Little Parade 太志×秋山黄色が語り合う“Aqua Timezという原点” 自然体で表現する曲作りから得られるもの

Little Parade 太志×秋山黄色 特別対談

 元Aqua Timezの太志によるソロプロジェクト Little Paradeから、2ndミニアルバム『藍染めの週末』が11月24日にリリースされる。〈こんな時代にこそ 音楽よ燃え盛れ〉と歌い上げる「風の斬り方」、彼自身の学生時代の経験が反映された「スクールカースト 〜底から見た光〜」などを収録した本作は、メロディ、歌詞、サウンドメイクを含め、現在進行形の太志の音楽がリアルに刻み込まれている。

 今回、リアルサウンドではAqua Timez時代から太志の音楽を聴き続けているという、秋山黄色と太志による対談が実現。Aqua Timezに対するお互いの想いを振り返りつつ、音楽観や楽曲制作に対するスタンスなど、存分に語り合ってもらった。(森朋之)

Little Parade「long slow distance」

「いい曲を作るときは『決意の朝に』を必ず聴く」(秋山)

ーー秋山黄色さんは、幼少の頃からAqua Timezのファンだったそうですね。

秋山黄色(以下、秋山):はい。一番古い記憶だと「ALONES」(2007年)あたりですね。

太志:(OPテーマになっていたアニメ)『BLEACH』だね。

秋山:そうですね。その後は『ごくせん』の曲(「虹」/2008年)とか。小学生の頃は、テレビから聴こえてくる曲で知ることがほとんどだったし、周りの友達もみんなAqua Timezが好きで、自然と聴くようになりました。日本語を覚えるのと同じで、気がついたら聴いてた感じですね。

太志:それくらい年齢が離れてるということか(笑)。

太志

ーー小学生の頃にAqua Timezを聴いた少年が、今はアーティストとして活動しているわけですからね。

太志:嬉しいです。(Aqua Timezに影響を受けて)ラッパーになった人もいるんだけど、黄色くんの音楽は思い切りバンドサウンドだよね。

秋山:はい。ソロでやってるんですけど、もともとバンドが好きなので。

太志:音の作りがソロっぽくないんだよね。ギターにしても「こんなに出すんだ?」という感じだし。

秋山:最近はギターがあまりフィーチャーされない時代ですけど、自分はミックスの段階でギリギリまで出すようにしていて。

太志:USのポップスやヒップホップもそうだけど、ギターが目立たない曲が多いからこそ、黄色くんの音楽からは主張を感じますね。ギターだけじゃなくて、全部の音にこだわっているのもわかるし。ベースも超ゴリゴリじゃない?

秋山:一番こだわっているのはベースかもしれないですね。最近はサブベース(ベースよりもさらに下の音域で鳴らすシンセベース)を使ってる曲が多いですけど、僕はバンド楽器が好きなので。

秋山黄色

ーー秋山さんが志向するバンドサウンドの原点の一つに、Aqua Timezがあるということですか。

秋山:そうですね。

太志:(Aqua Timezの)ベースのOKP-STARも、どこまで行っても“バンドのベーシスト”なんだよね。最近はYouTubeでギターの弾き語りをやったりしているけど。

秋山:それも観てますよ。

太志:そうなんだ(笑)。いろんな活動しているけど、根本はベースが大好きなロックキッズなんですよ。Aqua Timezの終わり頃に、OKPが「ポップスは難しい」と言ってたのも印象に残っています。もともとはMetallicaとか、ヘヴィメタルから音楽に入ったので。

秋山:小学生の頃にバンドメンバー全員がうつってる写真を見て、子どもながらに「音楽性の違いとかってあるのかな?」と話してたんですよ(笑)。当時からファンキーな雰囲気だったので。

太志:髪型がドレッドだからね。しかもレゲエじゃなくてメタルが好きっていう(笑)。ただ、Aqua Timezがバンドとして成立していたのは、彼のベースが大きかったんです。俺の音楽はポップスに寄っていたんだけど、OKPのベースや音楽性とミックスしたことでバンドとしてまとまったというか。J-POPバンドという見られ方をしていたかもしれないけど、よく聴けばロックバンドだったことがわかるんじゃないかな。それが黄色くんに伝わっていたのは嬉しいです。

ーーAqua Timezは90年代後半のミクスチャーロックも反映していましたよね。

太志:Limp BizkitやRage Against The Machineも好きだったので。俺らが活動を始めた2000年代初め頃は、そういうバンドが多かったんです。レギュラーで出させてもらっていた渋谷のVUENOS(ライブハウス)も、ヘヴィな音で、DJがいて、ラップもやる、みたいなバンドばっかりでした。

秋山:そうなんですね。俺もバンドのボーカリストのラップがすごく好きなんですよ。フロウがオリジナルというか。完全にヒップホップに寄ってる人のラップは「このトラックにはこういう感じで乗せる」というのがある程度決まっているけど、バンドの人のラップは独特なので。

太志:黄色くんの曲にも、少しラップが出てくるよね。

秋山:やりたくなるんですよね、やっぱり。

ーー90年代後半のミクスチャーロックがAqua Timezを通して、秋山黄色さんの音楽性にも影響を与えるって、すごいですよね。

太志:そうですね。ただ、Aqua Timezはその頃からちょっと浮いていたんです。メロディアスでありたいという気持ちが強かったし、「スクリームだけ」みたいなバンドが多いなかで、俺らはメロディとコード進行、譜割りにこだわっていたので。キーボードがいたのも大きかったのかなと。

