くるり、母校から届けた『京都音楽博覧会2021』 充実の二部構成で味わう最新形と原点

くるり、母校から届けた『京都音博2021』

 コロナ禍の1年目だった昨年=2020年は、京都のライブハウス 拾得で、くるりと岸田繁楽団の2アクトが無観客ライブを行い、それを収録して9月20日に配信するという形で開催された『京都音楽博覧会2020』。今年は、くるりの母校であり、結成の場でもある立命館大学衣笠キャンパスで収録したライブを、10月2日に配信する形での開催となった。

 ライブは二部構成となっており、第一部は『「天才の愛」LIVE at 以学館』というタイトルで、総勢14人、ゲストボーカルの畳野彩加(Homecomings)を含めると15人編成でのパフォーマンスとなった。くるりは4月28日にニューアルバム『天才の愛』を発表したが、その後6月に行った『くるりライブツアー2021』は、そのリリースツアーという位置付けではなく、『天才の愛』からは2曲しかやらなかったので、その正式なお披露目ライブが今回ということだろう。『天才の愛』は、シンプルなロックバンドの編成では再現が難しそうなアレンジの曲が多いので、こういう特別編成での見せ方を選んだとも推測できる。

 そして、第二部は『QURULI LIVE at 学生会館』と銘打って、前述の6月のツアーと同じ、岸田繁(Vo/Gt)、佐藤征史(Ba)、松本大樹(Gt)、野崎泰弘(Key)、石若駿(Dr)の5人編成でライブを行った。

岸田繁

 なお、以学館とは経済学部、経営学部、そして岸田が通っていた産業社会学部が入っている校舎で、650人ほどを収容できるホールがある。学生会館は150人弱を収容する小ホールや、クラブやサークルの部室がある建物で、くるりの結成の場である軽音サークル=ロックコミューンの部室もここにある。正確に言うと、別の軽音サークルであるNEW MUSIC研究会(という名前だが実態はヘヴィメタルサークル)と、部室をシェアしている。

 と、スラスラ書けるのは、たまたま私が立命館大学経済学部の卒業生で、そのコミューンじゃない方のサークルに、ちょっと在籍していたことがあるからです。くるりの8年先輩なので30年以上前の情報だが、映像を観る限りでは、以学館も学生会館も、当時のままの建物だった。

佐藤征史

 セミの声が響く夏の衣笠キャンパスの画に、まず佐藤、続いて岸田の手書きのメッセージが映し出される。そして以学館ホールのステージ上に、総勢14人(ホーンやコーラスのほか、ハープやマリンバもいる)が向かい合った画に切り替わり、「I Love You」でライブがスタートする。岸田と佐藤の口元にあるマイクが、普通ライブでボーカルを拾うのには使わないコンデンサーマイクであるところなどに(去年の京都拾得からの配信もそうだった)、通常のライブとは違う、一発録りのレコーディングに近い雰囲気がある。

 『天才の愛』で最も話題になった曲であり、曲中に出てくる元阪急ブレーブスの福本豊と岸田がラジオで対談する事態(『よなよな...なにわ筋カルチャーBOYZ』/ABCラジオ)にまで発展した「野球」では、パーカッションの2人(中山航介と山崎大輝)が、応援団よろしく大太鼓を叩く。その2人、「大阪万博」ではマリンバ&シロフォンを2台並べて叩く連弾状態に。岸田はティプレ→エレキギター→最後にまたティプレと持ち替えるーーというように、曲が求める音に応じて、一部のメンバーの役割が変わりながら演奏が進んでいく。

 「watituti」の冒頭では、コーラスの加藤哉子&ヤマグチヒロコが美しいハモリを聴かせる。続く「less than love」では、佐藤がウッドベース、石若がドラム、中山がピアノ、副田整歩・野口勇介・米崎星奈がホーンを担当する6人編成に。ホーン隊とピアノが曲をひっぱり、佐藤のウッドベースもリード楽器のように奏でられた。この「less than love」は、岸田がいないにも関わらず『「天才の愛」LIVE at 以学館』がどういうものであるかを、象徴しているように思えた。

 10曲目「コトコトことでん (feat. 畳野彩加)」では、音源に参加している畳野が昨年に続き登場。岸田と向かい合って、ユニゾンであの素朴で美しいメロディを形にしていく。そして、イントロのギター&マリンバに合わせてメンバー全員が手拍子し、それにビール缶のプルトップを開ける音が二度のっかって始まった「ぷしゅ」がラスト。

 岸田&加藤&ヤマグチ&佐藤の歌声、ホーン隊、ハープ、ピアノ、キーボード、マリンバ、パーカッションなど、あらゆる音があらゆる場所で鳴り続け、最後にまたプルトップ音が響くこの曲で第一部は終了した。つまり、『天才の愛』の11曲を曲順通りに演奏する内容だった。

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