ビリー・アイリッシュの5年間を辿る【後編】 2ndアルバムで迎えた新たなフェーズ、ポジティブなメッセージを与える存在へ

ビリー・アイリッシュの5年間を辿る【後編】

 本稿執筆時点でビリー・アイリッシュのInstagramのフォロワー数は約9000万人にものぼる。これは同プラットフォームにおいて33番目に多い数字(2021年8月時点)であり、それはすなわち、彼女の発言の一つひとつが世界的に絶大な影響を与えることを意味している。フォロワーの多くは彼女と同世代の若者、いわゆる“Z世代(90年代半ばから00年代終わりまでに生まれた世代)”として括られる層であり、ビリーは2019年における絶大なブレイクを経て、やがてこの世代を代表するアイコンとして取り上げられるようになった。つまり、彼女の発言や行動、そして(多くの大人にとって不明瞭な)“Z世代”という概念がイコールで結び付けられるようになっていったのだ。

 ビリーは早い段階から、自分の行動が同世代に大きな影響を与えることに自覚的であり、同時に、自分たちの世代が持つ可能性を強く信じていた。2019年の『NME』誌のインタビューで、彼女は次のように語っている。

「ティーンエイジャーは、私たちが今生きているこの国について、誰よりもよく知っている」(※1、筆者訳)

 それは、彼女の実際の行動にも強く表れている。2018年、当時の彼女はまだ17歳という選挙権を持たない年齢でありながらも(米国では18歳以上が対象)、同年の米国における中間選挙に向けて、自身の故郷であるロサンゼルスにてエリック・ガルセッティ市長と共に学生に有権者登録を促すキャンペーンに参加している(※2)。1stアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』に収録された「all the good girls go to hell」は〈Hills burn in California(カリフォルニアでは丘が燃えてる)〉というリリックからも分かる通り、現在、世界的にも社会問題となっている気候変動をテーマとした楽曲だ。ビリーは政治や社会問題に対する自分の考えを臆することなく、積極的にSNSや実際の行動、そして楽曲やミュージックビデオなどの制作物を通して発信し続け、同世代を筆頭に強い支持を集め続けている。

Billie Eilish – all the good girls go to hell

 一方で、名声を得たポップアーティストは、時として、顔も見えない世界中の人々から厳しい声を浴びせられる運命にある。ビリーも例に漏れず、「なぜそんなに暗いテーマを扱うのか」「まだ若いのに政治を語るなんて浅はかだ」など、様々な批判を受けてきた。中でも特に議論の的となったのが、彼女のファッションスタイルである。当時のビリーと言えば、自身のボディラインを覆い隠すほどのダボッとしたオーバーサイズのファッションが印象的だが、このスタイルについて、2019年のCalvin Kleinのキャンペーンに出演したビリーは次のように語っている。

「私は自分のことを誰にも知られたくない。だから大きめのダボっとした服を着ている。この服の下に隠れているものを見なければ、誰も意見を言うことなんてできない」(※3、筆者訳)

 だが、それでも人々は「なぜ体型を隠すような服を着るのか」など勝手なことを言う。前述の『NME』誌のインタビューにおいて、この状況についてビリーは次のように指摘する。

「もしあなたが女性アーティストでなければこのようなことを考える必要はないだろうし、もし私が男性だとしたら、ダボっとした服を着ても誰も気にしないでしょう」(筆者訳)

 一見すると単なるファッションスタイルを巡る議論に思えるかもしれないが、そこには長年に渡って存在している、“らしさ”を強要し、服装で性格や嗜好を決めつけ、若い女性を消費するという性差別的な背景がある。2020年3月よりスタートした1stアルバムのツアーでも上映されたショートフィルムは、同年5月にインターネット上で公開され、2ndアルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』にはそのオーディオトラックが収録された「Not My Responsibility」は、そういった状況を明確に批判し、〈We decide who they are. We decide what they’re worth(私たちが自分という人間を決める。私たちがその価値を決める)〉と宣言する作品であり、本稿執筆時点で約3,500万回再生されている。

Billie Eilish – NOT MY RESPONSIBILITY – a short film

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