『希望を鳴らせ』インタビュー
THE BACK HORN 山田将司&菅波栄純、バンドだから鳴らせる希望 コロナ禍の先へ未来を見つめる新たなアンセム
THE BACK HORNがニューシングル『希望を鳴らせ』を12月5日にリリースした。THE BACK HORNの新たな代表曲になる、そんな強い手応えを感じるロックチューンが揃っている。12thアルバム『カルペ・ディエム』(2019年10月)以降、配信シングル「瑠璃色のキャンバス」(2020年6月)、作家 住野よるとのコラボ作品『この気持ちもいつか忘れる』(2020年10月)を経て届けられた表題曲は、作詞を菅波栄純、作曲を山田将司が担当。研ぎ澄まされたバンドサウンドと高揚感に溢れたメロディ、〈俺はまだ生きてる 終わらない希望を鳴らせ〉という歌詞が高らかに響くアッパーチューン。コロナ禍を生き抜いたTHE BACK HORNの未来を照らし出す、素晴らしいロックナンバーだ。今回は、そんな山田と菅波にインタビュー。『希望を鳴らせ』を中心に、バンドの現状とこの先の活動ビジョンについて語ったもらった。(森朋之)
「バンドがアウトローだった時代は終わっている」(菅波)
ーー2021年、THE BACK HORNは積極的にライブを続けてきました。3月からは延期していたツアー『「KYO-MEIワンマンツアー」カルペ・ディエム〜今を掴め〜』の振替公演、5月からはアルバム『リヴスコール』の曲を中心とした『「KYO-MEIストリングスツアー」 feat.リヴスコール』、そして10月2日からは『マニアックヘブンツアー Vol.14』と3度のツアーを開催。かなりの本数ですよね。
山田将司(以下、山田):今年はたくさんライブさせてもらいましたね。
菅波栄純(以下、菅波):ライブを行える状況だったら、試行錯誤してやろうという姿勢だったんですよね。ただ、いろいろ制限があったし、配信ライブが基本というところもあってーー。
山田:なかなか厳しい基本ができてしまったよね。
菅波:以前はスペシャルなライブのときだけだったのに、今は当たり前のように配信もあって、その変化は大きいと思います。まず、演奏に対する意識がシビアになった。配信は音がクリアで、細かいところまで聴こえるので。俺らとしても、冷静さと熱さが同時に必要なんですよ。
山田:うん。(配信の視聴者は)クールに聴いてるイメージもあるし。課題はいっぱいありますね。
ーーいいように捉えると、演奏のレベルアップにもつながるのでは?
菅波:それはあると思います。10月から12月にかけて『マニアックヘブンツアー』を開催しているのですが、普段はあまり演奏していない曲が中心なので、そもそも演奏のハードルが高いんですよ(笑)。配信も12月5日(新木場 USEN STUDIO COAST公演)の公演だけあって。
山田:何本かライブやって右上がりなので、調子はいいですけどね。『マニヘブ』に来てくれるお客さんはコアなファンが多いので、リアクションも早い気がしますし、今年3本ツアーをやらせてもらって、お客さんもこの状況に馴れてきてくれたというか。
菅波:「これはこれで楽しめるな」という人もいるんじゃないかな。
ーー声出し禁止が当たり前って、すごい状況ですけどね。
山田:そうですよね。さっきも言ったように演奏は問題ないんですけど、MCがどんどん荒れていくんですよ(笑)。お客さんからのツッコミがないから、4人でずっと喋ってしまって。
菅波:確かにずっと喋ってるよね(笑)。お客さんのツッコミがあると「飽きてきたかな」ってわかるんだけど。
ーーMCがウケてるのかスベってるのかわかりづらいと(笑)。でも、この状況のなかでもライブを続けてきたのは正解だったという手応えもあるのでは?
菅波:まだわからないですね。やってよかったとは言い切れないところもあるので。ライブ会場まで足を運んでくれたり、配信でライブを観てくれて「やっぱりTHE BACK HORNのライブは最高だ!」と言ってくれる人もいるし、そういう人たちとの関係性においては100%やってよかったと思うんですよ。でも……。
山田:行きたくても行けない人も多いから。
菅波:そう。社会に属しているバンドとして、正解の道を辿っているかどうかはわからないと思っていて。この先に見えてくるとは思うんだけど、まだ楽観的になれないです。
ーー“社会に属している”ということを実感させられた2年でもありましたからね。ロックバンドって、かつては社会の成り立ちとは少し外れたところに存在しているイメージもあったけど……。
菅波:アウトローなところもありましたからね。でも、『リヴスコール』(東日本大震災の翌年にリリースされたアルバム)もそうだけど、震災以降は社会の一員として動いている感じも強いんですよ。社会の真ん中ではないんだけど、端っこにいて、社会から外れたり、こぼれそうな人たちとの間に俺たちがいるというか。THE BACK HORNが活動していることで、救われた人、社会とつながれた人も少なからずいると思うし。その時点でバンドがアウトローだった時代は終わっていて。今はもう、社会の一員としてツッコまれますからね。「あの人たちはロックバンドだから、自由にさせておくしかない」みたいな感じはなくて、「いやいや、それは社会人としておかしいでしょ」って叩かれることもあるし。
山田:うん。ステージ以外ではそうだね。
菅波:あ、そうだね。ステージの上のことは、さすがに放っておいてほしいけど(笑)。
ーーライブは最大の表現の場所ですからね。
山田:そうですね。もちろんお客さんからの熱量も受けるんだけど、それとは関係なく、自分たちが出してる音に自分たちの身体が反応して、それを見せているところもあって。それこそ20年前なんて、お客さんがいてもいなくても関係ないようなライブをやっていて。(コロナ禍になって)自分たちの音楽やライブに対する向き合い方を見つめ直すきっかけにもなりました。
ーーニューシングル『希望を鳴らせ』からも、今のTHE BACK HORNの姿勢がはっきりと伝わってきました。
菅波:ありがとうございます。次のアルバムに向けて制作に入ったときに、「ここから出していく曲、大事だよね」という話をしていて……まあ、毎回言ってることなんですけど。
山田:そうだね(笑)。『カルペ・ディエム』を出して、その後「瑠璃色のキャンバス」をリリースして、住野よるさんとのコラボ作(『この気持ちもいつか忘れる』)があって、「次はどうする?」という気持ちはあったかな。
菅波:「瑠璃色のキャンバス」は将司が歌詞とメロディを作った曲で、自分たちにも刺さるというか、“音楽家として生きてていいんだよな”と思わせてくれる曲だったんですよ。コロナ禍が始まった時期のリアルを歌っていたんですけど、それを踏まえて、2021年の終わりに伝えるべきメッセージは何なのか、ということも意識していて。
「この4人だから堂々と打ち出せる」(山田)
ーーなるほど。「希望を鳴らせ」は山田さんが作曲、菅波さんが作詞を担当していますが、どういうプロセスで作られた曲なんですか?
