羊文学「もっと面白いものを作れる予感がする」 アジア&全国ツアーや創作の変化で高まった自由度
2023年12月に4thアルバム『12 hugs (like butterflies)』をリリースして以降、今年3月に初のアジアツアーを、4月に初の横浜アリーナ公演を成功させるなど、バンドとして確実に歩みを進めてきた羊文学。その活動は順調に見えたが、5月にはフクダヒロア(Dr)がコンディション調整のために休養期間に入ることに。塩塚モエカ(Vo/Gt)、河西ゆりか(Ba)はサポートドラマーを入れてライブ活動を継続し、7月にはアジアツアーの追加公演を、8月末から10月にかけてはキャリア史上最大規模の全国ツアー『羊文学 TOUR 2024 "soft soul, prickly eyes"』をやり遂げた。壁にぶつかりながらも前進を続けてきた2人に、“2024年の羊文学”を振り返ってもらった。(森朋之)
サポートドラマーを迎えた新編成 演奏への意識変化も
——この1年の羊文学について聞かせてください。2023年12月にリリースされた4thアルバム『12 hugs (like butterflies)』は、塩塚さん、河西さんにとってどんな作品になりましたか?
塩塚モエカ(以下、塩塚):アルバムができたときからそんなに変わってないんですけど、本当にやりたいことをちゃんとやれたなって。気に入ってますね。
河西ゆりか(以下、河西):もう、かなり前に出したという感覚がありますね。
塩塚:確かに。1年って結構長いからね。あと、横アリ(4月21日に神奈川・横浜アリーナで開催されたワンマンライブ『羊文学 LIVE 2024 “III”』)までが一区切りというか、その後から今年が始まった感じもあります。
河西:横アリの前は「どうなるんだろう?」と思ってましたけどね。
塩塚:お客さんの温かさに支えられたライブだったなって。リングライト(グッズ)を私たちが入場したときから点けてくれて、それがすごく綺麗で……。観てくださった方の感想はそれぞれあると思うんですけど、私たちはクオリティをキープしなきゃって必死だったんですよ。
河西:ステージに立ったら、できることをやるしかないですからね。
塩塚:後から映像を観たら、自分の顔も必死でした(笑)。ライブ映像というよりはドキュメンタリーっぽいというか、それもバンドの面白さなのかなって。
河西:あんな表情はなかなか出せないです(笑)。
——そして横アリ公演の後、フクダヒロアさんが休養期間に入り、サポートドラムを入れてライブ活動を継続してきました。
塩塚:はい。何人かのドラマーの方にサポートに入っていただいたんですけど、最初は松浦大樹さんだったんです。私自身はどうしたらいいかわからない状態だったんですけど、大樹さんがすごく気さくな方で、「できることがあったら何でも言って」みたいな感じで接してくださって。サポートの方によって、演奏がかなり変わるんですよ。tricotの吉田雄介さんが入ってくれたときは、「more than words」に南米っぽさが加わって。“吉田さんバージョン”って感じで、すごく面白かった。大樹さんは「GO!!!」で原曲にはないオリジナルの“キメ”を作ってくれたり、海外公演でお願いしたthe peggies(活動休止中)の大貫みくさんはバンドらしいドラマーというか、フクダに近いところがありつつ、曲によってはすごいグルーヴィになって。ユナさん(元CHAI)の登場も大きかったですね。すごく明るくてたくさん喋ってくれるし、いつもストイックに練習している人なので、「この曲、こんなふうに演奏することができるかも」とか勉強になることがいっぱいあって。
——既存の楽曲の新たなポテンシャルに気づけることも多そうですね。
河西:そうですね。メンバー以外の方と演奏するのが初めてだったんですけど、サポートで入ってくれた皆さんが「こういう叩き方をしようと思ってる」ということを丁寧に教えてくれて、それに対して「自分はどういう演奏をしようか?」と考えたり。曲のよさにも気づけるようになったし、とにかくサポートの方が上手いので、自分が(演奏を)支えることに全振りしなくてもよかったんですよ。
