田中ヤコブ(家主)×和嶋慎治(人間椅子)対談 ギター奏法から曲作りのアティテュードまで、3つのキーワードから語り合う

田中ヤコブ(家主)×和嶋慎治(人間椅子)

2. ヘヴィネス 〜ダウンチューニングの美学〜

田中ヤコブselect:人間椅子「黒猫」

人間椅子「黒猫」

ーー2つ目のキーワードは「ヘヴィネス」です。ヤコブさんは人間椅子「黒猫」を選んでいますが、どんな理由で選んだのでしょうか。

田中:「黒猫」を初めて聴いたときにすごく低い音が出てるなと思って。ダウンチューニングの異様なテンション感というか、弦がブヨブヨしてる感じにグッときたんです。他にもダウンチューニングしているバンドはたくさんいると思うんですけどーー。

和嶋:あるときから増えたね。昔は本当にいなかったんだけど。

田中:そうですよね。海外のメタルとか、高校から聴いたバンドの多くはダウンチューニングしてたんですけど、その音がレコーディングのせいなのかミックスのせいなのか、人間椅子のダウンチューニングとは聴こえ方が違うんですよ。歪みすぎてギンギンになっていない人間椅子の音作りには、品格を感じたんですね。特に「黒猫」を聴いて、異様なおどろおどろしさって、意外と歪みすぎず、オーガニックなところから出ているんじゃないかなって。

和嶋:そうなんですよ。「黒猫」はもともとBlack Sabbathのダウンチューニングを聴いてやりたいと思った曲で。コピーしてみて、やっぱり弦が弛んでブワンブワンになってるところがいいなと思ったんです。トニー・アイオミって事故で指先を切断していて、プラスチックのチップをはめて演奏しているので、弱い握力でも抑えられる細い弦を使っているんですね。すごく細い弦で1音半まで下げるので、チューニングの安定しない響きが不気味でカッコいい。自分がダウンチューニングするときはそこまで細い弦にはできないんだけど、今でも太い弦は張らずにやってますから。“ダウンチューニング専用弦”みたいな太い弦も試してみたんですけど、やっぱり面白くないんですよ。安定はするけどスッキリしすぎちゃう。Led Zeppelin「Moby Dick」もそうだけど、あんな気持ち悪さが欲しいんだよね。怖いものの美しさまで表現したいからこそ、不気味な音にこだわるので。でも、やりすぎると音の分離がどんどん悪くなって、本当に何を弾いてるかわからなくなるから、ダウンチューニングは歪ませすぎない方がいいんですよ。それは聴いて感じてもらえたようで。

田中:まさに感じておりました。

ーー人間椅子の曲には10分ほどの大曲が何曲かありますが、「黒猫」もその1つですよね。そういった長尺で聴かせる曲を作るときは、どんなことを意識しているのでしょうか。

和嶋:この曲は自分の好きなエドガー・アラン・ポーの『黒猫』で何か作りたいなっていうところから始まったので、主人公の天邪鬼さとか、犯罪が発覚する感じを音で表したくて、いろいろ詰め込んで作っていったわけです。

ーーつまり、まず頭の中にテーマがあって、それを具現化するために必要な要素を加えていくことで、長尺になることもあると。

和嶋:ええ。最初のイメージを大事にすると作っていてもブレないから、うまくいったときはいい曲になるんですよ。例えば雪女の曲を作りたいとしたら、“雪が吹き荒れている中に幽霊が出る”っていうビジョンを曲で表そうとするじゃないですか。すると、途中でちょっと違うフレーズが思い浮かんだとしても、「これは全然雪女じゃねえ」っていうふうに決めやすい。絵画だって、戦争の悲惨さを描こうと思ってピカソの『ゲルニカ』が生まれたわけで、音楽もそうやって書いていいと思うんですよ。

田中:人間椅子の曲って10分以上あっても長さを感じないんです。自分がその感覚を最初に覚えたのはPink Floyd「Echoes」だったんですが、20分以上あっても、必要な音が必要なところで鳴っていると「この曲は長くないな」と思える。逆に「この曲で5分半は長いな」とか思ったりする曲もあるんですよ。人間椅子の曲は小説を読んでいくような起伏があるので、「ここで1回落ち着いて、その次にこのリフが来るのか。なるほど!」みたいに聴けるんですよね。展開に無駄がない。逆に自分は長尺な曲はあまり作ったことがないんですけど、やりたいことを詰め込みつつ、やりたくないことを省いていった結果、自ずと曲が短くなるんです。「冗長な展開を入れたくないけど、転調はしたい」みたいな気持ちが混じり合った結果かもしれないです。

和嶋慎治select:家主「近づく」

家主 "近づく"(Official Music Video)

ーー和嶋さんは家主「近づく」を選んでいますが、この曲はどういう印象でしたか。

和嶋:ヘヴィさだったらこれかなと。チューニングは下げてるんですよね?

田中:半音下げですね。

和嶋:そうかなと思いました。ミドル〜スローなテンポの上に、アルペジオでヘヴィさを表しているのがいいですよね。King Crimson「Fallen Angel」に近いなと思ったんですけど。

田中:私が参考にしたのは、12弦のアルペジオで「Frame By Frame」をちょこっと。

和嶋:あー、「Frame By Frame」か。そういう音色のクリムゾンっぽさで、知的なヘヴィさが出てるなと思いました。変拍子っぽく聴こえたり、イントロがまたすごいヘヴィさを演出しているなと。重ねたギターでソロのような音が入ってくるけど、弾きすぎず効果的な音を入れているからこそ、むしろヘヴィに聴こえるんですよね。ツボを押さえてるなと思いました。

田中:ありがとうございます。寡黙な人が急にひと言しゃべった、みたいな印象というか。

和嶋:その方が重みがありますからね。そこから歌が始まったら、はっぴいえんどっぽくなるのが面白い。いきなりコードもポップになって。

田中:この曲自体、もともとヘヴィさを意識したというよりは、もっとブルースっぽさとか、ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)あたりを意識していて。それで半音下げにして、最初のメジャーペンタトニックのようなフレーズを弾いたりしていたんですけど。

和嶋:じゃあ「真夜中のランプ(Burning Of The Midnight Lamp)」みたいな感じだ。

田中:そうですね。ジミヘンにインスパイアされてイントロのリフは作りつつ、自分の作りたいものとうまくドッキングさせながら、ヘヴィな印象にしていきました。

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