LiSAが繰り広げた至上のエンターテインメント シンガーとしての進化も感じた武道館公演を観て
LiSAの全国アリーナツアー『LiVE is Smile Always~LADYBUG~』追加公演、日本武道館2日目。ライブは一つの映像から始まった。「10年後のわたしへ/元気にしていますか/いっぱい笑えていますか/相変わらず泣き虫でしょうか/わたしはまだ、もがきながら/それでも懸命に毎日を過ごしています/世界は不安定で、不安なことだらけです/自分の決心が本物なのかさえ、わからなくなることもあります/いつか世界は、美しく見えるでしょうか」。スクリーンに映る手書きの文字が素直な心境を伝える。2020年12月の無観客配信ライブ『ONLiNE LEO-NiNE』、今年2月のアコースティックライブ『LiVE is Smile Always~unlasting shadow~』を経て実現した久々の全国ツアーだ。やっと再会できたのは喜ばしいが、世の中は未だ夜が明けたとは言い切れない状況。それでも夜明けを信じ、希望を諦めない意思を歌った「dawn」、そして「白銀」が初めに届けられた。今どんな気持ちで“あなた”と向き合っているのか、真正面から伝えるオープニングだ。
生本直毅(Gt)、PABLO(Gt/Vo)、柳野裕孝(Ba)、石井悠也(Dr)、白井アキト(Key)、岩村乃菜(Cho)、ダンサーのyUkA、YUUKA、NOSUKE、PecoとともにLiSAが繰り広げたのは至上のエンターテインメント。冒頭2曲で提示した意思を体現するように、夢のように華やかな世界が生まれていった。玉座とともにせり上がってきたチャイナ服姿のLiSAが、ダンサーとがっぷりフォーメーションを組みながら歌い踊る姿がクールだったのは「GL」。はらりとチャイナを脱いで色香を纏って歌ったのは「わがままケット・シー」。みんなで一緒に振り付けを楽しんだのは「ノンノン」。初期曲の「妄想コントローラー」ではサンプリングパッド搭載のリズムマシーンを叩き、ウェーブを起こして観客と笑い合った。
ノンストップのライブ構成に熱量の高い演奏、盛りだくさんの演出、イントロ中にも観客へ投げかけられる言葉。「妄想コントローラー」までの8曲はインターバルがほとんどなく、“溢れるものが止まらない”といったテンションだった。8曲しか歌っていないのにものすごい満足感である。ツアータイトルにもあるように、このツアーは、ソロデビュー10周年記念のミニアルバム『LADYBUG』のリリースに伴うもの。多様な作家陣による楽曲を収録した『LADYBUG』における音楽的トライアルを“じゃあライブではこの曲でどうやって遊ぼうか”というフックに変えつつ、『ONLiNE LEO-NiNE』、『LiVE is Smile Always~unlasting shadow~』での蓄積を土壌にしながら――さらに7月のツアースタート以降に発表された新曲や全国をまわるなかで思いついたアイデアを取り入れ変化を続けながら、生まれたのが『LiVE is Smile Always~LADYBUG~』というとっておきの遊び場だった。
その後も、リズムゲームを模した演出からの「play the world! feat.PABLO」、ドラムとダンスによる即興セッションパート、動く歩道ならぬ動くステージ床の上でポールと絡みながら歌った「RUNAWAY」などに釘付けになりつつ、同時に“これだけのアイデア、どこから湧いてくるんだ?”とも思わせられる。LiSAのライブの真ん中にあるのはいつだって“音楽でみんなを楽しませたい”という気持ちだ。“プレゼントは渡す瞬間より選ぶ時間が大事だ”とよく言うが、同じように、ライブが始まるまでの間、観客をどう楽しませようか考え、構想や練習を重ねている時間とは相手を思っている時間であり、それはもう、恋であり愛だ(ましてや今回は久々のツアーだからなおさら)。LiSAの中にある大きな愛情を、このツアーのために集まったプロたちが、持てる力を総動員して(時には持っていなかった力も都度身につけながら)具現化していく。その結晶がボーカルとともに曲ごとに変貌するバンドサウンドであり、“どこにいても近くに感じられるように”というLiSAの願いを叶えるステージセットであり、一瞬で終わる衣装チェンジ、ステージを彩る照明、スクリーンに映る映像……つまりこの日のライブを形作る全てであった。