Aimer、アニメ『鬼滅の刃』遊郭編「残響散歌」で新記録 作品世界とのシンクロで高評価に
低音域の魅力といえば、12月10日に配信開始したばかりの新曲「ONE AND LAST」も外せない。本作は同日に公開された映画『あなたの番です 劇場版』の主題歌で、静から動への曲展開といい、構成やメロディ感といい、2019年に放送されたTVドラマ『あなたの番です』の主題歌「STAND-ALONE」を思わせる。それもそのはず、ドラマのパラレルワールドを描く映画のストーリーに合わせ、「主題歌も『STAND-ALONE』の合わせ鏡となるような楽曲を、と楽しみながら制作しました」とAimer自身も語っており、サビには〈さよならって今も叫んでる〉(「STAND-ALONE」)と〈さよならってまた叫ぶの?(「ONE AND LAST」)〉という歌詞の対比も。そもそも「STAND-ALONE」の文字を入れ替えると「ONE AND LAST」になるというアナグラムからして天才的だ。
静かな始まりから徐々に加速し、ロックの熱を帯びながらサビでシンフォニックに爆発する「ONE AND LAST」は、歳の差カップルが引っ越し先のマンションの住人とともに殺人ゲームに巻き込まれるという物語にはパーフェクトなマッチング。そこでダークと評するには儚い歌声が、“ここから何かが始まる”という恐怖にも似た予感を濃厚に感じさせ、日常とは違う世界へと聴き手を誘ってくれる。例えば、梶浦由記がプロデュースした「I beg you」(劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel] II.lost butterfly』主題歌)にしても、煙のように不穏にゆらぎながらも甘く絡みつく歌声で、壮大かつダークカオティックな世界観を見事に具現化。Aimerの声にはどこか非現実を感じさせる響きがあり、非日常の物語が描かれることの多いアニメの主題歌を数多く担当しているのも納得だ。
しかし、彼女のすごさはフィクションのみならず、リアルをも自在に行き来できることにこそある。例えば「Ref:rain」はTVアニメ『恋は雨上がりのように』のエンディングテーマだが、歌っているのは日常の風景の中にある普遍的な儚さと煌めき。彼女が敬愛するアヴリル・ラヴィーンを彷彿とさせるようなシンプルかつアコースティックな響きで、聴く者の心を癒し、浄化してくれる。宙の果てから見下ろすのではなく、傍らに優しく寄り添ってくれるのだ。
怖れと安堵、清潔と穢れ、純真と妖艶、安定と不安定――相反する要素を併せ持ち、自在に引き出すことができるのは、その歌声の中に感情のひだがミリ単位で細かく折りたたまれているからなのだろう。来年1月12日には『「鬼滅の刃」遊郭編』のオープニング/エンディングテーマを収めたCDシングル『残響散歌/朝が来る』が、続いて1月26日にはアルバム『星の消えた夜に』も到着。そこでも無限のエモーションに出会えるに違いない。