エド・シーラン、鮮烈な復帰以降シーンに残す爪痕 BTSやONE OK ROCKとのコラボ&新曲から紐解く『=』への期待
2019年12月24日、エド・シーランは自身のInstagramの投稿で、これから休暇を取ることを伝え、2017年の『÷(ディバイド)』のリリースから休みなく働いてきたこと、今後は旅行をしたり、読み書きをしたりしようと思っていること、そして戻ってくるまで一切のソーシャルメディアを断つことを明らかにした。
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この日本でもストリーミングを中心に絶大なヒットを記録した「Shape of You」や、2017年のホリデーシーズンをビヨンセと共に彩った「Perfect」といった楽曲、そしてこれまでU2が持っていた記録を塗り替え、「最も興行収入を上げたツアー」の称号が与えられた同作のツアーなど、『÷』がポップミュージックシーンへ与えたインパクトは絶大だった。また、エド・シーラン自身に与えた影響も大きく、テイラー・スウィフトとの共作曲「Everything Has Changed」や、グラミー賞の最優秀楽曲賞を受賞した「Thinking Out Loud」などで、いわゆる良質なシンガーソングライターとして知られていたこれまでの立ち位置から、メインストリームを代表するポップアーティストへと認識が変わっていったのである。エドは前々作となる『×(マルティプライ)』のシーズンが一段落したタイミングでも同様に休暇を取っているが、今回の休暇はより重要で、かつ意味のあるものだったに違いない。そして2021年、最新作『=(イコールズ)』(10月29日リリース予定)と共に、遂にエド・シーランが本格的に表舞台へと帰ってきた。
目まぐるしく移り変わるメインストリームの中で長期間に渡って姿を隠すという選択は、ソーシャルメディアがもはや一つの前提となった現代では、すぐにその存在を忘れられてしまうという危険性を持つ。だが、普遍的な魅力を持つ彼の音楽の前では、その心配は無用だったようだ。先行シングルとして6月に発表された「Bad Habits」はすでに今年を代表する大ヒット曲となっており、全米チャートでは初登場2位を皮切りに(※1)、カニエ・ウェストやドレイクの新作といった大きなリリースが相次いだ夏を経てもなお上位をキープし続け(9月末時点)、全英チャートに至っては11週連続1位を記録し、続く新曲としてリリースされた「Shivers」に首位のバトンを繋いでいる(※2)。再び世界中が彼の音楽に対して中毒症状を引き起こしているのだ。アルバムリリース後には、この喧騒はさらに大きなものになっていることだろう。
また、実は彼が復帰したのは自身のアーティスト活動だけではない。デビュー以来継続的に続けてきた、One Direction「Little Things」(2012年)やジャスティン・ビーバー「Love Yourself」(2015年)に代表される外部のアーティストへのソングライティングについても、今年に入ってから非常に活発に行っているのである。それも、イマンベックやデヴィッド・ゲッタといったDJ/プロデューサーと組んだダンスミュージック色の濃いリタ・オラ「Big feat. Gunna」から、透明感のある仕上がりが印象的なポップスであるアン・マリー「Beautiful」、そしてなんとONE OK ROCKとのタッグとなる壮大なロックバラード「Renegades」など、ジャンルも形態も全く異なる多種多様なアーティスト/楽曲に参加して、そのソングライティングスキルを発揮しているのだ。
そんな外部のアーティストへの楽曲提供の中で最も印象的なものと言えば、やはり二度目のコラボレーションとなるBTSとの「Permission to Dance」だろう。エド自身の楽曲にも参加しているSnow Patrolのジョニー・マクデイドらとのチームで制作された同曲は、BTSメンバーの美しい歌声と、エドらしい突き抜けてキャッチーなメロディ、心地よく跳ねるリズムの相性が抜群。「踊っていいんだ」というBTSらしいポジティブなメッセージも相まって、YouTubeではMVが3億回再生超え(9月末現在)という大ヒットを記録。先日は国連でも同曲が披露されるほどの重要な楽曲となった。まさに理想的なコラボレーションだったと言えるだろう。
だが、やはりエド・シーラン自身の名義を冠した楽曲は特別だ。「Bad Habits」は空間を美しく彩るようなギターの音色と、彼の美しくエモーショナルな歌声に魅了されたかと思えば、一転して不穏なビートが深く鳴り響くフロアへと突き落とされるという展開が、強烈なインパクトを与える楽曲だ。楽曲の展開自体が、「どんなに純粋な意思を持っていたとしても、夜になると自分自身の悪い習慣のせいで何もコントロールすることができなくなってしまう」というリリックの内容と呼応しており、その物語へと引き込まれていく。また同曲は、(特にUKで大きなムーブメントとなった)ハウスミュージックを下地とした近年のポップソングのトレンドを踏まえたサウンドとなっており、ジョナス「Black Magic」やJoel Corry x Jax Jones「Out Out feat. Charli XCX & Saweetie」といった楽曲と並べて楽しむことができるようになっている。「Shape of You」も当時流行していたトロピカルハウスを意識したサウンドとなっており、同時期のダンスミュージックフェスティバルを中心に頻繁にプレイされるという現象を巻き起こしていたが、今回も見事に時代に併せてアップデートしたポップソングを作り上げたというわけだ。