エド・シーラン、シンガーソングライターとしての自信と矜持 ギターと歌で臨んだ日本武道館公演

エド・シーラン、武道館公演レポ

 イギリスのシンガーソングライター、エド・シーランが昨年3月にリリースした3rdアルバム『÷』(ディバイド)を携え、4月11日には大阪・大阪城ホールで、13日、14日には東京・日本武道館でジャパンツアーを開催した。

 元々このジャパンツアーは、昨年10月〜11月に同会場にて行うはずだったもの。しかし、自転車事故により右手首と左肘を骨折したため、日本公演を含むアジアツアーの一部が延期となっていた。文字通り「待ちに待った公演」に、チケットはどこもソールドアウトを記録した。

 筆者が観たのは最終日。定刻の18時ぴったりに客電が落ち、アコギを抱えたエドがステージ袖からひょっこりと姿を現し軽く手を振ると、おもむろに弦をかき鳴らす。まずは『÷』から先行シングルとなった「Castle On The Hill」を披露。足元に置かれたループステーションを使い、次々とフレーズを重ねていくたび会場からは大きな歓声が巻き起こる。イギリスのサーフ&スケートブランド、「HOAX(ホラ、いたずらの意)」のロゴが入った黒いTシャツにジーンズという、全く気取ったところのないラフな出で立ち。ステージ上にはモニター用のスピーカーとマイクスタンド、ループマシンのみ。「殺風景」といってもいいくらい超シンプルなセットからは、「ギターと歌だけで充分」という、シンガーソングライターとしての彼の自信と矜持がうかがえる。

「今日はマイクとギター、それからこのループステーションだけで演奏するよ」

 そう短く挨拶すると、続いて「Eraser」を演奏。アコギのボディを叩いてリズムを組み立て、コードやリフを重ねた4小節のフレーズをループさせながら、ハンドマイクでステージをのし歩きながらラップを繰り出す。この曲をはじめ、2ndアルバム『x』(マルティプライ)収録の「Don't」や「The Man」、あるいは本作収録の「Galway Girl」など、セットリストに並んだ多くの楽曲をループステーションで演奏していたエド。つまりそれらの楽曲は、4小節単位のコード進行の繰り返しでバースもコーラスもコーダも、多くてせいぜい2、3のセクションで成り立っているということだ。アコギの弾き語りという、これ以上ないほどミニマルなアレンジで演奏されているにも関わらず、強烈にヒップホップを感じたのは、そういう楽曲の仕組みにも起因しているのだろう。

 シンプルなステージとは対照的に、パネルを使ったバックスクリーンの映像は、とにかくカラフル。例えば「The A Team」では、新宿歌舞伎町を思わせる夜のネオン街が映し出され、かと思えば「Don’t」〜「New Man」のメドレーでは、スマホの絵文字をコラージュする。中でもエドの演奏をリアルタイムでスクリーンに投影し、イラストやフレームなどでデコレートしていく、「 I’m a Mess」や「Photograph」などにおける演出は、明らかにインスタストーリー以降のセンスだろう。そして、そのステージをオーディエンスがスマホで撮影し、SNSに上げていく「メタ現象」が面白かった。

「アメリカやイギリスでは、ライブは酒を飲むためのBGMというか。ちゃんと聴いてもらえないこともあるけど、日本人はみんな真剣に耳を傾けてくれる。そんなオーディエンス、他にいない。初めての経験で最初は驚いたよ!」

 笑顔でそう話し、日本のファンに敬意を表するエド。ニーナ・シモンの「Feeling Good」を「I See Fire」と繋げた、ソウルフルかつエモーショナルなメドレーや、しっとりとしたオープニングから徐々に音が重なりドラマティックなエンディングを迎える「Photograph」、唯一エレキギターに持ち替えロマンティックに歌い上げた「Thinking Out Loud」など、随所で趣向を凝らし飽きさせない。そして、本編最後は「Sing」を演奏。オーディエンスに延々シンガロングをさせたままステージを去るという、茶目っ気たっぷりの仕掛けが会場をさらに一体にする。アンコールではサッカー日本代表のユニホームで登場し、日章旗を背負ったり、振り回したりしながら「Shape of You」と「You Need Me, I Don’t Need You」を披露した。

 ブリティッシュフォークをルーツとしながら、オールディーズやリズム&ブルース、さらにはヒップホップのエッセンスまで取り込んだエドの、「ソングライター」としてのコアな部分を「アコギと歌」というスタイルで浮き彫りにした、非常に意義深い内容だった。

(写真=岸田哲平)

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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