佐藤ミキに感じたシンガーとしての懐の深さ デビュー曲「名もない花」から新曲「東雲の空」まで披露した一夜

佐藤ミキ、初ワンマンライブレポ

 佐藤ミキが初のワンマンライブ“first live 『名もない花』”を9月29日に渋谷7th FLOORにて開催した。

 開演するとまずは「Play the real」でスタート。続いて2ndシングル「You & Me」(アニメ『裏世界ピクニック』エンディングテーマ)を披露した。力強くも切なさのあるこの曲のメロディを丁寧に歌い紡いでいく。彼女が思う“信じる”とは何なのかを意識しながら作ったという同曲。歌い終えると佐藤は「音楽を必要としている人は世の中にたくさんいると実感できた1〜2年でもあった」と振り返りつつ、「今日は”音楽の力”を感じてもらえたら」と話していた。

 昨年デビューした佐藤。北海道は札幌出身で、透き通る歌声の中にも彼女の芯の強さが感じ取れる。そんな彼女の大きな魅力になっている“シルキーボイス”が会場全体に響き渡ったのが、次の朗読のコーナーでのことだ。優しさと強さを併せ持ったその声の力が、純粋に声の魅力を味わえる朗読劇というスタイルで発揮されていく。読んだ物語は人気小説投稿サイト“monogatary.com”に掲載されている芽暗蝶月の『僕の朝は誕生日 第1章』(※1)。この日は彼女の誕生日でもあったため、誕生日をテーマにこの物語を選んだという。自身がパーソナリティを務めているラジオ『名もないラジオ』(bayfm78)にて毎週朗読しているのもあって、声には落ち着きがあり、テンポ感や間の取り方が見事だ。彼女のその優しい声に、観客は終始聴き入っているようだった。

 次に披露したのは「Mirror」。オリジナルは安田レイによる歌唱で、佐藤が初めて挑戦したカバー曲である。この曲をきっかけにカバーに対する意欲が増したという佐藤は、現在自身のYouTubeチャンネルにて名曲カバーを“BAR ミキ”と題し、定期的に投稿している。この日はその中からサスケの「青いベンチ」とチューリップの「サボテンの花」を歌唱した。原曲の良さを保ちつつ、すべてに“佐藤ミキ色”が加わったような、作品への寄り添い方が秀逸だ。名曲が目の前で新しく蘇るような不思議な感覚を覚えた。

 続いては、キーボーディストの渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)をピアノに迎え入れてアコースティック編成で「A KA SA TA NA」を歌った。原曲とは異なるピアノアレンジのジャジーかつメロウなタッチに酔いしれる。そのままの編成で自身が初めて全作詞に挑戦した「Last minutes」へ。時折2人で目を合わせてタイミングをはかる姿は堂々としていて、初ワンマンとは思えないオーラが漂っていた。

 本編ラストはデビュー曲の「名もない花」。この特別編成によって、歌声が音源よりも際立っている。低い音程を丁寧に歌いながら、高い音は美しく、それでいて感情が伝わるような切実さがある。彼女のYouTubeを覗くと海外からのコメントが多いことに驚かされるが、歌声から伝わるこうしたエモーショナルな部分は、国境や言語の壁を乗り越えていくものだ。それを考えれば、国外からの反響にも納得である。それがまさに彼女の言う“音楽の力”なのだろう。

 アンコールでは、11月5日に公開される映画『シノノメ色の週末』の主題歌「東雲の空」を初披露。作詞は高橋久美子、作曲は金澤ダイスケ(フジファブリック)が務めたこの楽曲は、どこか切ない歌詞と優しいメロディが印象的。そして最後は再度「名もない花」をオリジナルバージョンで歌った。「またお会いしましょう」とひと言残し、ステージを後にする彼女には、会場から惜しみない拍手が送られていた。

 声を活かした朗読というスタイル。“物語”との連関性。J-POPの名曲カバーによる懐メロとの相性の良さ。初ライブにして、早くもシンガーとしての懐の深さを持った彼女の大器の片鱗がうかがえたこの日。秋の涼しい風がそよぐ渋谷の小さな一角で、一人の女性の新しいストーリーが始まっていくような一夜であった。

(※1)https://monogatary.com/story/139393

佐藤ミキ公式サイト



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