エド・シーラン、勢い止まぬ『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』音楽ライター2氏が全曲解説
エド・シーランが、ジャスティン・ビーバーやブルーノ・マーズ、エミネムら22人の大物ミュージシャンとコラボしたアルバム『No.6 コラボレーションズ・プロジェクト』(7月12日リリース)は、アメリカ、イギリスのアルバムチャートで1位を獲得。リリースから2カ月弱となる8月30日には、ストームジーとのコラボ曲「テイク・ミー・バック・トゥ・ロンドン」がUKシングルチャートで1位を記録するなど、長きに渡り親しまれるエド・シーランの新たな代表作の一つとなっている。今回リアルサウンドでは、音楽ライターの森朋之氏と黒田隆憲氏による本作の全曲クロスレビューを行った。まだまだ勢いが止まらない各楽曲を深く聴き込むためのガイドとして活用してほしい。(編集部)
M-1「ビューティフル・ピープル(feat.カリード)」
2ndアルバム『フリー・スピリット』が全米アルバムチャートで1位を記録。今年の『コーチェラ2019』のステージにビリー・アイリッシュ、マシュメロなどが登場したことでも話題を集めた1998年生まれのR&Bアーティスト・カリードをフィーチャーしたこの曲は、〈We are,We are,We are〉というチャントからはじまるミディアムチューン。ドープなキック、ハンドクラップ、浮遊感のあるシンセを軸にしたトラックとともに描かれるのは、“セレブリティの生活にどうしても馴染めない僕たち”の姿だ。オープンカー、ブランドの服、シャンパンに溢れたセレブに囲まれながらも、“もう帰ろう 僕らはそうじゃない 美しくない”と歌うこの曲には、エドとカリードの本心が反映されているのだろう。しなやかでスムースなグルーヴを響かせるカリードのボーカルもこの曲の大きな聴きどころだ。(森朋之)
M-2「サウス・オブ・ザ・ボーダー(feat. カミラ・カベロ & カーディ・B)」
ウッディなシンセサウンドと、歯切れ良いアコギのカッティングが有機的に混じり合うオリエンタルなループフレーズに乗せて歌われるこの曲は、キューバはハバナ生まれでフロリダ州マイアミ出身のシンガーソングライター、カミラ・カベロ(元Fifth Harmony)と、ストリートギャング「ブラッズ」のメンバーやストリッパーの経験を経て2017年にデビューを果たしたヒップホップアーティスト、カーディ・Bとのコラボ曲。ちなみにカミラもカーディも今年のグラミー賞に複数ノミネートされ、授賞式にも出演しパフォーマンスを披露している。実は、エドとカミラのコラボはこれで2度目。彼女のデビュー作『カミラ』に入るはずだった最初の曲「ザ・ボーイ」は残念ながら未収録となったため、本人たちにとっても双方のファンにとっても、これは悲願の1曲といえよう。何か起こりそうな予感に満ちたメロディと、歯切れの良いラップのコントラストが印象的だ。(黒田隆憲)
M-3「クロス・ミー(feat.チャンス・ザ・ラッパー & PnB ロック)」
シカゴ出身のチャンス・ザ・ラッパー、フィラデルフィア出身のPnB ロックという、現在もっとも大きな注目を集めているラッパーとの共演が実現した先行シングル。トラップ以降の新たな潮流を予感させるトラック、ポピュラリティと先鋭性を併せ持ったふたりのラッパーのフロウ、そして、エドの超キャッチーなメロディセンスがバランスよく共存したヒップホップナンバーだ。シカゴソウル、フィラデルフィアソウル、イギリスのフォークロアが混ざり合うことで生まれる、豊穣で奥行きのあるハーモニーがこの曲の軸だろう。リリックのテーマはずばり“俺の女に手を出すな”。彼女は浮気なんかしない、彼女を裏切ることは俺を裏切ること、俺がいつもそばにいるんだ、わかるだろう? とけん制し合い、ときに脅すようなやり取りも刺激的(そして、ちょっとカワイイ)。(森朋之)
M-4「テイク・ミー・バック・トゥ・ロンドン(feat. ストームジー)」
