小西康陽、野宮真貴、高浪慶太郎視点で巡るピチカート・ファイヴの音楽体験 時代の空気を吸い込んだ唯一無二のポップワールド

三者三様の視点で振り返るピチカート・ファイヴ

 第2弾の『配信向けのピチカート・ファイヴ その2 小西康陽の巻』は、彼のメロディメイカー、サウンドクリエイターとしての才能がよく分かる内容になっている。勢いのあるロックンロール「ロンドン・パリ」、ラジオのナレーションを挿入したダンサブルな「お早よう」、ポップながらハードなギターが鳴り響く「スーパースター」、小西らしい空虚な世界観の歌詞が印象深い「ドミノ」など、シングルヒットとはまたひと味違う魅力がふんだんに楽しめる。意外だったのは2バージョン収められている「パッシング・バイ」。これはThe Beach Boysのインスト曲のカバーだが、ザ・コレクターズのメンバーを加えたセッションは、まさに小西のロックサイドといえる出来栄えだ。また後半を占めているアルバム『グレイト・ホワイト・ワンダー』収録曲にも注目したい。このアルバムはいわゆるレアトラック集で、テクノポップに仕上がった「私のすべて」のインストバージョンや、小西自身が歌う「めざめ」のデモ・バージョンなど、“裏ピチカート”とでもいうべきユニークな楽曲が満載だ。このように、ひねりの効いた小西ならではの選曲センスが堪能できるのが、この第2弾なのだ。

 新たに配信された第3弾の『配信向けのピチカート・ファイヴ その3 野宮の巻』は、今年デビュー40周年を迎える野宮真貴という稀有なボーカリストの魅力を伝える内容になっている。冒頭のアカペラで歌う「きよしこの夜」などは、ダンサブルなヒット曲ではわからない彼女の声の質感をふんだんに味わえる。「サンキュー」、「我が名はグルーヴィー」、「世界は1分間に45回転で廻っている」、「プレイボーイ・プレイガール」などはベストアルバムに収められていてもおかしくないキャッチーなボーカルの魅力を打ち出した楽曲だ。また、彼女ひとりではなく、デュエットの面白さを堪能できるのもいい。トワ・エ・モワの「地球は回るよ」には本家の芥川澄夫が参加して渋く決めているし、松崎しげるとYOU THE ROCK☆をフィーチャーした「東京の合唱」の楽しそうな雰囲気も微笑ましい。そして、コアなファンにとってのここでの目玉は、クラフトワークの「電卓」のカバーだろう。公式でリリースされていない未発表曲で、いかにも彼ららしい解釈の日本語バージョンとなっていて興味深い。

 こうやって三者三様の視点でピチカート・ファイヴの楽曲を選ぶと、いかにバラエティに富んだ膨大な数の音源が残されていたのかがよく分かる。そして、その一曲一曲が(あえて)インスタントに作られたと思えるものもあるとはいえ、どれもアイデアに溢れている。同時に、彼らがブレイクした90年代の東京を舞台に、喧騒に満ちた都市のサウンドトラックを作り続けてきたという印象が残る。解散して20年経った今、あらためて当時を振り返るにはちょうどいい時期かもしれない。とにかく現在のJ-POPでは味わえない情報量の多い濃密なポップ・ワールドを、この機会に楽しんでいただきたい。

■リリース情報
『配信向けのピチカート・ファイヴ その3 野宮の巻』
11月17日(水)配信スタート
1.きよしこの夜(a cappella)
2.きよしこの夜(one hundred voices)
3.サンキュー
4.フラワー・ドラム・ソング
5.テレパシー
6.きよしこの夜(from the album "Instant Replay")
7.我が名はグルーヴィー
8.ゴーゴーダンサー
9.ラブラブショー
10.ヒッピー・デイ
11.秘密の花園
12.キャットウォーク
13.世界は1分間に45回転で廻っている
14.地球は回るよ
15.衝突と即興
16.アリガト WE LOVE YOU
17.新しい歌(Single Version)
18.ロールスロイス
19.不思議なふたつのキャンドル
20.コンチェルト
21.プレイボーイ・プレイガール
22.華麗なる招待
23.美しい星
24.ウィークエンド(Piano Mix)
25.テーブルにひとびんのワイン(Alternate Cut)
26.シェリーに口づけ
27.ルーム・サーヴィス
28.パーフェクト・ワールド
29.戦争は終わった(Single Version)
30.戦争は終わった(Album Version)
31.眺めのいい部屋
32.あなたのいない世界で
33.東京の合唱
34.さくらさくら
35.キモノ
36.さえら
37.電卓(クラフトワークのカバー 未発表)
38.東京は夜の七時(RIP Version)

『高音質のピチカート・ファイヴ』
11月24日(水)発売
¥3,520(税込)
disc1
1.ロンドン・パリ
2.ヴァカンス
3.お早よう
4.サンキュー
5.テレパシー
6.ファンキー・ラヴチャイルド
7.万事快調(Pizzicatomania Meets Rudie)
8.我が名はグルーヴィー
9.ストロベリィ・スレイライド
10.ゴーゴー・ダンサー
11.スーパースター
12.ショッピング・バッグ
13.ヒッピー・デイ
14.ハッピー・サッド(TYO Version)
15.秘密の花園
16.キャットウォーク
disc2
1.ドミノ
2.パッシング・バイ(Friendly Friends)
3.めざめ(Demo Version)
4.銀ちゃんのラヴレター
5.アリガト WE LOVE YOU
6.新しい歌(Single Version)
7.不思議なふたつのキャンドル
8.プレイボーイ・プレイガール
9.華麗なる招待
10.シェリーに口づけ
11.戦争は終わった(Single Version)
12.眺めのいい部屋
13.あなたのいない世界で
14.東京の合唱
15.キモノ
16.電卓(クラフトワークのカバー 未発表)
17.東京は夜の七時(RIP Version)

■ライブ情報
『野宮真貴×矢舟テツロ―~うた、ピアノ、ベース、ドラムス~』
【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
2021年12月18日(土)
1stステージ
開場14:30 開演15:30 
2ndステージ
開場17:30 開演18:30
詳細はこちら

デビュー40周年の野宮真貴とSSW/ジャズピアニスト矢舟テツローによるジャズライブ!小西康陽もDJで参加!

日本コロムビア ピチカート・ファイヴ official site:https://columbia.jp/pizzicatofive/
小西康陽 official site:https://www.readymade.co.jp/journal/
野宮真貴 official site:http://www.missmakinomiya.com/

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