大貫妙子や山下達郎が世界的にリバイバルヒット みのが考える、シティポップが今求められる理由

みのが語る、シティポップの魅力

手放しに喜んでいると、平気でスポイルされちゃう文化

ーーもうひとつのコンピレーションアルバムが『TOKYO SOUVENIR-GREAT TRACKS FROM THE GOLDEN ERA OF JAPANESE POPS-』。アメリカのLight In The Atticというレーベルがシティポップのコンピレーションをアメリカでリリースして話題になったのですが、そのプロデューサーである北沢洋祐氏が選曲した作品です。

みの:海外の視点で選ばれていて、非常に面白いと思いました。ただ、ちょっとハードな内容ですよね。

ーーシティポップと銘打っているわけではなく、あくまでも「東京土産」というコンセプトです。

みの:前半はシティポップ色が強いですが、7曲目のYMO「カムフラージュ」から一気に流れが変わる感じがすごかったです。YMOは『BGM』や『テクノデリック』といったアルバムはかなり禁欲的な路線ですから。

ーーここでこの曲かっていう。

みの:でも実は、前半にある大貫さんも吉田美奈子さんもかなりハードな感じだし、海外の方が聴いても面白いはず。そして、YMOから坂本龍一の「LEXINGTON QUEEN」や佐野元春の「COMPLICATION SHAKEDOWN」はさらにハードで、このあたりをシティポップと並べて提示されるというのは強烈でした。どの曲も面白かったのですが、特にYMOからの4曲の並びは、非常に鮮やか。そして、ようやくこういった形で評価できるのかっていう面でも興味深い。

ーー確かに普通の感覚なら、なかなかコンピレーションアルバムとして選曲はしない曲ばかりですね。

みの:でも、これを聴いてみてちょっと感じたのが、大貫さんのヨーロピアン路線とかもそうだけど、結構シンセが重要だと思うんですよ。矢野顕子さんもそうだけど、YMO人脈がたくさん出てくるのは大きい。このあたりのシンセサウンドの感触は、シティポップのピースとして機能するのかもしれないなって思いました。それくらい拡大解釈するっていう考え方もありなのかもしれない。

ーーシティポップというと、70年代から80年代前半の印象が強いんじゃないかと思うんですが、今の若い人たちは80年代以降の派手なシンセや、リバーブがかかった独特のドラムの音も含めシティポップだと感じています。このあたりの差異が、今のシティポップにつながっています。

みの:そこは、もしかしたら海外から持ってきた視点なのかもしれないですよね。今の若者たちは。海外で再評価されてそれが当たり前の状況でシティポップを聴いているので、フューチャーファンクとかヴェイパーウェイヴのリミックスを聴いた後の耳だったら、こういったハードな楽曲も違和感がないのかもしれないですよね。

ーーこのアルバムを海外の方に渡すと、どんな反応になると思いますか。

みの:もう、一発で不勉強を恥じさせるくらいの威力はあるんじゃないですか。「なんで俺は今まで日本の音楽を掘ってなかったんだ!」って(笑)。でも、リアルにそれくらい前のめりに自信を持っていいと思っています。きっと初めて聴いたらかなりビビりますよ。

ーー確かに破壊力は抜群ですね。

みの:「どれだけ知らないいい音楽がこの世にあるんだ!」ってね。硬軟織り交ぜているし、ポップ、ハード、アバンギャルド、オルタナの領域までいっているから、どの切り口からも日本の音楽のレベルは最高だということを証明していると思う。

ーーこうやって2つのコンピレーションアルバムを並べて聴くと、それぞれ全然視点が違うことがわかりますね。

みの:それは、シティポップが国内外で多義的な意味を持ち始めていることの証明かもしれないですよね。ロックだって日本と国外での感覚が違いますし、そういうズレた部分が現れているのかなと思います。

ーー最近、ザ・ウィークエンドやタイラー・ザ・クリエイターに代表されるように、日本の曲をサンプリングするケースが相当増えてきましたよね。そこはどうお考えですか。

みの:非常に喜ばしいことではあると思うんですけれど、「なんか面白いから新しい調味料使おう」くらいの感じかもしれない。手放しに喜んでいると、平気でスポイルされちゃう文化だと思います。だから、僕はむしろ日本人がしっかり自信を持って攻めと防御をちゃんとやらないと、簡単に使い捨てられてしまうかもしれないっていう危惧も持っています。