今年の『グラストンベリー・フェスティバル』でヘッドラインを飾ったストームジー。バンクシーが特別に制作したというユニオンジャック柄の防刃ベストを身に纏い、全英チャート首位を記録したデビューアルバム『ギャング・サイン&プレイヤー』からの「ブラインデッド バイ ユア グレイス Pt.1」では、クリス・マーティン(Coldplay)とデュエットするなど圧巻のパフォーマンスを見せつけた彼が、この曲では得意の早回しラップを披露している。これに先駆けエドとストームジーは、ラッパーのレッチ 32やエーオン・クラークとともに、ゴスペル色の強い名曲「ブラインデッド バイ ユア グレイス Pt. 2」をアコースティックバージョンでカバーしYouTubeで配信するなど交流を深めていた。ストリングスのピチカートをフィーチャーしたスリリングなグライムトラックの上で、ストームジーに負けじと“組んず解れつ”の高速ラップに挑戦するエドにも注目。(黒田隆憲)
M-5「ベスト・パート・オブ・ミー(feat.イエバ)」
アコースティックギターとピアノを中心としたオーガニックなサウンドとともに奏でられるのは、“僕のいちばんいい部分(BEST PART OF ME)は君なんだ”という純粋にして誠実な愛の言葉。女性側の“一体、どうしてこんな私を?”という思いを含めて、本作におけるもっともピュアなラブソングだ。ゲストシンガーのイエバはアメリカ中部のアーカンソー州出身。マーク・ロンソンの「ドント・リーブ・ミー・ロンリー」、サム・スミスの「ノー・ピース」などにフィーチャーされたことでも知られる女性シンガーソングライターだ。エド自身が彼女のオリジナル曲に感銘を受け、自らのレーベルに迎え入れたとあって、両者の相性は抜群。生楽器を活かしたアレンジ、素朴で奥深いハーモニーなど、カントリーミュージックの魅力をたっぷり堪能できる楽曲である。(森朋之)
M-6「アイ・ドント・ケア(with ジャスティン・ビーバー)」
朋友ジャスティン・ビーバーとのコラボ曲。ご存知の通り2人の共作はこれが3度目で、これまでにジャスティンの「ラブ・ユアセルフ」を共に作詞作曲、ジャスティンがデンマークのシンガーMØ(ムー)と共にフィーチャーされたメジャー・レイザーの「コールド・ウォーター」に、エドもコンポーザーとして参加するという形で実現してきた。女優セリーナ・ゴメスへの「決別宣言」でもあった「ラブ・ユアセルフ」はグラミー賞にノミネート。他にも、ジャスティンがドタキャンしたウェンブリー・アリーナでのチャリティーコンサートにエドが代役で出演したり、ジャスティンの新作カウントダウンビデオにエドが登場したりと浅からぬ間柄の2人。そんな彼らによる久しぶりのコラボ曲は、強烈なシンコペーションのリズムに乗せベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」と同じコード進行を繰り返す中、どこか切なく懐かしいメロディを仲良く歌うポップチューンだ。(黒田隆憲)
M-7「アンチソーシャル(with トラヴィス・スコット)」
出身地であるヒューストンを中心にサウスへの愛着をダイレクトに示したアルバム『アストロワールド』のヒットにより、世界的なブレイクを果たしたトラヴィス・スコット。現在もっとも有名なセレブリティのひとりであるカイリー・ジェンナーとの結婚、ナイキとのコラボスニーカーも話題となっているトラヴィスをフィーチャーしたこの曲は、サウスの代名詞とも言えるトラップ系のヒップホップナンバー。バウンシーなビートとソウルフルなボーカル、濃密なグルーヴをたたえたフロウがひとつになった快楽的なトラックだ。歌詞の内容は(曲名通り)、“俺に触るな。ほっといてくれ”。アルコール、ドラッグとともに“ひとりの夜を過ごしたい”と願うーーその根底にあるのは、どうしても拭い去ることができない孤独だ。(森朋之)
M-8「リメンバー・ザ・ネーム(feat. エミネム & 50 セント)」
2017年にリリースされたエミネム通算9枚目のアルバム『リバイバル』は、ポップミュージック寄りのアーティストとの異色のコラボが話題となったのも記憶に新しい。中でもエドが参加した「リバー」は、不貞を行なった青年の心情をエドが歌い、その青年の彼女がエミネムと浮気して中絶するまでの壮絶な復讐劇を、ミュージックビデオとリンクさせて表現するという衝撃的なものだった。今回、50セントことカーティス・ジェームズ・ジャクソン三世と共にコラボを行なった「リメンバー・ザ・ネーム」は、跳ねるようなリズムに乗った、不穏でジャジーなトラックの上で、“東京”、“ナイン・インチ・ネイルズ”、“バレンシアガ”といったワードを散りばめながらギャングスタ風のラップを交互に披露している。ちなみにエミネムは今年7月にトゥイッケナム・スタジアムで開催された自身のステージに、エドと50セントを招待。3人で撮影されたセルフィーも話題となった。(黒田隆憲)