AKB48、今求められる“総監督”としての役割とは? 横山由依卒業を前に考える

 AKB48は正規メンバーがそれぞれチームA、チームK、チームB、チーム4、チーム8のいずれかに所属し、それぞれのチームをキャプテンが牽引する構成となっている。さらにその下には、正規メンバーを目指す研究生たちがひしめく。そんな大所帯のグループの全体を取りまとめるのが“総監督”というポジションだ。その業務内容は、コンサート前の円陣時の声出し、メンバーからの意見の吸い上げ、運営陣へ企画提案など多岐にわたるという。

 2021年12月に2代目総監督をつとめた横山由依がグループを卒業するが、今回は3人の歴代総監督とその役割について触れていきたい。

混迷期の精神的支柱となった高橋みなみ

 初代総監督を担当したのは、1期生の高橋みなみだ。2012年8月24日、東京ドームで開かれた『AKB48 in TOKYO DOME 〜1830mの夢〜』の初日公演中、AKB48劇場支配人・戸賀崎智信から総監督就任を告げられた。当時の模様はドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』(2013年)でも見ることができるが、発表を受けて高橋は「ちょっと待ってくれ」と戸惑いの苦笑いを浮かべていた。

 同公演では、2011年6月結成のチーム4を解体し、その上で各メンバーの所属チームを入れ替える“組閣”が発表され、さらに海外を含む姉妹グループへの移籍が伝えられたメンバーもいたことから、大きな動揺が広がった。さらに2日後の東京ドーム公演最終日では、絶対的センター・前田敦子が卒業。高橋みなみの総監督就任は、AKB48の第1期終焉と第2期幕開けを象徴する出来事となった。

 また、同じく『DOCUMENTARY of AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?』で生々しく映し出されているが、メンバーの恋愛スキャンダルによる脱退なども問題化。色々な物事が一気に押し寄せたグループは、この時、絶頂期にして混迷期でもあった。AKB48は全国的な人気を獲得した一方で、大化しすぎたがゆえにぐらつき始めていたのだ。そんなときに前田敦子というシンボルがいなくなった、そこで精神的な支柱を明確化させる必要があったのではないだろうか。誰からも信頼されていた高橋は、その役割にふさわしかった。

予告編/DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN/AKB48[公式]

 書籍『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(2013年/アスコム)の中で、プロデューサーの秋元康は「高橋みなみは本当に政治家になるべきだと思います。あんなにリーダーシップのある子はいませんよ」と絶賛。ただ秋元は、高橋にはもともとリーダー気質はなかったとし、「お姉さんたち(年上メンバー)が卒業していなくなってしまい、もう頼る人もまとめる人も誰もいなくなったとき、彼女が輝き出した。やらざるを得ない状況が、リーダーを生み出した」と、当時のグループの環境によって高橋の強いリーダーシップが出来上がったと話している。

人間臭さでグループを一丸とさせた横山由依

 高橋から総監督のバトンを受け取ったのが、9期生・横山由依である。2014年12月8日、高橋が約1年後にグループを卒業し、総監督の座を横山へ継承すると宣言。翌年同日、『AKB48劇場10周年記念特別公演』をもって横山が総監督に就任した。

 ただ、高橋の後任であるということは、当然プレッシャーが大きかったはず。継承式でも「ここに立っているだけでもどうしようもないくらい不安です」と涙を浮かべ、声を震わせた。そして「先輩方の歴史に負けない、新しいAKB48を作っていきたい。10年後に『ずっと応援して良かった』と思ってもらえるグループを作っていきます。だから皆さん、私たちのことを支えてください。私たちのレジェンドファンになってください」と頭を下げ、カリスマ性を発揮していた高橋とはまったく違うアプローチを見せた。しかし、そこに横山総監督の面白味があった。

 書籍『涙は句読点 普通の女の子たちが国民的アイドルになるまで AKB48公式10年史』(2016年/日刊スポーツ新聞社)で秋元は、「AKB48に、ポスト前田敦子も、ポスト大島優子も、ポスト高橋みなみもいらないんだよ。というより、なれない。『横山由依』が面白いんだよ。MCも、まとまらなければ、まとまらないほど面白い」とその持ち味を評価した。

 横山は、2012年、2013年に2年連続で開催された東京ドーム公演の再現を在任中の目標に掲げていたが、それは叶わなかった。その間には公式ライバルとして誕生した乃木坂46の活躍や、『AKB48選抜総選挙』では姉妹グループが上位を占めるようになった。このあと数年にも及ぶ世代交代の入り口の時期とあって、AKBとしての活動はなかなか思い通りにいかなかったはず。横山は各インタビューでも、総監督の肩書きの重さを常に感じ、苦悩しながら活動していたことを明かしている。

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 高橋のように劇的な言葉を吐き出せるわけではなく、スピーチも決して上手いわけでもなかった。だが、横山はとにかく一生懸命で、ひたすら汗をかいていた。その人間臭さこそが横山が愛された理由だ。『涙は句読点』内の対談で、横山が「自分ができないことをカバーしてくれる人がどんどん出てきてくれていて、助かってます」とメンバーへの感謝を口にすると、秋元も「みんなが横山を応援する感じがいいんだ。横山が高飛車でいやな女だったら、支えないから」と語っていた。“横山時代”は、個性が強かったレジェンドメンバーが抜けた分、全員一丸となってグループを守ったところが特徴だったのではないだろうか。

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