ーー一過性で終わる、と。

みの:ポップスの歴史って、アフリカン・アメリカンの音楽を白人を中心としたマジョリティがパクリ続けるっていうものだと思うんですけれど、それでもアフリカン・アメリカンたちがしっかり独自の立場を守りつつ存在感を発揮できているっていうのは、すごく厳しい審美眼を持っているからだと思うんですよ。彼らは、軽薄なパクリだったらすごく怒るじゃないですか。その視点を日本人も持つべきだと思いますね。上っ面でサンプリングしていたら、「それは違いますよ」っていう態度を取らないと。そこは課題だと思いますね。

ーー日本人ってそういうことをしないですよね。

みの:でも、寿司だったらできますよね。まずい寿司を海外で出されたら、「これはまずいよ」って言えるじゃないですか(笑)。それと同じことができればいいと思うんです。

ーー昨今の海外での評価の象徴に、竹内まりや「プラスティック・ラブ」や松原みき「真夜中のドア~stay with me」があり、今はさっき話に出た大貫妙子の「4:00 A.M.」がじわじわ来ています。

みの:今のところは、こういったファンキーなサウンドが受けていますよね。もちろんそれはいいことだと思いますが、さっき言った通りで、それだけを真に受けているのも危険だと思います。大貫さんでいえば、ヨーロピアン路線のバラードの名曲などは海外では刺さってないから、そこはもっと我々が自信を持って、海外のリスナーに押し付けるくらいのアクションで丁度いいと思うんです。そこをもう一段クリアすると、『MIGNNONE』のメインであるバラード曲なども刺さる気がします。

ーー今回、大貫さんは「朝のパレット」と「ふたりの星をさがそう」という新曲を2曲配信します。

みの:バリバリの現役ですよね。声の艶も変わらないし、2曲とも本当にコンディション抜群の素晴らしい楽曲です。参加ミュージシャンのところでいえば、それぞれ林立夫さんと高橋幸宏さんがドラムスで参加していて、それを聴き比べられるのも贅沢だなって思いました。

ーーたしかにバックのミュージシャンは、若手とベテランが混在しています。

みの:「朝のパレット」は、大貫さんの王道のヨーロピアンテイストが感じられますね。「二人の星を探そう」はシンセ中心のサウンドで、ストリングスがちょっとアジアテイストな瞬間とかもあって、ある種無国籍的なところが面白い。80年代回帰みたいな感覚もありますし、それって今の時代の空気感に通じるかもしれない。

ーー大貫さんご自身も、海外で過去の楽曲が盛り上がっていることをご存知だと思うんですが、まったくそこに流されることなく、自分のやりたい音楽を貫いていますね。

みの:ただ、そういうスタンスでも古さがまったくないですよね。これらの楽曲が80年代に出ていたとしても納得できるし、逆に80年代の楽曲が今作られたといわれても納得できるというか、時間を超越している感じがあります。そう思うと後続のアーティストもいないし、ちょっと孤高な感じはあるかもしれない。それが普遍的ってことでしょうね。

ーー確かに大貫さんの音楽は、いつ聴いてもおしゃれだし、モダンな感じがするし、時代を感じさせないですね。

みの:もちろん『SUNSHOWER』や『MIGNONNE』には同時代的なシティポップのイディオムが結構入っているから、海外の人がそういうのを聴きたいっていうのはあるかもしれないけれど、もうちょっと耳が肥えてきたら、今回の新曲のような普遍的な楽曲にたどり着くんじゃないかと思いますね。

ーーシティポップが一過性のブームとしてスポイルされないためにも、大貫さんのような普遍的なものを作り続ける態度は重要かもしれないですね。

みの:そこは本当に大事なことかもしれない。ただ、シティポップが騒がれ始めてから、もう10年くらい経つんですよ。よくよく考えると、これってひとつのジャンルとしては非常に長いじゃないですか。例えば、ロカビリーなんかも80年代にリバイバルがありましたけれど、一瞬だけですよね。でも、R&Bというジャンルなら、ファッツ・ドミノからフランク・オーシャンまですべてカバーできるし、ずっと主流のまま。だから、シティポップもR&Bと同じような上位区分のジャンルになれる可能性はあると思います。

ーーそれは面白い考え方ですね。

みの:そういう上位区分のジャンルって実は日本にはないんですよ。20年後、30年後にも、音楽自体が普遍的だから、シティポップという言葉も残り続けるんじゃないですか。多少は音楽性の解釈が今と変わっているかもしれないけれど。

