『One Man Tour “聖者の行進”』
キタニタツヤ、ライブを通して改めて伝えた“希望と祈り” 「聖者の行進」に込めたメッセージも
ツアータイトルに冠された楽曲「聖者の行進」について、キタニタツヤは「暗い曲に聴こえるかもしれないけれど、俺にとっては今までの中で一番素直に、希望について歌えた曲」だと語った。メジャーデビューの年となった2020年を「世間一般的には“ろくでもねえ年”」と言い表した彼は、それでも晴れやかな面持ちで、祈りを込めるように言う。「みんなが、俺の音楽と自分自身を愛してくれますように」。
キタニタツヤの全国ツアー『One Man Tour “聖者の行進”』が、11月22日に新木場USEN STUDIO COASTで終幕を迎えた。メジャーデビュー後ソロ名義初となるシングルリリースを記念した全国ツアーとあってか、あいにくの雨のなかにもかかわらず、ソーシャルディスタンシングを設けながらもフロアはすさまじい熱気に包まれていた。真っ赤な照明に舞台の上が包まれSEが鳴ると、バンドメンバーに続いて黒い衣裳に身を包んだキタニが登場する。溢れかえるような拍手に導かれ、演奏がスタートした。
1曲目に披露されたのは「ハイドアンドシーク」。ハンドマイクを手にしたキタニの歌声は高らかに響き渡り、フロアへと妖艶な所作で伸ばされる指先の動きひとつで、彼はその場の空気を文字通り一瞬で掌握してしまった。今回のツアーを一緒に巡ってきたバンドのグルーヴも盤石で、身を委ねようという意思を抱く前にすっかり呑み込まれてしまうほど求心力に満ちている。キタニは時に舞台の上を縦横無尽に舞い、時にマイクスタンドにしなだれかかるようにして、曲によって佇まいを変えながら全身で音楽を表現する。前髪を掻き上げ、軽快なステップを踏み、身体を揺らしてオーディエンスを煽動し、フロアを支配していく。
中盤に差し掛かる頃には、ピアノ、ギター、そしてキタニだけのアコースティックセットにチェンジ。特に印象的だったのは、「人間みたいね」のシニカルで硬質な冷たさが温かみあるアコースティックのアレンジによって柔らかく変化して、報われない愛の歌としての側面がより色濃く立ち現れていた点だ。薄紅色の照明の中で椅子に腰掛け、アコギを爪弾くキタニの歌声は、寒空の下に咲く一輪の儚い花のようだった。
さらにクライマックスが迫ってくると、パフォーマンスはさらに深く、魔的なまでに内省的な世界を描き始める。「悪夢」のアウトロで、ディストーションがこれでもかと掛かったギターをバックに天に向かって手を伸ばすキタニのシルエットが、真っ赤な闇の中に幻のように映えていた。
この日のMCでキタニは「この世には理不尽なことがたくさんある」と語っていた。自身のメジャーデビュー後の歩みを振り返り、コロナ禍の影響でツアーでは行くことが叶わなかった地域などもあったことを明かし、言葉に悔しさを滲ませる。キタニは昨年リリースされたアルバム『DEMAGOG』に収録されているバラード「デマゴーグ」を例に挙げ、「どんなに理不尽なことがたくさんあっても、元気になれなくても、俺達には前を向いて生きていくことしか選択肢がないと気づいた」「聴いてくれたみんなが少しでも前を向けるように、希望と祈りを込めて作った曲だった」と、約1年前のメジャーデビュー時の自身を振り返った。
そんな経験を経て今年リリースされた楽曲たちには、彼が音楽に込めた希望と祈りがより濃く表れているように聴こえる。ライブのクライマックスで披露された「逃走劇」冒頭で「行こう!」とオーディエンスに呼びかけたキタニの声は力強く、そして優しく、前向きな感情が表れているように聞こえた。