秋山:Aqua Timezのメロディは今聴いても「頭ひとつ抜けているな」という印象がありました。自分もプロとして活動しているなかで、「ここで必ずいい曲を作らないといけない」というタイミングがあるんですけど、そういうときは絶対、Aqua Timez「決意の朝に」を聴くことにしているんです。対抗しているのではなくて、「こういうレベルを追わないといけない」って自分を律するために。

太志:嬉しいです。

Aqua Timez 『決意の朝に PVフル』

「印象に残っているのは数字よりも実際に経験したこと」(太志)

ーー太志さんは秋山さんの楽曲に対してどんな印象を持っていますか。

太志:さっきの音の話もそうだけど、独自のものを持っていると思います。歌詞はかなり内省的ですよね。ヒップホップのセルフボースティング的なものではなくて、自分の葛藤をちゃんと歌っているところが好きです。

秋山:(うつむき加減で聞いている)

太志:俺もずっと葛藤していて。自分を大きく見せるのではなくて、「俺はこんなに小さいことで悩んでいる。ちょっと変かもしれないけど、君はどう?」みたいな感じなので。アウトプットの方法は違うかもしれないけど、黄色くんも近いんじゃないかなって。

秋山:……ちょっと言葉にしづらいですけど、シンパシーを感じる部分はあります。それが(太志からの)影響かどうかはわからないけど、俺も「自分の等身大ではないことを歌っても意味がない」と思っていて。多少の誇張くらいはいいけど、思ってもないことは絶対に書かないようにしてるんですよ。結果的に「自分はこうです」というところから始まる曲が多いのかなと。

太志:黄色くんは、他の人にないものを持っていると思います。エグい言葉遣いもちゃんと曲になってるからね。

秋山:俗っぽくなっちゃいますけど、尖っていることをよしとしているところがあるんですよ。他人をけなしたり落とすことはしないですけど、歌詞にはどうしても攻撃的な言葉が入ってきていて。

ーー鋭い言葉が自分自身に向けられているのかもしれないですね。

秋山:そうかもしれないです。

太志:やっぱり内省的なんだろうね。そこがロックなんだと思う。

秋山:「お前をぶっ飛ばしてやる」みたいな歌はないですからね。せいぜい「バイト先のあいつ、ふざけんな」くらいで(笑)、本気で怒ってるわけではないというか。それも太志さんの影響があるかもしれないですね。

太志:今の年齢じゃないと歌えないこともあるからね。これから変化もするだろうし、10年後、黄色くんがどんな歌を歌っているか想像するのも、ファンの人たちにとっては楽しいと思うよ。俺も41歳になっていろんなことが変わってきて。同級生が病気になったり、結婚して子供を持ったり、不良だったヤツが丸くなって、体形まで丸くなったり(笑)。そういうことがあると、よくも悪くも自分の表現も大人になっていくんだよね。黄色くんはヒリヒリした表現の曲が多いけど、それは今を生きている人だからだと思う。黄色くんの世代で、ここまでしっかりアイデンティティを持ってる人はそうそういないんじゃないかな。

秋山:……めちゃめちゃ恐縮です。

太志:この先、どんな試練が待っているかはわからないけどね。長くやっていると、どうしても仕事として曲を書かなくちゃいけないこともあるだろうし。メジャーでやるってそういうことでもあるから。

秋山:今のところ楽しんでやれている気がします。さっきも言ったんですけど、作曲は趣味なんですよ。何かの理由でやめることはあり得ないし、ずっと楽しいので。

太志:ドーパミンが出まくっているんだろうね。

秋山:そうですね(笑)。僕が爆笑しながら作ってる曲を勝手にリリースしてもらって、それで生活できれば最高なんですけど、さすがにそれは人生舐めすぎなかなって。

太志:はははは。楽しんで作った曲を人に聴いてもらって、自分ではそんなつもりはなくても、結果的に誰かを救うこともあったり。基本的に自分のことを曲にしているし、誰かを救うなんて、大そうなことはまったく考えてないんだけどね。ただ、活動が長くなるにつれて相手(リスナー)のことを考えるようになって、“励ます”という気持ちも入ってきて。特にAqua Timezの後期はそういうことが増えたかな。“気持ちよく韻が踏めたらそれでいい”みたいな感覚もずっとあるんだけど。

秋山:わかります。

太志:あと、活動のなかで印象に残っていることって、数字よりも実際に経験したことなんです。「〇〇万枚売れた」みたいなことではなくて、スタジオでメンバーと喋ったこととか、そのときに食べた出前のこととか。数字には肌触りや匂いがないからね。

秋山:そうですよね。YouTubeの再生回数もインフレを起こしている気がするし、俺がインターネットを見始めた頃、ニコニコ動画の100万回再生って本当に重かったんですよ。その曲はみんな知ってたし、すごいことだったので。

ーー今はちょっと違うかもしれないですね。でも「やさぐれカイドー」や「猿上がりシティーポップ」が100万回再生を超えたときは嬉しかったのでは?

秋山:もちろん嬉しいですけど、それよりも初めての企画ライブで30人集まってくれたときのほうが記憶に残ってるんですよ。

太志:わかる。ライブは緊張感があるからね。五感をフルに使うし。

秋山:そうなんですよね。ずっと鮮明に覚えてるし、緊張感も蘇ってきて。

太志:数字見ても緊張しないからね。

秋山黄色『猿上がりシティーポップ』

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