ーー今現在でもシティポップは拡大解釈され続けていますから、概念だけが残り続けていくのかもしれないですね。

みの:それでいいと思います。ある種のマインドが通底している音楽であれば、シティポップといわれている音楽は残るだろうし、日本の音楽業界や音楽評論の場でも必要な言葉として存在し続けるんじゃないかと思いますね。

■リリース情報
『ALDELIGHT CITY A NEW STANDARD FOR JAPANESE POP 1975-2021』
発売中

<収録曲>
【Disc 1】
01. 君は天然色 (40th Anniversary Version)/大滝詠一
02. DOWN TOWN/EPO
03. スノッブな夜へ/国分友里恵
04. バイブレイション (Single Version)/笠井紀美子
05. 4.00A.M./大貫妙子
06. 朝焼け(Live at Chuo Kaikan Hall, Tokyo, Feb. 1982) /CASIOPEA
07. 君に、胸キュン。-浮気なヴァカンス-/ YELLOW MAGIC ORCHESTRA
08. SAY GOODBYE/佐藤博
09. プールサイド/南佳孝
10. 中央フリーウェイ/ハイ・ファイ・セット
11. THE TOKYO TASTE/ラジ&南佳孝
12. Lonely Man (Single version)/SHOGUN
13. 流星都市/小坂忠
14. ダンシング/桑名正博
15. 恋は流星 Part 1/吉田美奈子
16. 恋は流星 Part 2/吉田美奈子

【Disc 2】
01. RIDE ON TIME/Rainych × evening cinema
02. WINDY LADY (SUMMER SUNSET MIX)/MOOMIN
03. プラスティック・ラブ/Mai Hoshimura
04. BLUE LAGOON 2003 -HOT SUMMER BREEZE-/FUDGE with 高中正義
05. 恋のレスキュ-隊/PLATINUM 900
06. メビウス (Single Version)/比屋定篤子
07. 私達を信じていて/Cindy
08. よくばりなウィークエンド/GWINKO
09. 休日~Holiday~/THE CHANG
10. PINK SHADOW/ブレッド&バター
11. TOKYO GIRLS TALK/高田みち子
12. サイドシート/葛谷葉子
13. ENDLESS SUMMER NUDE/真心ブラザーズ
14. ずっと読みかけの夏 (2019 Mix)/冨田ラボ
15. Peach Melba/古内東子

公式サイト
https://www.110107.com/s/oto/page/ALDELIGHTCITY?ima=2814

『TOKYO SOUVENIR-GREAT TRACKS FROM THE GOLDEN ERA OF JAPANESE POPS-』
発売中

<収録曲>
1. 言いだせなくて
2. ALCOHOLLER
3. ボン・ボヤージ波止場
4. MILK & HONEY
5. BLUE AND MOODY MUSIC
6. うんととおく
7. カムフラージュ (2019 Bob Ludwig Remastering)
8. Automne Dans Un Miroir
9. LEXINGTON QUEEN
10. COMPLICATION SHAKEDOWN
11. EYES
12. やりかけの人生
13. ジャンキー・ティーチャー
14. アイオライトの祈り
15. はらいそ (2019 Remastering)

公式サイト
https://www.110107.com/s/oto/page/TOKYO_SOUVENIR?ima=2643

■みの プロフィール
YouTubeチャンネル「みのミュージック」は現在35.4万人登録者を誇り、自身の敬愛するカルチャー紹介を軸としたオンリーワンなチャンネルを運営中。
Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めており、昨年5月には自身初となる書籍「戦いの音楽史」を発行し活動の場を広げている。
日本民俗音楽収集シリーズ Vol1として「飲みコール」を楽曲として収録した音源も発売中。

みのミュージックのチャンネルURL
https://www.youtube.com/channel/UCDkAtIbVxd-1c_5vCohp2Ow
飲みコール音源+ステッカーをセット販売しています。
https://muuu.com/collections/102539
書籍「戦いの音楽史」発売中
https://t.co/1XkpZv2j6s?amp=1

星海社新書『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』

■栗本斉 書籍情報
星海社新書『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』
著者:栗本斉(くりもと・ひとし)
ページ数:256ページ
発売日:2022年2月22日(火)
*お住まいの地域により発売日は異なります
定価:1000円(税別)
販売サイト:https://www.seikaisha.co.jp/information/2022/02/01-post-211.html

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<締切:3月11日(金)>

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