塩塚:そうかも。ずっと「演奏を何とか成り立たせないと」という気持ちでやってたんだけど、最近はステージでどう動けばいいかな? みたいなことも考えるようになりました。
河西:自由度が上がりました。以前はミスに対して「ダメだったな」っていちいち思っていたんですけど、今年の夏以降はライブ全体の雰囲気やお客さんの様子も感じられるようになって。
アジアツアーで得た驚きの数々
——3月・7月に開催されたアジアツアーについても聞かせてください。全11都市での公演が全てソールドアウトになりましたが、アジアにおける羊文学の注目度の高さ、現地のファンの熱量を感じたところはありますか。
塩塚:来てくださるお客さんは、本当に私たちの曲をよく聴いてくださっているんだなと思います。初めての場所ばかりだったので、少し不思議な気持ちでした。アニメを通して知ってくださった方が多い印象なのですが、それ以外の曲も楽しんでくださっている感じがして嬉しいです。
河西:日本語圏ではない国で演奏しても、歌詞を覚えて一緒に歌ってくれたり、歓声が一際大きかったりするのは、ライブしていてすぐに感じました。お客さんのレスポンスが大きい分、「もっとやろう」「こっちが負けないようにパワーを出してパフォーマンスしてみよう」と思って、何でも恐れずにできたのは大きかったです。そういった精神力だけでなく、物理的に移動やライブスケジュールが詰まっていたので、体力もついたと思います。
——ライブ中に印象的だった出来事はありましたか。
塩塚:ムスリムでヒジャブをしている方が来てくださったときに、違う国に来たんだなと感じました。その方に限らずなのですが、違う文化や宗教観のもとで私たちの歌詞やロックサウンドがどのように受け入れられているのか、機会があったら聞いてみたいなと思いました。
河西:意外だったのは、「マヨイガ」で大合唱が起きたことですね。日本では比較的静かに聴いている方が多い印象の曲でしたが、国が違うと曲の捉え方もまた違うのかなと思って、とても面白い出来事でした。
——合間の時間はどのように過ごしていたんですか。
塩塚:シンガポールに行ったとき、空き時間に歴史博物館に行ったんですけど、そこで戦時中の日本のひどい占領の歴史について知りました。展示室のかなり大きな幅を使って語られていて、シンガポールの人々にとって衝撃の出来事だったんだということを実感して。日本の教科書で戦争について触れることはあっても、自国が受けた被害を語ることが多く、侵略を受けた側の国目線で語られるのを見たのは初めてでした。アジアをまわっていく中で国の成り立ちや宗教観をまだ知らない国が多かったので、もっと知っていきたいと思いましたね。
——そして、8月から10月にかけて開催された全国ツアー『羊文学 TOUR 2024 "soft soul, prickly eyes"』も、2024年の活動における大きなポイントだったと思います。オープニングから7曲目まで幕がかかったままで演奏するという演出が印象的でした。
塩塚:ツアーの打ち合わせのときに、スタッフの方から「終盤の『Burning』まで幕を上げなくていいんじゃない?」みたいな意見が出てきて。「さすがにちょっとやりづらいです」って言いました(笑)。
河西:みんな攻めてたよね。
塩塚:このツアーの後半は特に楽しかったですね。演奏に関しても「もっとこうしたい」とか、「次の公演ではこれにチャレンジしよう」みたいなテーマを持てるようになって。あと、ツアー中にみんなでいろんなところに行ったんですよ。温泉とか。
河西:行ったね。
塩塚:熊本に行ったときにかわいいセレクトショップを見つけて、ちょっとだけリハの時間を遅らせてもらって買い物したり。お店の方が私たちの曲を聴いてくれていて、「チケット取れなかったけど、すごく好き。あなたたち、天才よ」ってめっちゃ褒めてくれて、元気をもらいました。
河西:さっきの話と同じになっちゃいますけど、演奏を支えるだけではなくて、パフォーマンスのことも考えられるようになったし、みんなで買い物とかするのも楽しくて。本当にいいツアーでした。
塩塚:ライブ自体もかなりのんびりやらせてもらったところがあるんですよ。アンコールをやらなかったり、ステージの上で急に座ったり。お客さんはそれを受け入れるしかないかもしれないけど、皆さん温かく観てくれたのも嬉しかったです。