サカナクション、ライブで更新していく音楽の伝え方 “変わらないために変わる”スタンスで熱狂生んだ武道館公演
サカナクションの全国アリーナツアー『SAKANAQUARIUM アダプト TOUR』。昨年12月から今年1月にかけて全国6都市14公演で行われたこのツアーで、サカナクションはアフターコロナの世界に“アダプト(適応)”しながら、(山口一郎の言葉を借りると)“変わらないために変わり続ける”というスタンスを明確に示してみせた。その根底にあるのはもちろん、どんな状況であっても音楽は必要だという強い意志だ。
今回のツアーは、昨年11月に行われたオンラインライブ『SAKANAQUARIUM アダプト ONLINE』のコンセプトを生のライブに移行させる形で開催された。ステージにはオンラインライブと同じく、約13メートル、4階建てビルの大きさに相当するセット「アダプトタワー」を設置。やはりオンラインライブと同様に総合演出を映像ディレクターの田中裕介が担当し、ライブ、映像、演劇を融合させたステージが繰り広げられた。「オンラインライブで得たものを生のライブにどう持ち込むか(または完全に分けるか)」というテーマには多くのアーティストが向き合っているが、このツアーでサカナクションが示したものは、その最適解の一つと言えるだろう。
開演時刻とほぼ同時に暗転し、大量のスモークに包まれたステージの後方から白いライトが放射されると、そこにはサカナクションのメンバーの姿が。深いリバーブが施されたダブ的な音響とともに放たれたのは「multiple exposure」。「思い切り踊っていって!」という山口の挨拶を挟み、新曲「キャラバン」、そして頭韻を活かしたリリックが気持ちいい「なんてったって春」へとつながる。まず驚かされたのは、音の良さ。厚みのあるサブベースから細かいギターのカッティング、シンバルのニュアンスまでを、まるでヘッドフォンで聴いているかようなバランスで体感することができた。今回のツアーではスピーカーの配置個所を増やし、どの席でも最良の音で聴けるシステムを導入。これまでも徹底的に音にこだわってきたサカナクションだが、そのクオリティはさらに上がっていた。
ライブ前半では俳優の川床明日香がキャストとして登場し、アダプトタワーを舞台に静かな物語が進行。楽曲の音像や歌詞の世界と重なりながら、シアトリカルなステージが繰り広げられた。さらにステージの両サイドに設置された大型ビジョンにも様々なエフェクトや仕掛けが施され、オンライン/オフラインを同時に堪能できる演出も。総合演出の田中裕介はサカナクションのMV(「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」「夜の踊り子」「新宝島」など)を数多く手がけているが、その映像的な技術とアイデアを生のステージに持ち込むことで、まったく新しいエンターテインメントへと導いていた。また、映像に“川床の視点から見たサカナクション”を取り入れることで、観客にオルタナティブなライブの見方を与えたことも、今回のツアーの発明だったと思う。
一方で、ラップトップを使ったパフォーマンスなど、サカナクションの定番と言えるスタイルも踏襲。楽曲をシームレスにつなげる構成、バンドサウンドとクラブミュージックの融合など、これまで通りのサカナクションもしっかりと感じることができた。その上で新たな音響システムや映像技術・演出を取り入れることで、“変わらないために変わる”を実現させていたのだ。