな幸せになったらいいのに”と“みんな不幸になってしまえ”の間で揺れることもある。答えはないんだけど、葛藤や不安を表現することで、聴く人は「これでもいいんだ」と思えるんじゃないかなって。自分もこういう歌を書きたいし、また嫉妬しましたね。

長屋:嬉しいです。答えを出すことでスッキリできるかもしれないけど、そこに縛られることもある気がして。今回のアルバムは「私は何者にでもなれる」という提示でもあるのかもしれないです。

山村:“バンドのボーカリストとして、こうでなくちゃいけない”という気持ちはない?

長屋:“こうでなくちゃいけない”という思いもあるし、自分の意志とは別のところでキャラクターが確立されている感じもあって、それはちょっと心苦しいところがありますね。活動のなかですべてを見せられるわけではないし、そのなかで「長屋さんってこういう人だよね」というイメージができてしまうので。

山村:そういう経験、僕もあります。特にデビューから数年は、アイドルバンドみたいな見方をされたり、「ビジュアルで売ってるんでしょ?」と言われることもあったので。さっき言った「ラブソングを歌うことが苦手だった」というのは、そういうこととも関係しているんですよ。外からのイメージに抗うために音楽をやっていた時期もあったし……。今振り返ってみると、例えば「覆面バンドとしてライブをやっても盛り上がるだろうか?」と思ったり、いろんな周りの評価に左右されていましたね。「カッコいい」って言われると、「中身を見てくれていないんだな。バカにされてるのかな」と思ってしまうこともありました。長屋さんは、そういうことないですか?

長屋:たまにエゴサするんですけど、ライブで一生懸命に歌って、感想が「可愛かった」だけだとちょっとつらいなって思います。もちろん嫌な気持ちはしないんだけど、それだけで終わらないでほしいなって。

山村:そうだよね。僕らも外見だけで判断する人たちに対して、「見返してやる」がモチベーションだったりしたので。今はちょっと違っていて、「カッコいい」って言われると「嬉しいです。ありがとう」と思うんですよ。入り口はどこでもいいから、最終的に音楽を聴いてもらえたらいいなと。

緑黄色社会『キャラクター』Official Video / Ryokuoushoku Shakai – Character

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる