豆柴の大群、アイドル×バラエティの化学反応から生まれる爆発力 藤井健太郎ワールドが引き出すグループの核
こがけんは知らない歌ばかりを歌い続け、ゆりやんは「昭和の日本の映画に出てくる女優さんの喋り方」を、ザコシは誇張モノマネ、ベッド・インは下ネタ込みのバブル期の流行語で、会場に抑えきれない笑い声を生み出していく。そして、特徴的だったのが各時代ごとにアレンジされた楽曲の数々だ。「りスタート」はお江戸 Ver.、「大丈夫サンライズ」は昭和歌謡 Ver.、「FLASH」はバブル Ver.、「サマバリ」は原始 Ver.といった具合に、松隈ケンタ率いるSCRAMBLESがこの日のためにリアレンジを施している。
例えば、「りスタート」であれば三味線や笛の音色がアクセントにある和風アレンジに、こがけんの大胆なスキャット(これが不思議とクセになってくる)が足されている。筆者が注目したのは、「大丈夫サンライズ」はBPMをグッと落とし、逆に「FLASH」は曲調を速めていたことだ。特に昭和歌謡ということでビート音を抑えた「大丈夫サンライズ」は、かなりリズムが取りづらいであろうことは観ていても十二分に伝わってきた。と同時にこの日に向けた練習の日々が滲むパフォーマンスでもあった。ちなみに、「サマバリ」は太古のリズムといったようなビートをさらに誇張したアレンジ。間奏ではザコシのサイレントによる「誇張しすぎたパーフェクトヒューマン」が炸裂していた。
1期BiSと披露したのは「らぶ地球」とBiSの代表曲「nerve」の2曲。冒頭で先述した番組企画で決まった「らぶ地球」のフィーチャリングゲストは、ファーストサマーウイカであるが、その代役を同じBiSメンバーであったプー・ルイが務めることに、誰もが納得するであろう。そして、ここでタイムスリップしたのは、2014年。1期BiSが解散した年であり、現在はWACK代表の渡辺淳之介が藤井と知り合った時期でもある(※)。「らぶ地球」に付随した単なる選曲ではない、そういった運命的な掛け合わせも含めて、見事な構成である。
さらに、構成というところで触れると、ライブの幕開けは「豆柴の大群-お送りするのは人生劇場-」の3連発であった。以前、メンバーの課題の一つであった体力を増強すべく、豆柴はツアーでも意欲的にこの3連発を披露していたが、今回は1回毎にタイムリープしているという演出。後に、ナオ・オブ・ナオがクロちゃんの先祖を喜ばせると未来へ進み、苦しませると過去に行くというタイムスリップの法則を発見する。なぜ「人生劇場」披露中にタイムリープしていたのかを回収しながら、ラストに1曲目としての「人生劇場」を再度持ってくる辺りが、クロちゃんが会見で話していた「藤井健太郎ワールド」を感じさせる。
公演中には、12月22日にリリースされる両A面シングル『昨日は戻らない / 恋のフルスイング』から「昨日は戻らない」がいち早く披露された。タイムスリップをコンセプトにした今回の公演と同時に制作していったであろうことは言わずもがな。「個性の深堀、時を刻む」をテーマにした楽曲で、作詞は「JxSxK」こと渡辺淳之介が担当している。会見でハナエモンスターは「初期に戻ったような新鮮な気持ち」と話していたが、渡辺が豆柴に初めて歌詞を手がけた「大丈夫サンライズ」を彷彿とさせる楽曲でもある。それはストリングスを使用したセンチメンタルかつエモーショナルな曲調と〈私大丈夫〉といった自身を肯定し、戻らない昨日から笑顔の明日へと歩みを進める歌詞にある。さらに、この日の力強いパフォーマンスに加えて、これまで以上に気合の入ったMVに、結成2周年というタイミングでまた豆柴が新しく生まれ変わろうとしているのだということを強く実感させた。
12月に開催の東名阪、対バンツアーも発表された。クラウチングスタートから幕を開けた豆柴は、3年目に向けてこれからも疾走し続ける。
(※)https://natalie.mu/music/pp/mameshibanotaigun02