山田:メンバー全員でいろんな曲を作るなかで、「これくらいストレートな曲が次のシングルになったらいいよな」ということで候補に挙がったのが、「希望を鳴らせ」のデモだったんです。
菅波:デモ音源にはピアノで弾いたメロディが入っていて。サビ頭のコーラスを聴いたときに、みんなで歌っている感じが浮かんできたんです。将司からも「ライブハウスで、みんなに歌ってほしいメロディをイメージしてた」という話があって、その言葉がすごく刺さって。今はまだみんなで歌えないじゃないですか。あえてサビを(大勢で歌うことを想定した)メロディにすることに意味を感じたんですよね。“自分たちが今リアルに感じていることを曲にする”というコンセプトがあったんだけど、将司にはもっと未来の絵が浮かんでいるんだなと。
山田:このサビのメロディをみんなで共有したいという気持ちはありましたね。栄純が言う通り、今は声を出せないけど、メンバーが歌っているところを見せるだけでも意味があるなと思って。
菅波:一人だけの思いじゃないってことだよね。
山田:そう。メンバー全員の思いもそうだし、聴いてくれる人の曲になってくれたら嬉しいです。
ーー歌詞もめちゃくちゃストレートですね。
菅波:この曲に合う歌詞のテンションに気づくまで結構時間がかかったんですよ。〈希望を鳴らせ〉で始まって、〈終わらない希望を鳴らせ〉で終わるサビにしようと決めたときに、その他の部分もすべてがつながったというか。なるべくして熱い歌詞になりました。
ーー〈「前を向け」と音が鳴り響く〉〈四の五の言わねぇ 諦めなど知らねぇ〉もそうですが、生きる力に直結するような言葉が溢れていて。
菅波:この2年、くじけそうになることもあったんですけどね。音楽やめちゃおうかな、とまでは思わなかったけど「続けられるんだろうか?」という不安はあったので。その時期のことを思い出して書いたところもあります。「だけど、鳴らすしかねえだろ?」って自分たちに発破をかけてるところもあったし。
ーー実際、解散したり、メンバーが脱退したバンドもいましたからね……。
山田:そうなんですよね。
菅波:バンドだけじゃなくて、ライブハウスもそうで。いろんな別れを味わったんだけど、だからこそ俺らはやらないといけないなと。
ーー山田さんは「希望を鳴らせ」の歌詞についてどう感じてますか?
山田:ストレートだなと思いました。ただ最初は「ちょっと眩しすぎるな」という感じもあったかな。でも、20年以上バンドをやってきたからこそ、こういう言葉が馴染むんだなと思って。今のTHE BACK HORNだからこそ、希望の光を集められるし、それをみんなにも感じてもらえるんだろうなと。“この4人だから堂々と打ち出せる”という頼もしさもありました。
菅波:それはあるよね。このバンドにいるから歌詞にできることもたくさんあるんですよ。「希望を鳴らせ」はまさにそうで、一人だったら勇気が出ないというか、「俺がそんなこと言ってどうするんだ」って自分でツッコミたくなるんだけど、THE BACK HORNだったら表現できるっていう。
ーーまさに〈絶望の果て歌が生まれ来る〉というフレーズ通りの曲だと思います。ライブ感のあるサウンドも素晴らしいなと。
菅波:結構タフな音ですよね。
ーーレコーディングはスタジオで?
菅波:いや、ギターとベースは家で録りました。
山田:コロナ禍のやり方が続いてますね。
菅波:それもだいぶ慣れましたけどね。時間をかけて録れるので、クオリティはむしろ上がってるかもしれない。スタジオだとどうしても時間が限られるんですよ。まずドラムから録り始めて、ギターのダビングは最後のほうなので。食事を挟んだりして眠くなるし。
山田:それは知らないよ(笑)。
菅波:ははは。家だと朝イチでもやれますからね。
山田:気分が乗ったときにやれるのはいいよね。歌はスタジオで録ったんですけど。
菅波:ボーカルはそのほうがいいよね。
山田:仮歌は家で録れるんだけど、本番の歌録りのジャッジは、人に聴いてもらって客観的に決めてもらったほうがいいから。